ヤマトリアルのいいところを話しましょう
昼下がり。
地下二階の探索で皆疲れたからという訳ではないのだろうが、健一以外はお客さんとのマッチングがなくて、残りの勤奉生達は控室で待機と言うか、だらけていた。
「あんなぁ、東アメリカってどんなとこやの?
やっぱりヤマトリアルとは全然違うん?」
テーブルにべったりと突っ伏した奈々美が、あまり興味を感じさせない声でマイケルに尋ねた。
沈黙を嫌っただけで、さっきから奈々美は頭に浮かんだことをそのまま口に出しているようだ。
裕太達は海外に出た経験はなく、あまり興味もないというのが実情だ。ヤマトリアルが素晴らしいところだと教えられて、漠然とそれを肯定していた。
「そうですね、周りから思われてるほど酷いところじゃないです。
食べるのには困らないし、普通に暮らしていれば犯罪に巻き込まれることもありません。世界的に見たら過ごしやすい方でしょう。
ただヤマトリアルとは全然違いますね。想像以上に凄いです」
「そんなに?」
「ええ、例えばニュースのトップなんて人が死んだ話ばかりです。誰が誰を殺したとか、どんな事故で何人死んだとか」
魔法で蘇生が可能なヤマトリアルでは、死亡事件のニュースバリューは低い。殺人事件も無いわけではないが、被害者がすぐ生き返るので計画殺人の意味がなく、犯罪者以上に多くの推理作家を困らせていた。
「それに犯罪自体がすごく少ないですね」
探査魔法のおかげで盗んでも誘拐してもすぐ見つかるし、制度がトリアル式に整えられたおかげで横領も起きにくい。ヤマトリアルでは、かつてより犯罪を犯すリスクが高いのだ。
ただ犯罪率の低下はそれだけが原因ではない。ヤマトリアルが建国してから数年、犯罪者の分布に大きな変化があった。
トリアル式の魔法捜査と日本式の科学捜査を組み合わせて、新たな操作方法が確立された。それを利用して、まずは積み上げられていた未解決事件が次々と解決された。行方不明者は探索魔法で簡単に見つかるし、残っている証拠から持ち主や更に関連の高い証拠品を見つけることも可能だ。そうやって見つかったものを更に探査することによって、まさに芋づる式に真実が暴かれていった。
もちろん過去の事件ばかりでなく、現在進行形の様々な犯罪にも適応された。
例えば満員電車で痴漢被害が訴えられたとする。被害部分から探知の魔法で接触者を特定するのは容易い。接触が認められなければ嘘か勘違いであるし、接触の度合いから事故か故意かも判断できる。
犯罪があったという疑いさえあれば、必ず真実にたどり着けるようになったのだ。
これは職業的犯罪者にとって悲報でしかなかった。
ヤマトリアルが建国してから三年間で、起訴されたままその領土を抜け出した者は一万人弱であり、尻尾を掴まれる前に逃げ出したものは少なくともその三倍はいたと推測される。そうした連中は当然ブラックリストに乗り、再びヤマトリアルに舞い戻れば領土結界の探査に引っ掛かりお縄となる。
百件の犯罪があれば百人の犯人がいるわけでなく、大体は同じ人物が何度も犯行を繰り返しているものだ。四万近くの犯罪者が逃げ出せば、それだけ平和になるのは道理にかなっていた。
悪いことをすれば必ずばれる、それがヤマトリアルでの常識である。
「こっちでニュースゆうたら半分は天気の話やしなぁ」
平和なことはいいことだ。ただニュースはちょっとばかり退屈かも知れない。
「後は、みんな親切ですね。とても優しいです」
「ああ、それはヤマトリアルゆうか、大和の特徴かもしれへん。うちも沖縄から大阪に来たときにそう思たもん。裕太かてそうちゃう?」
「うん、確かに山形よりみんな親切・・・・・・ええっ、沖縄の人なの?」
奈々美の質問に素直に答えているうちに、乗り突っ込みになってしまった裕太。
「そやで、ゆってなかった? うち中学の時にこっちに越して来てん。
沖縄も仕事なくなっていろいろ大変やったから」
アメリカが東西に分裂したことが主な原因で、沖縄からはなし崩し的に米軍が撤退した。沖縄にしてみれば念願かなったという形だが、同時に助成金も手に入らなくなった。
さらに犯罪行為に手を染めていた悪質な活動家や、彼らと癒着していた政治家の裏事情も新方式の捜査で明るみに出て、沖縄は政治と経済の両面から大打撃を受けることとなり、一時はヤマトリアルから脱退するかという騒ぎになった。
奈々美が越して来たのはその頃だ。
魔法を利用してメタンハイグレードの採掘に成功し資源国となった九州地方や、トリアルからの移民を多く受け入れて医療分野と森林開発で潤った四国地方、経済と魔法の分野で中心地となった大和地方など、多くの地域はヤマトリアルの恩恵を受けていたが、どんなものにも例外はあるということだった。
政治家をごっそり入れ替えた現在では、沖縄も徐々に景気が上昇している。まあ政治家の入れ替えは大和の首相ファラステラを例に出すまでもなく、ヤマトリアルの各地で起こっていたことであり、沖縄が遅すぎただけなのだが。
「沖縄もマシになってきて、親は帰ったんやけどな。うちはもっと魔法学びたかったし、ぶっちゃけこっちの方がうちにあってると思うから、今は寮生活やねん」
見かけによらず、奈々美も色々と苦労しているようだった。




