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魔術学院マイナーデ  作者: 宣芳まゆり
始まりの光
81/104

13-2

新王イスファスカは,翌日の即位式を待たずにいくつもの決定事項を発表した.

それらはどれも人々を驚かせるものであった.


「なぜだ?」

金の髪の男のいぶかしげな視線を,イスカは平然と受ける.

「後悔するぞ,俺を自由にするなど…….」

新王の後ろに控えるのは,元同級生であり王国騎士のカイゼである.

城の地下ろうの中で,カイゼは油断なく虜囚の動きを見ている.


「俺はけっして,つけいるすきを与えませんから.」

赤毛の青年はタウリに,死刑ではなく国外追放の罪を与えた.

「あなたがこれから先,どこで何をしようと必ず防いでみせます.」

挑発とも取れる言葉を,余裕に満ちた穏やかな顔で告げる.

「すごい,自信だな……,」

タウリの皮肉にも動じない.

「俺には,しかってくれる仲間と支えてくれる女性がいるので.」

照れくさそうな,そしてまぎれもない幸せそうな笑みを見せる.


自分と同じ境遇を持ったおいだ.

なのに,この差は……,

ふいに何かよく分からないものがこみ上げてきて,タウリはイスカに向かって大きく一歩を踏み出した.

すると目にもとまらぬ速さで,剣の切っ先をのどに突きつけられる.

騎士の青年が,まっすぐにタウリを見すえていた.

「……何も,するつもりはない.」

あえぐように,タウリは声を出す.

「分かっています,だからすんどめにしました.」

ちりちりと小さな炎をまとわせる剣.

青年の言葉は,危害を加えるつもりだったのならば,切り捨てるつもりだったということだ.


「でも,タウリおじには何もできないと思う!」

暗い地下ろうから明るい地上へ出ると,イスカはう~んと伸びをした.

「二度も失敗したんだ,どこの国もおじのざれ言には耳を貸さないだろう.」

ティリア王国が,再びおじを受け入れるとは思えない.

それ以外の国にとっても,おじは利用価値があるとは考えられなかった.

「さっきはありがとう,カイゼ.」

にかっと笑って礼を述べると,イスカは友人にばんっと背をたたかれた.

「どういたしまして,国王陛下.」


次にイスカは,妹であるイリーナ王女の部屋へと向かった.

美しい銀の長い髪をした王女は,冷ややかな侮蔑しきった顔で兄を迎える.

「イリーナ・ケッセン・トニア・シグニア,少女誘拐の罪で自宅謹慎を命じる.」

イリーナは無言で兄の顔をにらみつける.

イリーナでさえ忘れていた,ユーリによるサリナの誘拐について兄は言っているのだ.

「王都炎上の罪は償ってもらう,死者こそ出なかったが,」

「出て行って!」

声を荒げて,イリーナは赤毛の青年に背を向ける.

「出て行って! 今すぐ!」

顔も見たくない,声も聞きたくない.


「あなたの命令なんて聞きたくない!」

自分を守るように肩を抱いて,イリーナはヒステリックに叫んだ.

「私は,あなたの王位継承なんて認めない!」

背後に小さくため息を吐く音と,ついでドアの閉まる音.

振り向いて,赤毛の青年がいなくなったことを確認すると,イリーナは大声で泣きわめき始めた.

今までイリーナを守っていたものがすべて,崩れ去ったのだった…….


「サリナちゃん,」

サリナが自室でマイナーデ学院へと帰る準備をしていると,懐かしい人物が少女の部屋に訪れた.

「キーリ先輩!」

少女は歓喜して,亜麻色の長い髪の女性に抱きつく.

「おひさしぶりです! ……あっ,ご結婚おめでとうございます!」

サリナはさきほどスーズから聞いたばかりのことを思い出して,祝福の言葉を続けた.

キーリは,少し照れくさそうにほほえむ.

「ありがとう,サリナちゃん.」


彼女は,マイナーデ学院でのサリナの先輩である.

長いまっすぐな亜麻色の髪は学生時代から変わらない.

小柄な体で,大柄なイスカと口げんかをしては彼を言い負かしていた気の強い女性である.

けれど……,

キーリ先輩,すごくきれい…….

目の前に現れた懐かしい女性に,少女は思わず見ほれてしまう.

学院にいたころと比べて,どこかつやっぽくなったというか色っぽくなったというか.


サリナが学院に入学したときから,イスカとキーリはうわさの二人だった.

イスカがキーリの婚約者をなぐって婚約を取り消させただの,カイゼとイスカでキーリを取り合っての三角関係だの,うそか本当か分からないうわさが多かった.

しかしイスカとキーリの仲がよいことだけは事実で,誰もがこの二人の仲を応援していた.


サリナのあこがれの先輩たちは明日,結婚する.

「急な話で嫌になる.」と文句を言うキーリは本当に幸せそうで,サリナは自分のことのようにうれしく感じた.

サリナの付き人であるルッカも巻きこんで,三人でお茶を飲みながらおしゃべりに興じていると,コンコンというノックの音とともに,

「キーリ,いるかぁ?」

と,どこかまぬけた青年の声が聞こえてきた.


「ごめん,私,行くね.」

軽く手を合わせて,キーリはすぐに立ち上がる.

国王陛下が,みずから妻を迎えにきたのだ.

「……仲のよいご夫婦になりそうですね.」

ルッカのつぶやきに,サリナは誇らしげに同意した.


廊下へ出るとすぐに,キーリはイスカに抱きすくめられた.

「やめてよ,人に見られる.」

腕の中でじたばたともがくのだが,青年は離してはくれない.

目の端にメイドが二人映ったように思えたが,彼女たちはすぐに消えてしまった.

「別にいいんじゃねぇ? どうせ明日には結婚するんだし,」

「あんたね! まさかそんな理由で結婚するの!?」

きっとにらみつけると,赤毛の青年はごまかすように視線をそらす.

「えっと~~~,……俺はキーリがいないと駄目なんだ.」


「知っている!」

ぐいっと青年の鼻をつまんで,言い返す.

「イスカが情けなくて,かっこ悪いことぐらい!」

「なら元気づけて,……さっきイリーナのやつに思いきり泣かれたから,」

真剣な顔で甘えられると,憎まれ口がきけなくなってしまう.

「大きな子どもみたい……,」

なかば以上無理やりに口づけられて,キーリは青年との新しい関係を受け入れた…….

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