18 研究
ちょっと色々あって遅くなりました
あかり達と別れた後、図書室に向かった。
30層を、攻略した時に足りなかったスキルなどを、少しずつでも作ろうと思う。
ただ、魔力自動回復があるとはいえ、1日にそんなに数は作れないので少しずつだが。
あの時必要だと感じたのは、罠解除のスキルと状態異常回避のスキルだったので、それを優先で考えてみた。
罠の解除は、罠を解除する仕組みなどはわからないが、盗賊キャラなどを思い浮かべて想像したら作れた。
ただ、レベル不足なためか複雑な罠は解除出来なさそうである。
状態異常無効は、全無効を作ろうとしたがレベルが足りないのか上手くいかず、とりあえず毒が効かないキャラを想像して毒無効だけを作った。
ついで、今後必要になりそうな魔法やスキルを考えてみた。
回復魔法はまだ初級だったが、少し威力が上がったように感じた。流石に、部位欠損や生き返らせる魔法は無理そうだ。そもそも、生き返らす魔法はあるんだろうか?
魔法辞典とか見ても載ってなかったんだよな。
そして、ワープなどの空間移動の魔法これもレベル的に難しいようだ。
そもそも、ワープ系の魔法自体超上級魔法に入るようなので、まだ色々厳しそうだ。
防御系のスキルは、なんでも防げるバリアーや結界はまだ無理だった。
とりあえずのスキルとして、防壁を作るスキルを作った。ただこれは、その場だけで一方向のみという、その場しのぎな防壁だった。
レベルが上がったら、全方向や魔法無効、反射なども作りたい。
攻撃系のスキルとして、ゴムパンチとか想像したが、なんか色々怖いので止めといた。
当面のスキルとして、前に漫画で読んだ、剣術や拳法の漫画を思い出して、剣術と体術を覚えることにする。
剣道ではなく剣術なので、剣士とかの称号の奴に、型だけでも教えるのもいいかも知れない。
ただ、低レベルの本なので、自分でしっかり使えるようになるには練習が必要なようだ。
それと、指からビームを、手からビームにして少し強くした。
また、肉体強化のスキルも低レベルながら覚えた。
本当は、紙を使う技とか想像したんだけど、この世界は紙が貴重なんで止めておいた。
各種魔法も、低レベルになるが少しずつ追加していく。
当面はこんなところか、個人的には料理漫画が好きなので料理スキルも取りたいが、魔力に余裕があるときにすることにした。
まあ、これだけの本を作るのに、魔力的に考えると4日はかかるからしばらくは余裕は無いけど。
と、色々と作る本のことなどを考えていたら、後ろから声をかけられた。
「水木君ちょっといいかな?」
あんまり聞かない声だなと思い振り返ると、そこには佐々木唯が立っていた。
「ん?佐々木か……どうしたの?」
普段接点が無い唯が、話しかけてきたことに多少驚くも返事を返した。
「水木君。スキルで本が読めるんだよね?こっちの本を読んでみたいから、時間あったら字を教えてくれないかなと思って……」
そういえば、唯も教室で本をよく読んでたなーと思い返し
「佐々木って、本好きだったんだっけ?」
と聞いてみた。
「そうなの。でもこっちに来て、時間あっても本を読めなくて寂しかったから……」
と悲しそうな顔で言った。
痛いほど気持ちが分かってしまったので、唯に字を教えてやろうと思った。
「付きっ切りで教えるのは無理だけど、今日は昼ぐらいまでは平気だよ。あと、五十音の早見表を作ってあげるよ」
「ありがとう!お願いします!」
唯はぺこりとお辞儀をして、和也の隣の席に座った。
(教えて貰いながら、水木君と本の話とか出来たら嬉しいな)
唯はそんなことを思いつつ、和也と唯の個人授業が開始された。
字を教えて1時間ほどたったところで、図書室にあかりと楓がやって来た。
「かずくん、そろそろお昼だよ。あれ?……佐々木さん?」
「佐々木さん?」
二人の目が、少し細められた。
なんか、少し怖い雰囲気を感じたため
「ああ、もうそんな時間か……そういえば腹減ったなぁ」
と微妙に話をそらしつつ、和也は二人に返事をした。
なんとなく変な空気を察したのか、唯は二人にあいさつをした。
「夢野さん神崎さん。こんにちは」
「こんにちは、佐々木さん」
「こんにちは」
女子はお互いにあいさつをしたが、あかりと楓の雰囲気がまだ少し悪い。
「佐々木さんは、こんな所でどうしたの?」
あかりが唯に聞いてみると、唯は事情を説明。
楓は、学校での唯を思い出し納得していた。
「そういえば、佐々木さんってよく本読んでたもんね」
「うん。だけどこっちに来て、本を読めなくて寂しかったんだ。それで、水木君に教わろうと思って」
唯の話を聞き、二人の雰囲気が普通に戻った。
(この二人って、別に威圧とか使えなかったよな?)
そんなことを考えながら、三人の話に耳を傾けた。
「ああそれで。佐々木さん……唯ちゃんて呼んでもいいかな?」
「はい!私も、あかりちゃんて呼ばせてね」
嬉しそうに返事をする唯に、楓も
「私も、唯ちゃんて呼んで良いかな?」
「もちろんだよ!楓ちゃん」
病気がちで、友達が少なかった唯にとっては嬉しい事だった。
(友達が増えて嬉しいな)
そんなことを思いつつ、新しくできた友達と話に花を咲かせた。
「唯ちゃんも、一緒にお昼行こうよ」
あかりはもうお昼だからと、当然の流れのように唯を昼食に誘った。
和也は、また他の奴に白い目で見られないか心配になったが、そんなことで仲間外れにするのも嫌なので黙っていた。
「良いの?」
聞き返す唯に
「大勢の方がおいしいでしょ?」
「うんお邪魔します」
と唯も誘いに乗った。
友達が多いのは良い事だと、自分の事を棚に上げて思った……少し悲しくなった。
ただ、その時ちょっと思いついた事があり、唯に声をかけた
「あ、その前に佐々木。悪いんだけど、これ読んでくれないか?」
取り出したのは、和也が10層で手に入れた冒険の書だった。
「私。まだしっかり字は読めないけど……」
申し訳無さそうに言う唯に
「ここのページなんだけど。読めるだろ?」
あの日本語で書かれたページを見せた。
「え!?日本語!?なんでこっちの本に日本語が!?」
驚く唯に、俺も驚いたよなーと思いつつ
「読めばわかると思うから、読んでみてよ。あかり達も、せっかくだし佐々木の後に読んでみて」
自分は、日本語の部分を読んでこの本が読めるようになったが、残念なことにあかり達はこの本は読めなかった。
(やっぱり、読書家の称号がが引き金だったのかな?どっちにしても残念だな)
和也は、本好きな唯なら読めるかもと思ったのもあったが、この本のスキルを得れる人が増えた方が、戦いが楽になるだろうという思惑があった。
それに、前に有馬にスキル習得は自分以外は無理だと言ったが、他の人が読めるかなどの実験はしてなかったとので、せっかくの機会に実験をした。これは、後々何か言われるのを防ぐためでもあった。
唯は、日本語の内容に少し焦っていたが、あかり達が普通だったので少し落ち着いたようだ。
「佐々木。変なもん読ませて悪かったな」
「別にいいけど、あかりちゃんと楓ちゃんは落ち着いてるんだね?」
唯は、あかりと楓が焦ったりしなかったので、凄いなーと思いつつ聞いてみた。
「私も楓ちゃんも、事前に話は聞いていたしね」
うんうん頷く楓も含め、今自分が感じたことを聞いてみた。
「帰れなくれも良いの?もしかして諦めてるの?」
それは、これの文を読めば、誰でも思うことかも知れない。
「もちろん帰れるなら帰りたいよ。でも何がどうなるかとか、まだわからないからね」
「そうそう。諦めたらそこで終了って、誰かも言ってたよ。それに、全員が帰れなかったわけでも無いみたいだしね」
二人は、帰れないかも知れないと諦めているのではなく、どうなるかわからないが前に進んでいるんだと感じた。
そして、そんな二人と友達になれて良かったとも思っていた。
「俺も、帰れるなら帰りたいからな。ただ、どうなるにせよ現状力は必要だ……それで悪いとは思ったけど、本好きの佐々木ならもしかしてと思って、この本でスキル身につかないか試させてもらったんだ」
と、和也は唯に弁解した。
「少し驚いたけど、確かにこの文を書いた人だけが、過去に召喚された人じゃないもんね」
と、自分も前向きに考えてみようと思い返事をした。
「それで悪いけど、みんなが動揺するとあれなんで、みんなには内容を秘密にしてほしいんだ」
「そうだね、その方が良いかもね」
この内容を知ったクラスメイトの中には、自暴自棄になる人も出るかも知れないなと思ったので、和也の意見を受け入れた。
「時間とらせて悪かったな。じゃあ昼に行こうか」
と部屋を出たところで、またあかりと楓に腕をとられて歩かされた。
「おいまたかよ……変な噂も立っちゃってるし、恥ずかしいから止めてくれよ」
と二人にお願いしたが
「気にしないで、むしろ噂歓迎。そうすれば、変に絡んで来る人減るかも知れないし」
あいつらが、それで大人しくなるかなーと思った。更に、変に騒ぐ奴が出るような気がして内心で溜息をついた。
それを見ていた唯は、あの噂は本当だったんだと少し驚きつつ
「あかりちゃんは幼なじみだって知ってたけど、楓ちゃんって水木君とそんなに仲良かったっけ?」
楓に聞いてみた。すると楓は、唯の方を振り返り
「元々結構話はしてたんだけど、30層に二人で落ちたときに、今まで以上に色々話とかしてね……それで、もっと仲良くなったんだ」
そんな楓の態度を見て
(ああ、楓ちゃんって水木君の事を……あれ?と言う事は、楓ちゃんとあかりちゃんはライバル関係なのかな?)
二人の関係の本当のところはわからないが、自分も色々頑張らなきゃなーと何故か思った。
そして、二人に引っ張られながら食堂に入ると、またも色々な視線をぶつけられた。
(ジロジロ見られるのは嫌だが、もう諦めるしかないか)
色々諦めつつ席につくと、楓に声がかかった。
「楓こっちで一緒に食べよう」
声の主は有馬だった。腕を組んでいたところは見られて無かったようだ。
そっちの方を見ると、光チームの面々が一緒に食事をしていた。
女子はニヤニヤした顔を、伊集院は食事しながら鏡を見ていた。
「ごめんね鋼君。もう、四人で食べようって約束しちゃったから」
と有馬に断りを入れた。
「そうか……午後の迷宮の話をしたかったんだが、約束していたんなら仕方ないな。午後の迷宮は行けるんだろ?」
「それは平気だよ」
楓のその言葉を聞いて食事に戻った。戻る前に和也を少し睨んできたが、何も言わない方が良いだろうとスルーした。
食事後に四人で話していると、有馬が声をかけてきた。
「水木ちょっといいか。お前のスキルの事で聞きたいんだ……本当に、お前以外誰も使えないのか?」
さっそく実験が役に立ったかと思い
「前は出来ないって言っちゃったけど、試してなかったから、この三人にさっき試して貰った。残念ながら習得出来なかった」
と答えた。
「そうなのか……もしかしたら、勇者の俺ならいけないか?試してみたいんだが」
さっきの実験でも思ったが、読書家の称号無いと無理だろうし、有馬にあの文を見せるのはかなり危険な気がしたんで
「さっきの実験踏まえて検証したけど、読書家の称号無いと無理だと思う。本好きな佐々木とかが読んでも無理だったし」
と適当に誤魔化しておいた。
「うーん……それなら仕方ないか。ところで楓。そろそろ、迷宮探索の打ち合わせしたいんだが良いか?」
と、今度は楓に話を振ってきた。
「うんわかった。唯ちゃん、あかりちゃん、和也君また後でね」
とここで爆弾を投下した。
和也は内心で少し焦ったが、どっちにしてもいつかはわかる事だし、仕方ないかと思って開き直った。
「和也君?……楓。なんで水木の事を、名前で呼んでるんだ?」
有馬が訝し気に聞いてくる。
「え?ああ、地下で一緒にいて、前より仲良くなったかなと思って、お互い名前で呼ぶようにしたの」
少し恥ずかし気に答える楓
「仲良く?お互い?……水木が楓を名前で……」
有馬がぶつぶつ言ってるが、小声ですぎてよく聞こえなかった。
すると有馬が急に楓の腕を掴み
「行くぞ楓!」
と連れて行こうとした。
楓はびっくりして
「鋼君いきなりなに!?痛いし恥ずかしいよ!」
と言って、手を振りほどいた。
和也は、楓に恥ずかしいの台詞を聞いて、どの口が言うんだと思いつつ、なんか面白くないなーとか思った。
「あ、すまん。つい……」
有馬が、慌てて言い訳している。奴の方を見ると苦い顔をしていたんで、さっきのなんか面白くないなーって気持ちが少し晴れた。
「もういいよ。じゃあ早く行こう」
楓が、チームの方に行こうとしたので思わず声をかけた。
「気をつけてな」
楓は、満面の笑みを浮かべ
「うん。またあとでねー」
と笑顔で手を振り去って行く。それを、光チームの女子が相変わらずニヤニヤしながら見ていた。
有馬は、相変わらず苦い顔をしながら、楓の後を着いていった。
和也は、面倒なことにならなきゃ良いけどと、心の中で溜息をついた。
そんな和也を見て、あかりはニコニコ笑っていた。
次は男子が出ます