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3.塔、再び/4

 最後の部屋にあったものは、魔法生物が溶けた後の残骸に壊れかけた魔法陣と壊れた魔法陣の3つだけだった。そのほかには何の資料も無し。

 オルトは、「結局ここもハズレか」とがっかりした様子を隠そうともせずにぼそりと小さく独りごちた。


 しかしとにかく、せめて残ったものだけでも調べようと、オルトとエルネスティは舐めるように魔法陣を調査した。

 2人のざっくりとした見立てでは、床のでかい魔法陣は魔法生物を束縛し抑えるためのもので、壁の、カリンが壊した小さい方はどこか……おそらく異界に向かって小さな魔力供給穴を開けておくものであるようだった。

 ここにいた魔法生物は、魔力の供給があってようやく身体を保てていたくらい、不安定なものだったんだろう。供給が断たれたとたん身体が溶けてしまったのは、おそらくそのためだ。

 ……もちろん、本格的かつ詳細な確認にはもっと時間を使った調査が必要だが、大筋ではこの結論であっていると思われた。

 魔法陣を調べる2人の横で、床の残骸を何とは無しに眺めているカリンを興味深げに観察していたツェルが、ほんとによくできてるなと呟いた。


「で、そのカリンていうのは何?」

「魔法生物」


 魔法陣の調査が一段落したところで、エルネスティがカリンを指差すと、平板な口調でオルトは答えた。


「端的すぎてわかんないわよ」

「そう言われても、それを調べるために俺もここへ来たんだよ。何の身入りもないから、これ以上は不明のままだ」

「どういうこと?」


 エルネスティが眉を顰めてなおも言い募ろうとしたところで、ツェルがカリンに目をやりながら尋ねる。


「こいつはここで見つけたのか? それとも別な場所か?」

「ここだ」

「なるほど。……前に入った奴がいたけど、もしかしてあんたは生き残り?」

「そうだ」


 けど……と、ツェルは考え込むように言う。


「あれが魔法生物だっていうなら、目的はどう折り合い付けたんだ? 真名も調べたのか?」

「……それは、秘密だ」


 オルトはどう答えたものかと一瞬だけ逡巡したが、ばか正直に言う必要はないなと思いなおした。


「できれば、師団に譲ってほしいわ。相応の報酬は約束できると思うの」

「断る。護衛として相当に優秀なんだ、誰かに譲る気は更々ないね」

「なら、調査だけでも……」

「それも断る」

「取り付く島もないのね。なら、あなたの研究結果を買い取らせて……」

「あんたも大概しつこいな。俺は師団と取引するつもりはないと言ってるんだ。誰が師団なんかに調べさせるかよ。体よく取り上げられて終わりだろうが、ふざけんな」


 反論しようとして、エルネスティはぐっと言葉に詰まる。そんなことはないと否定できないのが辛い。


「なら……なら……」


 どうにかこの男と交渉できないかと必死で考えても、あまりよいアイデアは浮かばない。だからといって諦めるのは嫌だ。エルネスティは必死で頭を悩ませる。


「私と、情報交換の取引をして……」

「師団に禁じられた情報は渡さないって言うんだろ。意味ないね」


 一瞬だけ唖然として、それから、とうとう半ば癇癪を起したように真っ赤になってオルトに掴みかかり、ギリギリと襟元を締め上げながらエルネスティは叫んだ。


「──もう! もう! どうしたら教えてくれるのよ! 私だって知りたいのよ! 知りたくないわけないでしょう!」

「ちょ、待て、苦しい、締めるな」

「教えなさいよ! 教えてよ!」

「ぐ、だから、やめ……」

「それ以上はオルトが死ぬ。やめろ」


 後ろからカリンがひょいと手を伸ばし、締めあげていたエルネスティの腕を取った。オルトは「女のくせに、なんつう乱暴者だよ。殺す気か」と屈みこんでげほげほと咳込む。


「……共同研究者にさせて?」

「は?」


 エルネスティは腰を落とし、オルトを覗き込んだ。顔の前で拝むように手を組み、目を潤ませて首を傾げる。オルトが「うっ」と呻くように声を詰まらせる。


「師団所属の魔法使いには、師団外での研究活動も保障されてるの。共同研究者になっても問題ないの。だから共同研究者にさせて?」

「……師団への成果報告はどうすんだ」

「そんなもの、どうとでもなると思うの」

「はあ?」

「私だって強化魔法は一通り修めてるし、魔法生物の研究だってそこそこやってるのよ。このカリンがとてもすごいものだってことくらいわかるわ。さっきまで人間だと思ってたし、こんなの初めて見たの。共同で研究できるなら、なんだってがんばるわ」


 エルネスティは口を尖らせ、少し気まり悪げな表情で横を向き目を逸らしつつ……ちらりと上目づかいにオルトを見る。彼は何か嫌なものを見つけてしまったような顔でエルネスティを見ていた。


「……共同研究たって、どうすんだよ。俺は王都なんか行く気ねえぞ」

「私がこちらにくればいいでしょう? 転移魔法の使い手なら心当たりがあるからなんとかするわ。だから、ね?」


 くるりとオルトに視線を戻し、再び小首を傾げながらオルトを期待に満ちた眼差しで見つめた。オルトはなぜだかその視線に落ち着かない気持ちになる……と、ツェルが、ぶっ、と噴出し、腹を抱えて笑い出した。


「オルト、これは逃げられないんじゃない? こうなった魔法使いはしつこいって、あんたもわかってるんだろ? これは無理だよ。

 ああ、そうだ。僕は基本的に王都にいるから、どこか探索に行くなら声をかけてくれ。伝達魔法で知らせてくれれば僕のほうで出向くよ。あんたたちの行き先についていくのはおもしろそうだ」


* * *


 負傷者を地下から運び出した後、結局、フローブルクの工房への訪問を約束させられ、オルトは一足先に帰っていった。

 エルネスティは後続の調査隊との引き継ぎを済ませた後、一端王都へと戻っていった。


 そして──


「……ずいぶん早いな、おい」


 扉を開けたオルトは、苦虫を噛み潰したような渋面になった。

 あれからまだ5日しか経っていないのに、入口をどんどんとうるさく叩く訪問者を迎えてみると、満面の笑みを湛えたエルネスティが「来たわ」と立っていたのだ。


「あたりまえじゃない。必死で報告も何もかも全部終わらせたのよ。すごくがんばったのよ。おかげでちょっと疲れちゃった。でも、師団長に掛け合って、まずは5日ほど研究休暇をもぎ取ってこれたの」

「ここも、よくわかったな」

「私の親友がこのあたりの出身なの。何年か前に、フローブルクに魔法使いが住み着いたことも知ってたから、すぐにわかったわ。

 さ、早く入れてちょうだい!」


 笑顔を崩さず、嬉々として中に入れろと要求するエルネスティに、オルトはげんなりとした表情で言う。


「……お前、少し警戒心足りないんじゃないのか? 女ひとりで来たのかよ。ここに住んでるのは俺だけだぞ」

「あら大丈夫よ。私、人を見る目には自信あるもの」


 うふふ、と小首を傾げてエルネスティは笑った。



エルネスティが落としにかかった!

オルトは惑わされている!

ツェルは観察している!


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