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3.塔、再び/2

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 オルトは、面倒なことになったなと思った。

 さすがに見かねて助けてはみたものの、眼の前の師団の魔法使いは、オルトがこの塔について語らない限り食いついて離れないつもりだと全身で主張している。かといって、あの魔物にみすみす殺されるのを見過ごす選択肢はなかったのだが。

 どうしたものかと考えている間も、エルネスティはオルトをじっと睨みつけていた。

 はあ、と溜息を吐いて、オルトは口を開く。


「……前王国崩壊後の暗黒期末期からレーゲンスタイン王国の建国期にかけて、天才と言われた魔法使いがいたのを知ってるか?」


 エルネスティは、「天才?」と怪訝な顔になって繰り返す。


「そうだ。あらゆる魔法を修め、“創造主”という二つ名で呼ばれた魔法使いだ」

「創造……名前だけなら、知ってるわ」


 考え込むエルネスティの前で、オルトは続ける。


「“創造主”は、もともと強化魔法による魔法付与に長けた魔法使いで、その二つ名の通り、魔法生物──いわゆる、ゴーレムやガーゴイル、ホムンクルスを生み出すことにも秀でていた。俺が調べた“創造主”の遺したと思われる廃墟には、たしかにその記録の断片が残っていたな」

「……魔法生物」と、エルネスティがあっけにとられた顔で呟くと、オルトは頷いて、だが……と少し言い淀んだ。

「この塔は、俺の推測ではその“創造主”の遺産のひとつ……だと考えていたんだが、ちょっとそれが怪しくなったところだ」

「──怪しくなったってのは、あれのせいか」


 いつの間にか近くに来ていた傭兵ツェルが汚泥を示すと、オルトはそれに目をやり、頷いた。


「ああ。“創造主”が魔神を呼び出せたなんて話は知らない。

 何より、“創造主”が生きてた時期を考えると、召喚魔法は既に失われていたはずだ。だったらなんで魔神がいるんだ」

「たしかにそうだな。……魔神なんて初めて見たよ」とツェルは言うと、それから、ぼうっと佇んだまま、魔神の消えたあたりをじっと見ているカリンに目をやる。「それにしても、あれはすごい剣士だな。動きが人間離れしている」

「……まあな」

 オルトは、ツェルのその言葉にどことなく含みがあるような気がした。


 それはともかく、とりあえずこの場の危険は去ったのだ。この塔についても話し終えた。だから、オルトがもうここで彼らに付き合う必要はない、行くぞとカリンに声をかけると、エルネスティは慌てたようにオルトを引きとめた。


「ちょっと待って! だめよ、ここは魔術師団が調査中なのよ」

「──その魔術師団は、ここでほぼ壊滅してるようだが」


 呆れたような顔でオルトに指摘され、エルネスティは一瞬言葉に詰まる。


「だ、だから、今ここで臨時にあなたを雇うわ」

「断る」

「どうして!?」

「もともと俺は調査するためにここへ来てるんだ。なんで魔術師団の調査に協力しなきゃいけないんだよ。得た情報は師団で握りこむくせに、開示されないのがわかってて協力する馬鹿がいると思ってるのか」

「なっ……!」


 エルネスティが、言葉を続けられず口をぱくぱくさせるさまを、ツェルが面白そうに眺めていた。

 しばらく視線を彷徨わせた後、エルネスティは大きく息を吐く。冷静になってみれば、たしかにオルトが指摘した通りだ。自分が知りたい情報を得に来たのに、なぜそれを開示しない者のために協力しなければならないのか。

 オルトは黙ったままエルネスティの言葉を待っていた。


「……わかった。けれど、改めて、あなたにここの調査の協力を依頼したい。私たちがここで得た情報はすべてあなたに開示すると約束するわ」

「どうやって?」

「ここで得たものはすべてあなたと共有する。私が見つけたものはあなたに報告するし、あなたが見つけたものも私に報告してもらう。

 つまり、お互いが対等なメンバーとして、協力してここの調査を行うことを提案するわ」

「なるほどな。しかしお前にその権限はあるのか?

 それと、あの怪我人どもはどうするんだ。あれじゃ動かせないし、ここに護衛を置いてく余裕なんて俺たちにはないぞ」

「調査中の人員の確保や報酬の裁量は、現場の魔法使いにある程度一任されてるの。今、この場で無事な魔法使いは私だけで、判断するのは私よ。だから、現状からできる最善の判断をしたつもり。

 それと、負傷者はある程度魔法で癒したあと、ここから近い部屋に結界を張って置いて行きます。治癒はツェルが、結界は私がやるわ。ただ、さっきの戦闘で魔力があまり残ってないから、しばらく休む必要がある。

 ……師団には連絡を入れるけど、すぐに応援が来られるかはわからない。でも、それを待ってる余裕はないわね。彼らの容体次第でもあるけど、どうにか安全を確保したうえで、ここに置いて先へ行くわ」

「休息するにしても、他の魔物の危険はどうなんだ」

「この階層はほぼ調べ終わってる。残ってるのは、あの魔神が出てきた部屋くらいよ。魔物は、ほかの小物は討伐済で、さっきの魔神で終わり。下へ続く階段は発見してるけど、そこから先はまだわからないわ」


 オルトは少しだけ考えた後、頷いた。


「……俺は師団と取引するつもりはない。だが、あんた個人となら取引してもいい。報酬は、この塔の調査で得たものと魔神についてあんたが知った情報を俺に開示することだ」

「私は師団所属魔法使いよ。師団に禁じられた情報まで独断で開示することはできない。だから、その条件は約束できないわ」

「禁じられる前に俺に知らせればいい」


 オルトの言葉に、エルネスティはぽかんと口を開ける。何よそれ、という言葉が思わず口を吐いて出る。

 ──本当なら、出直して再調査を行うのがよいのだろう。けれど、そうなれば、この魔法使いがここにあるものを根こそぎ持って行ってしまうことは間違いない。師団の目的を考えれば、出直すという選択肢はなしだろう。エルネスティは覚悟を決めた。


「いいわ。その条件で取引しましょう。けど、やっぱり師団の禁じた情報については渡すことはできないと了承してちょうだい。私は師団所属の魔法使いなのよ」

「いいだろう。交渉成立だな。

 俺は魔法使いオルトヴィーン。あれは俺の護衛のカリンだ」

「私は魔術師団第2隊所属魔法使いエルネスティ。彼は調査隊の傭兵ツェルよ」


* * *


 結局倒れた中で生きていたものは2名だった。死亡した4名は通路に寝かせたまま、生き残ったものを安全と判断した部屋に引き入れ、防御結界を張り手当を行う。そうしてなんとか一息ついたところで、数時間の休息を取った。

 幸い、癒しの魔法により少しは動けるようになった者がいたので、彼にこの部屋での待機を任せることができそうだ。


「じゃ、そろそろ出発ね」と、エルネスティが立ちあがった。「まずは、魔神が出てきた部屋を確認しましょう。魔法使いグンナル、ここはよろしくお願いします。状況が変わったら伝達の魔法で知らせて」

「わかりました。……気をつけて」


 カリンとツェルが先頭に立ち、オルトとエルネスティがそれに続く。あの魔神が出てきた部屋は、下へ続く階段にほど近く、この階層の中央に作られているのだ。

 部屋には魔法的な加工がされて、壁、床、天井のすべてを埋め尽くすように描かれた精緻な魔法陣は詳細を全て読みとるには困難なくらいに薄れていたが、それでも、魔神はこの魔法陣によってこの部屋に封じられていたことを理解できる程度には残っていた。


「召喚とは違うみたいだな」

「そうね。けれど、この魔法陣だけでもすごいわ……これが解明できれば……」


 オルトが魔法陣に探知魔法をかけ、細かく調べながら呟くと、エルネスティは同意した。ツェルもこの部屋の魔法陣には関心を隠せないようで、興味深げに魔法陣を調べている。

 カリンは部屋の入り口に陣取り、微動だにせず通路を警戒していた。


「けど……この部屋にはこの魔法陣以外何もなさそう。魔法陣は、師団に持ち帰って時間をかけてゆっくり調べる必要があるわ」

「だな」


 ひとしきり魔法陣と部屋を調べて、オルトとエルネスティはそう結論づけた。ここは、あの魔神を閉じ込めておくためだけに用意された部屋なのだろう。あれを閉じ込めておいて何に使うつもりだったのかまではわからないが。


「そうすると、ここはひとまず終わりにして、次は階段の先ね」

「……おいカリン、この先の様子はどうだ」

「とくに不審は気配はない」

「なら、ここから先はお前が先に進め」

「了解した」

「え? ちょっと待って」


 エルネスティの言葉に頷いてオルトがカリンに指示を出すと、エルネスティが驚いたように声を上げた。


「この先は未調査よ。罠の危険もあるわ」

「だからカリンに先を行ってもらうんだが。罠なら問題ない。この中でいえば、カリンが適任だろう」

「どういうこと? 彼女に罠があるかどうかわかるっていうの?」

「似たようなもんだ。……ツェル、あんたは気配を察して発動した罠をかわせるか?」

「……それは少し厳しいな」

「カリンは勘がいい。できるんだ」


 エルネスティは納得しかねるように「本当に?」と小さく呟いたが、かといって代案があるわけでもない。湧きあがった疑問を無理やり呑みこんで、オルトの指示に従うことにした。


軽く、こんなカンジです


1000年前:前王国が一夜にして謎の滅亡(※)

 ↓

(約200年程、暗黒期と呼ばれる戦乱と混乱の時代。

 いろいろな技術や魔法が失われる)

 ↓

800年前:レーゲンスタイン王国建国。ようやく落着く

 ↓

600年前:現在の王都に遷都される

 ↓

今に至る


※:魔王により王族もろとも王都が消滅し、暗黒時代に突入……という説あり


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