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4.湖底の神殿/6

「これ、何かしら」

 箱の中に納められていたのは、小さなメダリオンと、細長い……。

「鍵、かな?」

 ノークがひょいとつまみあげて、透かし見る。繊細で細かい細工の、精巧な鍵だ。おそらく、名のある職人か作ったのだろうと思われるような複雑な鍵だと見て取れた。

「この鍵、かなりの出来の鍵だと思うけど、錠はどこにあるんだろうね」

「そうね」

 ここまでくる途中にあったものをひとつひとつ思い返すが、これを必要とするような錠はどこにもなかったように思う。

「……まだ隠されている扉があるのかな」

「もしくは、水の底にあるか……か」

 ツェルとオルトの言葉に頷きながら、エルネスティも考える。

「……明日は、その鍵が合う錠探しかしらね。扉の鍵というほど大きくはないみたいだけど」

「そうだね。あまり大きな鍵じゃないと思うけど……今日はそろそろ日が暮れる頃だし、ひとまず休んで、明日しっかり探そうよ」

 ノークの言葉に、全員が頷いた。

 外まで戻るのはいささか面倒だからと、探索を終えた部屋をひとつ選び、そこで休息を取ることにした。魔法で腐った調度を乾かして薪にすれば、暖も取れるだろう。御誂え向きに暖炉のある部屋もあり、かろうじて煙突も塞がっていないようだったから、そこで火を焚こうということになった。


 ぱちぱちと小さく燃える火で照らしながら、鍵と、一緒に納められていたメダリオンを眺める。

 鍵はともかく、これはいったい何だろうか。意味もなく箱に入れられていたとは考えにくい。オルトが魔法を掛けて調べてみたが、魔道具というわけでもないようだと首を傾げていた。

 もうひとつ、気になるのはカリンのようすだ。このメダリオンが気になるようで、じっと見つめてはしきりに首を捻っている。本人にも理由がよくわからないらしい。なぜか目がいってしまうのだが、なぜ目が行くのかはよくわからないと言う。

 メダリオンの表面には、紋章のような浮き彫りがあった。けれど、今この王国にある貴族に、こんな……杖に絡まる双頭の蛇という紋章を持つ家系はいなかったと思う。

「印象だけなら、魔法使いが好みそうな紋章だわ……ねえオルト、これって、あなたが追いかけてる“創造主”の紋章とは違うの?」

「それが、わからん……前王国の紋章院の資料は散逸してるし、貴族年鑑もろくに残ってなくて、調べようがなかった」

 確かに、前王国の崩壊はほんとうに突然だったため、前王国に関する何かなんてろくに残す暇もなかったという。特に王城と王都の崩壊は酷く、城に保管されていた諸々は失われたまま、たいしたものは見つかっていない。未だに前王国の崩壊の原因がはっきりせず、魔王の大規模魔法によるのだと言われているのは、そのせいもあるのだ。

 ……まともな魔法使いなら、王都と王城を一瞬で壊せるほどの魔法を行使する魔力なんて集めようがないと、すぐにわかることなのだが。

「この鍵とこのメダリオン……ふたつ揃えてないと、やっぱり意味がなかったりするのかしら」

 メダリオンについた鎖をつまみ、目の前でぶらぶらと揺らす。

「さあな。何か意味があって一緒にしてたんだとは思うが……」

「オルトもエルネスティも、さっさと寝なよ。結構魔法使ったんだろ。考えるのは明日にしてさ」

 最初の夜番を担当するノークに声を掛けられて、「それもそうね」とエルネスティは小箱にメダリオンをしまった。考えるのも、探すのも、明日の話だ。今日はもう休もう。


 翌日は、前日見つけた鍵が合う錠を求めて、遺跡の中を再度しらみつぶしに探し回ることにした。

 あの魔法室の奥はあそこで終わっていて、さらに奥を探すよりも有効なのではないかと考えたのだ。

 しかし、そうはいっても入り口から奥まで全てを対象に考えるより、新しく見つけたエリアを重点的に探したほうがよいだろうという点で、全員の意見は一致した。

 付け焼き刃でもないよりはマシと、ノークに隠しのありそうな場所がどんなところかのレクチャーを受け、壁も床も天井までも、全員でじっくりと探しながら進むのだ。ただし、何か気になるところを見つけたら、手を出さずすぐにノークを呼ぶことは徹底された。このエリアを調べるのはここにいる5人が初めてなのだ。どんな罠が残っているかわからない。


「そろそろ昼よ。少し休憩しましょう」

 床石に壁石をひたすら見続けたおかげで、まだ探し始めて半日なのに、既に目も腰も痛い。

 お湯を沸かし、お茶を作って簡単な食事を配りながら、「見つかるかしら」とエルネスティは呟いた。

「うーん……」

 堅焼きのパンをお茶で湿らせてかじりながら、ノークがじっと考え込んでいる。

「やっぱりさあ」

 ぐっと眉間に皺を寄せて、ノークは唸るように続けた。

「闇雲に探しても疲れるだけなんじゃないかって思うんだよ」

「確かにそうかもしれないけど、どこか怪しいと思う場所はある?」

 昨日の探索の際に作った地図を広げてエルネスティが尋ねると、ノークはまた唸りながら地図を覗き込んだ。ぶつぶつと地図の上を指で辿りながら、目星をつけているようだ。

「んーとね、この辺とか、この辺あたりかな。候補は」

 ノークの話では、こういう遺跡には癖があるのだという。作ったものの趣味や職業や考え方で、意外に癖が出るものなのだと。

「で、昨日今日ってここを調べた感じだと、さっき言った場所あたりがいちばんありそうなんだよね。無闇に関係ない場所探して何も見つからないとイライラしてくるし」

 ノークが目をつけた場所を説明されて、エルネスティは感心する。

「……ノークって、プロだわ」

「当たり前だよ。オレ、これで飯食ってるんだよ?」

 得意げににやりと笑うノークに、「さすがよ、期待してるわ」とエルネスティはぽんと肩を叩いた。


 それから、ノークがアタリをつけた場所をさらにふた時ほど調べたころ、ツェルが「ちょっと来てくれ」とノークを呼んだ。

 壁には昨日見つけたものとよく似たしかけが見つかり、ゆっくりと石を外すと……。

「鍵穴だ」

 ノークが皆を振り返ってにんまりと笑う。

「ビンゴだったね」

 鼻歌を歌いながら、それでもやっぱり慎重に罠の有無や変なしかけはないかを念入りに調べた後、見つけた鍵を差し込んだ。ゆっくりと回すと、小さくカチリと手応えがする。「お」と声を上げると同時に横の壁が突然ガコンと音を立てて動き出した。

「……ここ、倉庫か何かかしら」

「だな」

 呆然と呟くエルネスティに、さすがのオルトも呆気にとられたまま応える。

 ツェルも、こりゃすごいと呟いたまま、ぼんやりと見つめていた。

 ひとり用の寝台ひとつがやっと入る程度の広さの部屋の、壁一面に設えられた棚に、所狭しと書物や紙に羊皮紙の束が置かれている。魔道具らしきものもいくつかあるようだ。

「……召喚魔法?」

 掠れてはいるけれど、かろうじて読み取れる幾つかの書物の背表紙に目を走らせると、召喚魔法の魔法書がいくつか混じっているようだった。

「召喚?」

 オルトも怪訝な顔で幾つかをそっと手に取る。

「魔法生物ではないのね。でも、召喚魔法の魔法書が、こんなにいくつもあるなんて……」

「とりあえず、なるべく全部持ち帰ろう」

 オルトはそう言うと、書物や紙束を順番にまとめ始めた。エルネスティとカリンもそれを手伝う。ノークは他に隠しはないかと舐めるように探し回り、ツェルは周囲に気を配りながら、時折書物に目を走らせていた。


 それから2日、じっくりとこの遺跡を調べたが、この鍵の部屋が最後に見つけた新しいものだった。

 魔法使いふたりは非常に機嫌よく、見つけた書物や魔道具を抱えて始終にこにこと微笑みながら帰路についた。あまりに顔が緩みっぱなしだったので、ノークに「ちょっと気持ち悪いよ?」と言われる始末だった。

 フローブルクまで帰ると、売り払っても問題ない物品と少しの現金をツェルとノークの取り分とした。

 すぐに王都へ戻るというふたりに、エルネスティは「まだ休暇は残ってるから、私は見つけた本をできる限り解読してから王都へ戻るわ」と右手をぐっと握りしめた。ノークが「エルネスティは、少し残念系だったんだね」と呟いたが、たぶん本人の耳には届かなかったのだろう。ちらりとオルトに目をやって「ま、頑張ってね」と肩を叩き、ツェルはそれに苦笑を浮かべて、フローブルクを去っていった。


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