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友人(前編)

「サリナを離してくれませんか? ユーリ様.」

スーズはできるだけ柔らかい口調で告げた.

しかし険しい顔で振り返る黒髪の少年.

「お願いします.」

念を押すように,スーズはもう一度頼んだ.


放課後のマイナーデ学院の中庭で.

ユーリは,つかまえていた少女の腕を離す.

青い顔をしたサリナは,すぐさま背を向けて逃げ出した.

助けてくれたスーズにお礼も言わないで.


なにやら相当にショックなことがあったらしい.

少女の姿が消えた後で,気まずそうな顔をしてユーリも逃げ出す.

嫌な感じだ,と思う.

これは自分の主君に伝えておいた方がよかろうと,スーズも中庭から去った.


スーズの主君,それはシグニア王国末王子のライゼリートのことである.

見事な金の髪を持ち,なかなか見目のよい少年だ.

そのためか,それとも王子という身分が魅力的なのか,十六歳となった今,縁談の申しこみがひっきりなしに来る.

また,果敢にも直接アプローチをしてくるマイナーデ学院の女生徒もいて,少年の方ではへきえきしているらしい.

ある意味,この学院は玉のこしの場でもあるのだ.


ライムとはまったく逆のパターンで,異性にもてている少女がいる.

それが,ただ一人の平民生徒であるサリナだ.

最高学年に上がると同時に,水面下で同級生の貴族の少年たちによる争奪戦が始まったように思える.

けっして美しい顔だちをしているわけでも,魅力的な肉体を持っているわけでもない.

けれどサリナには,貴族の少年たちがけっして持ちえない暖かな雰囲気があるのだ.


学院の図書室の中で,スーズは金の髪の少年の姿を見つけた.

本棚と本棚の間で,一冊の大きな本を熱心に読んでいる.

真剣な横顔は声をかけるのをちゅうちょさせるが,青年は遠慮なく呼びかけた.

「殿下.」

本に集中していた少年は,少し不機嫌そうに顔を上げる.

「なんだ? スーズ.」

まじめな少年の顔に,青年は苦笑してたずねた.

「あなたは参戦しないのですか?」

故郷の村へ帰る少女の,卒業後の未来をかけた戦いに.


「何に?」

何かを含んだような青年の言い方に,少年は首をかしげる.

十六歳という微妙な年ごろである少年は,ふとした拍子に子どもっぽいしぐさを見せる.

「サリナがユーリに言い寄られていましたよ.」

するとぴくんと少年のまゆが跳ね上がる.

次は幼いながらに,男の顔つきだ.

「どこだ?」

読んでいた本を本棚に戻し,少年は性急に出て行こうとした.

「大丈夫ですよ,殿下.」

青年はそっと少年を押し留める.

「殿下のご命令どおりに,ちゃんと邪魔をしましたから.」

「お,俺がいつそんなことを頼んだ!?」

ぎょっとして,少年が真っ赤になって叫んだ.


周囲の生徒,教師たちが白い目を向ける.

ここは静寂を愛する者たちの場所である.

「俺はそんなことは頼んでいない.」

大声を出してしまった自分を恥じて,少年はこそこそと小声でしゃべる.

「で,サリナはどこにいるんだ?」

「簡単なことですよ,殿下.」

それでも少女のもとへ向かおうとする少年を,青年はとめた.

「あなたが欲すればいいのです.」


王子である少年が名乗りを上げれば,誰もサリナにちょっかいを出すことはできなくなるだろう.

「……何の話だ? スーズ.」

顔を険しくして,金の髪の少年が問いかける.

「素直にならないと,きっと後悔することになりますよ.」

少年は王子であり,少女は平民である.

マイナーデ学院を卒業してしまえば,もう二度と会うことはないだろう.

ましてや,少女の故郷は王都から遠く離れた辺境の地なのだ.

「殿下からの申し出ならば,サリナは,」

「俺はサリナの友人だ.」

スーズの言いたいことに気づいて,ライムはぴしゃりと言葉をさえぎった.

「それに俺は……,」

言いかけてから,言葉途中にやめる.

少年の続きの言葉を,青年はよく分かっていた.

分かった上での,忠告だった.

少年はそれ以上は何も言わずに,図書室から出てゆく.


友人だから助けるのも慰めるのも当然だと,自分の心の中で言いわけをしているのかもしれない…….

青年は軽くため息を吐いて,主君の後ろ姿を見送った.


校舎の中を大またで歩きながら,ライムは黒髪の少年と出会った.

おそらくたがいにもっとも出会いたくなかったにちがいない.

そしてもしかしたら,同じものをさがし求めているのかもしれない.

すれちがいざまに,ユーリの方が先に口を開いた.

「サリナは,……俺がもらうから.」

かちんときて,ライムは感情のままに振り返る.

「サリナはものじゃない.」


一瞬にして,痛いほど張り詰める空気.

先に視線をそらしたのは,黒髪の少年の方.

「……邪魔,するなよ.」

苦々しげに言葉を押し出す.

対する金の髪の少年の方は,するともしないとも答えることができない.


「俺は,サリナの友人だ.」

言いたいことと別のことを言っているという自覚は,ちゃんとライムにはある.

「サリナが困っていたら,助けるだけだ.」

けれど王子であって王子ではない少年には,少女を望むことはできない.

自身の見えない未来に,大切な少女は巻きこめない.

「……よく言うよ,」

黒髪の少年は顔をゆがめて舌打ちをし,金の髪の少年の前から立ち去った…….

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