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いったい何がはじまろうとしているのですか?

 控室の片隅で、二人は額を突き合わせていた。

「やばいな・・・・・・」

「・・・・・・やばいね」

 健一と裕太が覗き込んでいるのは、二人の残高リストだ。

 美味しい食べ物に、楽しい場所。高校生の二人にとって梅田は誘惑の多い場所だ。

 二度と経験出来ない高一の夏休み、せっかくだからと満喫していたら、あっという間に軍資金が底をついた。勤奉の支払いは一週間単位だが、振込にはまだ三日ある。

 そして明日は休暇である。せっかくだからどこかに遊びに行こうと言う話になって、二人は事態に気づいたのだ。


 宿泊費は必要ないし、食費もセンターや宿舎の食堂なら勤奉生はタダである。宿舎のライブラリも充実しているので、暇を潰すネタも十分だ。

 慎ましく生活するだけなら、勤奉中は困ることはない。だがそれでは遊び盛りの少年達にとって、あまりにも悲しい。

 揃ってため息をつく二人。

「お困りのようですね」

 二人の頭の間に、にゅるんという感じで突然フェイが割り込んできた。

 思わぬ事態に一瞬反応できなかった二人が、あまりの距離の近さに慌てて飛び退く。コフュースルな分、耳先が二人の頬を突くほどの距離だった。

 ついつい忘れがちになるが、見かけだけならフェイは綺麗なお姉さんなのである。

「悩み多き二人に、いいお話があるのですよ」

 二人の様子など気にもせず、フェイがお気楽に続ける。

「実は今、ちょっとしたお仕事のお手伝いを募集中なのです。明日一日おつきあいしてくれれば、取っ払いでこれだけゲットなのです」

 指を立てて示した金額は、一日の報酬としてはかなり魅力的だ。勤奉の給金振込まで、お金に困ることはなくなるだろう。

 裕太と健一は顔を見合わせて・・・・・・フェイの後ろにシノと奈々美がいるのに気づく。

 二人と目があって、奈々美は慌てて視線をそらし、シノが苦笑いの表情で固まっていた。次の瞬間に、何かをごまかすようにぎこちなく二人に手を振って、いたたまれないかのようにくるりと部屋から去っていく。奈々美も急いでその後に続いた。

 ・・・・・・

 あまりにも不吉である。

 ただ本当に危険なことなら、流石にシノが止めるだろう。シノ達の様子から苦労するのは確実なのだろうが、金額的には少々の困難なら十分に釣り合う。

 それに財布に冬が来ている二人に、他に選択肢もありはしなかった・・・・・・


 待ち合わせ場所は、宿舎近くの無線道標だった。

 何ごとにも便利な魔法だが、その大きなデメリットが電波と干渉することである。

 ヤマトリアルは領土結界を隈なく張り巡らせている為、領内なら何処であろうとこのデメリットと向き合うことになる。室内用の無線程度ならあまり問題ないが、数百メートルという距離なら電波は諦めた方がいい。

 領土結界の効果は、ヤマトリアル所属の魔法師の呪文効果を五%程度高め、それ以外の魔法師の呪文効果を五%低める。

 これはヤードゥやテンクの魔法師が、転移魔法で領土内に侵入してくる防ぐ抑止力として存在していた。呪文が失敗する可能性がある場所へ転移魔法を使うことは、あまりにも危険だからだ。ほんの少し転移場所がずれただけで、壁や地面に埋まることになりかねない。

 万一危険を犯して侵入してきても、領土結界のおかげですぐ感知可能だ。領空侵犯してくる飛行機やミサイルの感知にも使えるため、デメリットを覚悟してでも維持する利点はあった。

 勿論、ヤードゥも同じことをしているので、ヤマトリアルから彼らの領土へ転移することはできない。 かつてアメリカとイギリスが放った核弾頭ミサイルを、ヤードゥが難なく察知したのも領土結界の成果だろう。

 このデメリットを補う為に、ヤマトリアルでは税金を投入してあちこちに近距離無線用のスポットが設置されていた。それが無線道標である。


 普段ならまだ寝ている時間、裕太と健一は覚醒しきっていない顔で待ち合わせ場所に突っ立っていた。時間ピッタリのタイミングで、ワゴンタイプの自走車がそこへ滑り込んでくる。

「おはようです」

 ドアがスライドして、朝から無駄に元気なフェイが手を降っている。助手席に鎮座している使い魔のミツメフクロウも、それに合わせるように羽根をパタパタしていた。

 そんなフェイとフクロウに、半分魂が抜けたままで挨拶を交わし、フェイが手招きするままにワゴンへ乗り込んだ。後部座席は二人の分以外は倒されており、恐らく今日の仕事で使うのであろうプラスチック製のケースがぎっしりと積み重ねられていた。

 昨日はフェイから仕事の内容を聞き出そうとしたが、なんだかんだとはぐらかされて、結局何をするのかまったく分かっていない。ただ順調に行けば昼過ぎには終わるらしい。


「あれ、この車ってハンドルがついているんですね」

「今日は遠出しますからね、自動運転だけでは駄目なのです」

 鼻歌まじりで、フェイが裕太の疑問に答える。

 梅田周辺はほぼ運転禁止エリアなので、裕太達がたまに使っている街乗り用のタクシーには初めからハンドルがない。この数日でそれにすっかり慣れてしまったので、ハンドルがついている方が逆に違和感を覚えてしまう。裕太の住んでいる山形だと自走エリア自体がほとんど無いので、むしろハンドルが当たり前なのだが、人間というものは便利な方にすぐ慣れてしまうらしい。

 ・・・・・・

 って言うか、誰が運転するんだろう・・・・・・裕太と健一がまだ未成年で免許が持てない以上、答えは分かりきっているのだが、何となくその答えには辿り着きたくない裕太だった。

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