少年の選択
柔らかい暖かなものに包まれて,眠っていた.
ふっと意識が浮上し,少年はそれをぎゅっと抱きしめる.
とたんにそれが何であるかに気づき,少年は暗闇の中,がばっと跳ね起きた!
「サリナ……?」
テントの中,少年は同じ寝床で眠る少女のあどけない寝顔を,ぼう然と見つめる.
少女は母親がわが子を寝かしつけるように,少年を抱いて眠っていたのだ.
なぜこのような事態に至ったのか.
少年は自分が眠ってしまったきっかけを思い出し,舌うちしたい気分になる.
今夜は二人きりで過ごせるものだと思っていた少年に,少女は何を思ったのか強制睡眠の魔法をかけたのだ.
身の危険を感じたのか,眠れないという少年の言葉を眠りたいものだと解釈したのか.
どちらにせよ,少年にとってはなんとも情けない話である.
少年はため息を吐いて,立ち上がった.
視点の移動とともに,隣の寝床で眠っている青年の存在に気づく.
「ス,スーズ!?」
今度は,少年は本気で驚いた.
少女と二人きりと思いきや,とんだお邪魔者がいたものである.
しかも青年は,二つしかない寝床のうちのひとつを占領している.
もともとこのテントはライムとスーズのものである,予備の毛布など用意していない.
つまり少年は今から朝まで,防寒具なしの状態で眠らなくてはならない.
……もしくはスーズかサリナの寝床へもぐりこむか.
いや,それとも朝まで散歩でもして時間をつぶすか.
散歩案が一番ましに思えるが,さすがに少年は疲れていた.
戦場で魔力,体力ともに使い果たし,そして明日の朝は前代未聞の大魔術を成功させなくてはならない.
王城へと送る兄のことを思うと,きちんと休まなければならないだろう.
となると……,
金の髪の少年は,憎らしくなるほどに安らかに眠っている少女と青年の顔を見比べた.
どちらがいいのかと問われれば,もちろん答えは決まっている.
決まっているのだが,少女のもとへ戻れば自分の理性など簡単に吹き飛んでしまうだろう.
「なぜ,みずから好き好んで……,」
男の寝床にもぐりこまなくてはならないのか.
少年はぶつぶつと文句を言いながら,スーズの寝床に足をつっこんだ.
少女の胸の中で眠っていたさきほどまで比べたら,まさに天国と地獄である.
せまいし,暑苦しいし,男臭いし.
最悪な気分である.
少年はげんなりとして,隣で眠る少女の顔を眺める.
どうせ魔法をかけるのならば,ちゃんと朝まで眠れるようにかけてほしかった.
そうすれば,少女に抱かれたままで眠っていられたのに.
「……ったく.」
いくら文句を言っても言い足りない.
心の中で少女と青年に対して悪態をつきながら,少年は眠りに落ちていった.
次の朝,
「ライム殿下,私にその気はありませんから.」
青年の笑顔は,少しだけ引きつっていた.
「俺だって,その気はない!」
金の髪の少年は,真っ赤になってどなり返す.
「ライム,私,そんなに寝相が悪かったの?」
少女の的外れな質問に対しては,
「そんな理由で移動するか!」
もはや説明する気力もない.
朝食が食べ終わるころには,すっかりと少年の機嫌は悪くなっているのであった…….




