2.人形の記憶
短いですが。
塔を出た翌日には町についた。町はこんなに近かったのか。
到着してすぐに、オルトはわたしの衣服と靴を買い揃え、この町にあるというオルトの家へと向かった。わたしの格好があまりに酷いため、連れ歩くのは目立って仕方ないのだそうだ。
少しは整えないと外へは行かせられないと、湯浴みの仕方の説明を受けながらきれいに洗われ、ざんばらだった髪を腰で切り揃えられた。
身支度を整え、用を済ませた後、オルトが懇意にしているという鍛治師のところへと連れて行かれた。今後のために、わたしに合う防具を作るのだという。鎧と聞き、わたしはひとつだけ意見を思いついて口に出した。
「オルト、あまり動きづらいと戦えない」
「わかってる。邪魔にならないものを頼むつもりだ。魔法付与もしてやる。どんなヤツがいいか、お前が自分で決めればいい」
「了解した」
鍛治師に、わたしにはこれがよいのではないかと鎖帷子を板金で補強したものを勧められ、それに決めた。最終的にはオルト自身が出来上がった鎧に魔法を付与し、より動きやすく強固にするのだという。
他にも予備の武器も幾つか種類を変えて持ったほうが良いと言われ、その通りにした。
「あとは部屋か……」とオルトが考えるそぶりをするので、「わたしに部屋が必要なのか?」と尋ねると頷かれた。
「お前の私物も揃えたことだし、専用の部屋が必要だろう。
それに、お前、野宿の時も不寝番できずに朝方寝てたじゃないか。部屋がなかったらどこで寝るつもりなんだ。それとも実は寝ないでいいってのか?」
「わたしは昨夜と同じでいい」
「あ? 家にいるのにそこらの床に転がしとくほど、俺は薄情でも甲斐性無しでもねえよ」
「では、居間の椅子で」
「……あのな、一応部屋はあるんだ。そこを使え」
「了解した」
オルトの質問に、昨晩、塔を出てから野宿をした時のことを思い出して答えると、オルトは呆れたようにわたしを見た。
「──ああそうだ、部屋の片付けはお前がやってくれ。今、部屋にある荷物は……そうだな、いったん居間の端にでも置いてくれたら、俺が後で整理するから。他は適当に使え。
あとは家具か……今から買いに行くしかないな」
「了解した」
次に木工職人を訪ね必要な家具を買い揃えた。
めったに客が来ないということで、寝台などは、今、オルトが使っているものしかないのだという。
職人に好みを問われ、ふと頭の奥底に沈んでいた古い記憶が浮かび上がった。……そういえば、昔の“わたし”が使っていた部屋は、温かみのある柔らかい様式のものが中心だった。
思い出したそれを伝えると、オルトが非常に驚いた顔になってわたしを見た。何故オルトが驚くのかわからず、わたしは首を傾げた。
家具の手配を終えて職人の元を出ると、オルトは神妙な顔で考えながら尋ねてきた。
「……お前、好みなんてあるのか?」
「わからない」
「じゃあ、なんでああ答えたんだ?」
「思い出したから」
「何を?」
「カリンになる前、わたしが住んでいた部屋を思い出した」
「カリンになる前? 住んでいた部屋? お前の?」
「そう」
オルトはますます驚き、さらに考え込んでいるように見えた。
他にも思い出したことはあるのかと聞かれたので「ない」と答えると、オルトは「そうか」とだけ言った。