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梅田環状地下トンネルって地下何階ですか

「今日はちょっと趣向を変えて、もう少し本格的なダンジョン探索を体験してもらおうと思うのよ」

 勤奉も二週目。もう恒例になった朝の魔物数調整とトイレ掃除を終わらせた後、シノがそんなふうに切り出した。

「本格的?」

「ええ、今から地下二階層へ探索しに行くわよ」

 地下十階層まである梅田ダンジョンだが、観光客用に調整されている地下一階とそれ以外ではまるで様相が異なる。具体的には、出現する魔物の種類と強さが全然違う。

 ゲームなら推奨レベルに従えばいいが、現実世界では自分がどの程度のレベルなのかはイマイチ分からない。新たな挑戦というのは楽しみでもあり、不安でもあった。

「ところで地下二階って、何処へ行くんですか?」

 裕太の素朴な質問は、実はいろいろと深い問題をはらんでいた。


 梅田ダンジョンでは、かつての地下街を再現したのが地下一階だ。しかしどの部分を地下二階と呼ぶのかは諸説ある。

 梅田の地下にダンジョンを作ると決められた時、梅田につながる地下鉄の路線も当然封鎖された。それらの路線は、旧梅田駅を迂回するようにして新梅田駅に統合されたのだが、かつての梅田各駅も地下街が再建された時に再現されている。

 ただ駅は再現されても、路線はそのままという訳にはいかなかった。

 本来は梅田の外に伸びていた各線の地下トンネルは、今は梅田地下で各駅の路線がつながるように再構築されている。

 つまり御堂筋線の梅田駅から伸びる線路に沿って歩いていくと阪急梅田駅に辿り着き、そこから四つ橋線の西梅田駅へつながり、北新地駅を経て、谷町線の東梅田駅へ行き着く。更に進むと御堂筋線の梅田駅へ戻ることになる。

 トンネルには線路が設置されているが、当然電車が走ることはない。地下街との兼ね合いでアップダウンが激しく、電車を走らせるのは物理的に無理だろう。

 その線路の上を走るのは瘴気から発生した魔物の群れであり、それを狩る冒険者たちである。

 この梅田環状地下トンネルが梅田ダンジョンの地下三階部分だ。

 それに対して、各駅のホーム部分を地下二階と呼ぶ説がある。

 ただご存知の通り、駅のホームと線路というのは境目がなく開放されている。つまり魔物も自由に行き来出来る訳で、魔物の分布的にはホーム部分と路線部分に違いはない。同じ魔物が出現する以上、ダンジョン的にホーム部分と路線部分を分けて考える必要なんて無いのではないかという意見もあり、ホーム部分を地下二階という人は少数派だ。

 ちなみに旧梅田各駅と地下街は当然つながってはいるが、普段は行き来できないよう封鎖されている。当初は魔物よけの御札を貼ったシャッターだけだったが、観光客が地下三階に迷い込むという事件があってからは鉄の扉が設置され、専用のパスが無いと開けないようになっていた。


 魔物の分布的に地下二階を定義するなら、ダンジョンビルの地下二階が一番ふさわしい。

 しかしダンジョンビルの地下二階は地下街と直に繋がっており、物理的には地下一階ではないかという人もいる。ダンジョンビルと地下街との連絡部分は魔物排除エリアで、魔物分布的には独立しているから話はややこしい。

「おやっさん、来たわよ」

 以前のように地下街との連絡通路を抜け、ダンジョンビル一階の受付で前回と同じようにシノが挨拶した。

「何しに来たんだ」

 シノとその後ろの裕太達をじろりと睨んで、受付のおやっさんがぼそりと言い、

「おせーよ、いつまで待たせてるんだよ」

 受付の隅で座り込んでいた冒険者風の男が、シノを見て勢い良く立ち上がって詰め寄る。

 要所を金属で補強した革鎧に、剣を装備しているので前衛のようだ。

 距離を詰める男をシノは手で制して、

「こいつはヤハギね。今日はフェイの都合がつかないから、代わりにサポートに入ってもらうの」

 裕太達に男を紹介しつつ、

「おやっさん、今日は地下二階へ行くから手続きよろしくね」

 どうやらシノ的には、ダンジョンビルの地下二階が、梅田ダンジョンの地下二階のようだ。

「地下二階って、そいつらまだ一週間しか経ってないだろが」

「もう二週目だし、それに今回は粒ぞろいだからね。実力は十分よ」

「それに俺様がサポートするしな。大船に乗ったつもりでいてくれよ」

 調子よく請け負うヤハギを無視して、値踏みするように裕太達を見たおやっさんが、

「装備くらい整えていけ。そのままじゃ許可は出さんぞ」

 地下一階用の装備では気に入らないらしい。

「じゃあこっちの職員用の装備、貸してもうわね」

 ダンジョンセンターでは観光客用に装備の貸出も行っているが、基本的に地下一階向けの軽装備しかない。職員の装備もそれに殉じている。

 下層向けの装備を借りるなら、ダンジョンビルの方が都合がいいのだ。ちなみにダンジョンビルの地上階には冒険者向けの店舗が多数入っていて、所持金が十分あるならそちらで装備を整えることも可能だ。

「それとな、地下三階のトイレの調子がまた悪くてな」

「また?」

「流石におかしいんで、今調査中だ。何かわかったらそっちにも連絡する」

 ダンジョンのトイレは重要である。おやっさんの情報共有に、シノは了解と頷いた。

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