ある騎士様のお話
その騎士様は、ずっとずっと姫を守ってきました。
強く、気高く。
だけど、少しだけ他の騎士と違っていたのは、
彼は、姫よりもずっとずっと小さく、
そして、いつも敵に背中を向けていることでした。
だから、彼はずっと背中に、敵の攻撃を受け続けていました。
背中を向けたまま、それを防ぐことはできません。
だから、彼の背中は酷く傷ついて、
傷跡は深く、幾重にも連なって。
それでも、彼は笑顔でした。
姫にずっと笑顔を見せ続けることが、彼の使命だと、
そう信じていたからです。
姫は、一度だけ彼に聞いたことがあります。
「背中を傷だらけにしてまで、あなたはどうして私を守ってくださるのですか?」
騎士様はこう答えました。
「それが私がここにいる理由だからです」
背中に傷を受けるのは恥だ、と、彼の仲間は言いました。
それは敵から逃げるときに受ける傷だからだ、と。
でも、彼はそんな声に耳を貸すことなく。
ただ姫が無事でさえあればいいと。
ただ背中の痛みに耐え続けました。
やがて世界が安定し、ようやく姫を襲う敵が居なくなったころ───
彼はとうとう力尽き、
けれど、姫の方に向けたままの顔はとても穏やかでした。
姫は彼の死を大層悲しんで、涙を流しました。
それは集まって大きな水溜りをつくり、
いつしか、そこには命が宿り、
そして、わたしたちが生まれました。
夜空を見上げると、いつもそこには、騎士様の姿があります。
穏やかな笑顔でわたしたちを見下ろしています。
こちらからは見えないけれど、その背中には、沢山の傷があり、
今でも、わたしたちを守ってくれているのです。
本文を読んだ後、是非、以下を開いて、彼の背中を確認してみてください。
きっと驚きますよ。
http://gisstar.gsi.go.jp/selene/kaguyacesium/kaguya3D.html