初任務と妹の力
入学式から一週間が経った。
「美羽、大丈夫か。」
「お兄ちゃん、私なら大丈夫。」
二人で訓練をしていた。美羽はすでに息切れを起こしている。
あれは数日前のこと。
「零くん、美羽ちゃんのことなのだけれど、少し良いかな。」
と、香坂先輩が昼休みに訪ねてきた。
「美羽ちゃん、リミットブレイカーとしては才能も十分だし問題はないのだけど、ある程度の戦いは出来る方が良いかと思って。零くんに訓練をお願いしても良いかしら。」
香坂先輩からの願いならば、断るわけにもいかない。すぐに承諾した。
美羽の力、リミットブレイカー。今のところ分かるのは攻撃に向いていないこと。チアリーという活力術を使え、対象者の体力を増幅させる。それからヒール。これもまた対象者の傷を癒やす。いずれにしても、攻撃ができない。そう思い、訓練をすることを決意した。
「美羽、そろそろ休まないか。」
美羽を気遣うのだが・・・。
「私は大丈夫!まだやれる。」
身構えた、次の瞬間だった。
ーーヒュッ
何かが横を通り抜けたような音が聞こえ、視界から美羽が消えた。
「・・・美羽?」
そう呟いた。その刹那、背中に悪寒が走る。
ーードスッ
無防備な背中に美羽の拳が叩き込まれる。
「・・・嘘だろ。」
振り返ると、息を切らせながら驚いた顔の美羽がいた。
「なに・・・今の。」
美羽にも自覚の出来なかった一瞬だったらしい。
「もっと速く走りたいと思っただけなのに・・・。」
美羽は元々足は速かったが、目に追えないほどではないはずだ。普通に考えて。今のは何だったのだろう・・・。
「美羽、今日は休もう。疲れただろ。」
「でも、まだ・・・!」
聞き分けのない美羽の頭を撫でて諭す。
「あまり無茶をするな。一緒に任務に出るんだろ。体調を崩したら大変だろ。」
「そうだね、わかった。」
大人しく聞き入れる美羽。
それにしても、さっきの美羽の力。放っておく訳にもいかないだろう。香坂先輩に報告するべきだろうな。
「美羽、一緒に香坂先輩の所に行かないか。さっきのことを報告しておきたい。」
「私も、自分から話しておきたい。」
二人で断罪者会議室へと向かった。
「・・・と、いうわけなのね。」
だいたいの説明を聞いた香坂先輩が聞き返す。
「はひ、そうなんれふ。」
香坂先輩に遊ばれている美羽が答える。
なんというか、可愛い・・・。
「零くん、美羽ちゃん、訓練お疲れ様。零くん、これからも様子を見ながら美羽ちゃんの訓練をお願いしても良いかしら。」
断れるはずもなく、
「分かりました。」
と、即答した。
それにしても、じゃれ合う二人は絵になる。と、思っていると、
「零くん、美羽ちゃん守ってないと狙われるわよ。こんなに可愛いんだし。」
「そんなことないれふ!」
じゃれ合う二人。本当に可愛い。
「美羽ちゃんは零くんが好きなのかな。」
何気なく香坂先輩の呟いた一言に美羽は、
「・・・へっ!?」
と、一瞬にして顔を真っ赤に染めて俯く。
「え、あー、ごめん。図星なのね。」
申し訳なさそうに美羽を撫でる。
「ち、ちが、違います。」
慌てふためく美羽。真っ赤なままだ。
美羽から手を離し、
「わかったわ。とりあえず零くんは美羽ちゃんを守りなさい。解散して良いわよ。」
美羽が可愛くて仕方ないのか、笑顔でそう言った香坂先輩。俺はすぐに返事をした。
「先輩、美羽は意地でも守ります。」
美羽の顔がさらに赤くなった様な気がしたのは気のせいだろうか。
美羽と俺は会議室から退室した。
「お兄ちゃん、ありがとう・・・。」
下を向いてそう言った直後、
「なんでもないっ!」
そう言い残し走り去った。
美羽、どうしたのだろう・・・。
その背中を静かに見守った。
その日の午後、二人の初任務が待ち受けていた。
ーードン
かなり遠くで爆発音の様なものが聞こえた。その直後、脳内に声が聞こえた。
「零くん、聞こえるかしら。ポイントF21で爆発が起きたわ。美羽ちゃんを連れて急行してもらえないかしら。」
朝日奈先輩だ。強力なテレパスで司令塔を務める。
『美羽、聞こえるか。F21に急行するぞ。』
『わかった。』
無線のようなもので通信を行い、現場へ急行した。
これが美羽との初任務となる。