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魔術学院マイナーデ  作者: 宣芳まゆり
王の子どもたち
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73/104

12-4

「サリナ,サリナ……,」

薄闇の中,自分の名を呼ぶ少年の声で目が覚めた.

「……ライム,」

どうやら少年を待ちながら,ベッドで眠ってしまっていたらしい.

「ごめん,寝ていた.」

すでに外は,どっぷりと日が暮れていた.


「別にいい.」

差し伸べられる少年の手を取り,少女は起き上がった.

ついで,枕もとに置いてあった荷を引き寄せる.

「準備,できているよ.」

少女がにこっとほほえむと,少年はどこかあいまいに笑みを返した.


ずっと一緒にいよう.

「転移魔法で飛ぶよね? 魔方陣,描いておいた.」

俺は,簡単な気持ちで好きだと言ったんじゃないから.

「紋様が間違っていないか,確かめて.」

私だって,簡単な気持ちでライムの求婚を受けたんじゃないよ.


離さないで.

私を離さないでほしい.

ちがう,私がライムを離したくない.


「……分かった.」

少年の笑顔がつらそうなものであることに,少女は気づいたが気づかないふりをした.

少女はベッドの脇机の上から分厚い封筒を取り,少年に手渡す.

「お父さんとお母さんに置手紙をしてもいい? 行き先とかは書いてないから.」

手渡された封筒の重さに,金の髪の少年は,

「ごめん,サリナ.」

ベッドに腰かけている少女の身体を,強く抱きしめた.


「逃げるのはやめよう…….」

すると少年の腕の中で,少女が身じろぎする.

「どうして?」

少女の声には,少年を責めるものがこめられていた.

「私,ライムと姉弟なんてやだよ.」

少年を見上げる少女の淡い緑の瞳は,かすかに険しさを含んでいる.

「俺だって嫌だ.」

それは少年も同じ気持ちだ,マイナーデ学院を卒業して,結婚して,二人で故郷へ帰る.

あと,ほんの少しで少年の夢はかなうはずだったのに.

「なら,どうして,」

言葉を途中でさえぎる少年の唇,少女は黙ってそれを受け入れた.


「今,逃げたら,二度とこの国へ戻れなくなる.」

深緑の瞳が,少女よりも先に大人になってしまったかのような少年の瞳が告げる.

「サリナの故郷へは,」

「私はライムさえいればいい!」

怒ったような声を,少女は上げた.

「お父さんもお母さんもいらない,村へは帰らなくていい!」

「サリナ……,」

少年はなだめるように,少女のほおをなでる.

「それじゃぁ,俺が嫌なんだ.」


「サリナを我慢させることが,サリナがほんの少しでも不幸になることが,」

「だから,私はライムさえいればいいの!」

少女はかみ付くように言い返した.

どうして分かってくれないのか.

どうして何も考えられないほどに,自分のすべてをさらっていってくれないのか.

もうすべて,奪われてしまっているのに……!

「今さら,……私を離さないで!」

これほどまでに,捕らえておきながら.


予想だにしていなかった少女の激情に,少年はとまどった.

いつも強引なのは少年の方で,少女はただそれを容認するだけだったのに.

「サリナ.姉弟じゃなくなる方法は,きっとあるから.」

少年は,きちんと結わえられた少女の髪をほどく.

「どこに!?」

きっとにらみつける少女のくせ毛に踊りだす髪に,手を差し入れて,

「分からない,でも必ず見つけてみせる,」

少年は何度も何度も,少女の髪をすいてゆく.

「ライム,でも……,」

解かれてゆく髪に,少女は少年に反抗する気持ちを保てなくなる.

すぐにひっかかる髪が,少年の手にかかると,いともたやすく流れてゆく.

「イスカ兄貴もスーズもじいさんも皆,力になってくれるはずだ.」

落ちついた深緑の瞳が,少女の心を静めてしまう.


次に少年は少女の上着を脱がしてやり,少女の旅装を解いてゆく.

「俺はサリナのことをあきらめないから,だから,」

少女はぼんやりと,少年に服を脱がされていった.

「サリナも,俺のことをあきらめないでくれ.」

「ごめんなさい,ライム.……私のせいで,」

少女は唐突に,自分の非に思い至った.

少年が少女のためについてくれたうそが,ばれてしまったのは,

「私がうまくしゃべられなかったから,腕輪をはめたままにしていたから,」

自分が国王の娘であることが,ばれてしまった.


「それはちがう,サリナ.俺のせいだ.」

少年は,祖父のコウスイの言葉を思い出していた.

ライム,どれだけ隠していても,サリナのことはいつか露見するだろう.

そう,老人はちゃんと少年に忠告をしていたのだ.

ならば先手を打つべきだ,サリナについている竜は,ライム,君のものだと……,

一刻も早くに,少女と婚姻を結べと.


「本当は……,」

好きだと告白したときに何もかもを打ち明けて,自分との結婚をこえばよかったのだろうか.

少女の首筋に唇を滑らせて,少年は後悔する.

「……好きだよ,」

きゃしゃな少女の体をきつく抱きしめて,なのに壊れもののようにそっとベッドに横たえてやる.

「でも,それはサリナに幻獣がいたからじゃない.」

最初からこうして抱いていれば…….

けれど大事にしたかったし,誤解されるのを恐れていた.


「……知っている.」

瞳を伏せて,少女はかすかにつぶやく.

優しさにひかれて,想像していなかった熱さに流されて.

そばにいたいと願い,誰よりも束縛されている.

「でも,……もっと言って,」

……分かっているけど,聞いているのよ.

「うれしいから,それだけで私は強くなれるから.」

……うれしいお知らせは,ちゃんと言葉にしてほしいの.


「……分かった.」

少年は楽しそうに,くすりとほほえんだ.

「好きだ,サリナが好きだ.」

真摯な瞳で告げる,そして言葉以上に少女の身体に言い聞かす.

「……私も,」

ほおを紅潮させて,想いを漏らす少女の唇をふさぐ.


好きだと言葉だけでは伝えきれない.

優しく激しく,そしてただ甘く…….

夜が明けるまで抱きしめて,けっして解けない魔法を少女にかけた.

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