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魔術学院マイナーデ  作者: 宣芳まゆり
招かれざる客人たち
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93/104

15-4

翌日,アデルがシグニア王国国王への手紙をコウスイに手渡すと,

「お二方が当学院に入学できるように,私からも一言添えさせていただきます.」

コウスイはなぜか,にこやかな笑顔でそう言った.

「……ありがとうございます.」

学院長の態度の急変に,王子はとまどう.

しかし次の瞬間には,慎重に笑みを形作った.

「期待させていただきます,学院長殿.」

シグニア王国内の状況が変わったのだろうか.

王宮から帰ってきたライゼリートが,何がしかの情報を持って帰ったのかもしれない.


アデルは完璧な礼儀を守り,コウスイの書斎から退出する.

すると廊下では,金の髪の少年が彼を待っていた.

「入学は,できません.」

深い緑の瞳が,アデルをまっすぐに見つめてくる.

「じ,……祖父がなんと言ったのかぞんじませんが,入学はできません.」

アデルには,ライムの発言の真意がはかりかねた.

軽くまゆを上げて,言い返す.

「それを決めるのは,あなたではなく学院長殿でしょう.」

ライムは不機嫌な顔で,はいともいいえとも答えない.

昨日はライムとコウスイは協力してアデルとの舌戦を制したのに,今日はまったく逆のことを口にする.

何かのきっかけで,二人の意見は対立したのかもしれない.


「姉の手紙を読んでいただけましたか?」

さりなげなく歩を進め,アデルは会話の切り口を変えた.

「……彼女の気持ちはうれしいのですが,」

ついてゆきながら,ライムはお決まりのせりふをしゃべる.

「姉との結婚は,あなたにとって有利ではありませんか?」

「は?」

ふいに金の髪の少年の仮面が,ぽろっと外れる.

結婚に有利だの不利だの言うアデルに,アデルと同じ王族であるはずの少年は驚いたのだ.


沈黙という微妙な間があく.

ライムはすぐに仮面をかぶりなおした.

「申し訳ございませんが,辞退させていただきます.」

しかしそのしぐさが,アデルには子どもっぽい,いや年相応のものに見えた.

「私にはすでに,……心に決めた女性が,いるので……,」

取り澄ました顔を作るのだが,声には隠し切れない照れがにじみ出ている.


このアデルの後ろをついて歩く少年は,真実愛し合う女性と人生をともにするのかもしれない.

「……貴国は一夫多妻制ではありませんでしたか?」

アデルは意識して,馬鹿にするように口をゆがめた.

なぜか,自分がひどくみじめな存在に思えたのだ.

「俺,私はそのような不誠実なことをするつもりはありません.」

言い慣れないことを言っているせいか,少年のほおがかすかに赤く染まる.


……ならば,その不誠実なことをやってもらおうではないか.

姉の待つ客室までたどり着くと,アデルは笑顔を作って振り返った.

「お茶を飲んでいかれませんか?」

ほしいのは,魔術大国シグニアの知識.

「結婚のことはひとまず置いといて,……政治的なことも忘れて,」

学院長コウスイの孫であり,強大な魔力を持つ王族の一員でもある.

魔術学院の優秀な生徒であり,ティリア王国侵攻を食いとめた戦争の英雄でもある.

「友人として,お話しませんか?」

ほしいのは,この輝く金の髪を持つ少年だ.


「ライム,大丈夫かなぁ……?」

教室の中で自分の声が思った以上に響いて,サリナは少しどきりとした.

「大丈夫だと思いますよ,……むしろサリナの卒業の方が心配ですね.」

真正面の教壇の上から,すぐさま返事が返ってくる.

「おぉ!? ひどい言われ様だな! 言い返さなくていいのか?」

と思うと,真横からも笑いまじりの野太い声をかけられる.

彼らは,マイナーデ学院の教師たちである.


一人でも生徒がいるのならば授業をしなくてはならないと,彼らは律儀にもサリナを部屋まで迎えに来たのだ.

「おいそがしいのでは……?」と少女は遠慮したが,差し出された成績表を見て絶句する.

ただでさえ,少女は成績が悪い.

なのにユーリに誘拐され,戦場まで出張った結果,少女は隔月にある学院の試験を一回さぼってしまった.

よって,卒業にぎりぎり足るはずだった成績が一気に落ちてしまったのだ.


もちろん試験に出なかったのはライムも同様であるが,首位を独走状態の少年にとっては,さまつなことである.

あえて言うのならば,主席卒業が難しくなった程度だ.

しかし少女にとっては一大事だ.

最後の卒業試験で高得点を取らなければ,卒業単位がもらえなくなる.

「いやぁ,教師三人に対して生徒ひとり! 理想の教育環境だな!」

特殊魔方陣の教官ダグラスが,少女の背中をばしばしとたたく.

すると呪文を書きつづっていた少女は,ペン先を折ってしまう.

「こら,ものは大切にしなさい.」

少女のせいで折れたのではないのに,ダグラスの逆隣に腰かけている感応魔術の教官トゥールにしかられる.

「ちょうどいい,復元魔法で直しなさい.サリナ,精密部品を復元するにあたっての注意事項は?」

たたみかけるように,真正面に立っている回復魔法の教官ラティンが問いを出す.


「えぇっと……,」

ずっと一緒にいよう.

卒業したら,サリナの村へ一緒に帰ろう.

「修復箇所の内部構造を,……知っていることと,」

まさか,こんなまぬけなことで少年との誓いをやぶるわけにはいかない.

「……物質の,……えっとぉ,」

冷や汗をだらだらと流しながら,少女は必死に教本の内容を思い出そうとした.


アデル王子が去った後の書斎で,コウスイはひとり,幻術魔法の準備をしていた.

このしかけがうまくいけば,アデル王子はみずからの意思でこの学院を逃げ出すだろう.

それこそ,一目散に.

「まったく,昔から悪知恵ばかりがよく働く.」

国王となったばかりの青年に対して,言葉だけで悪態をつく.

少年だった彼を何度,説教のために学院長室へと呼び出したのか分からない.

「まったく,な.」

一瞬,老人の目に遠い過去を懐かしむ光が宿った…….

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