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魔術学院マイナーデ  作者: 宣芳まゆり
魔術師の戦い
60/104

10-2

柔らかい光を放つ金の髪,深い緑の瞳.

すっと整った目鼻立ちは,さぞかし異性に騒がれるにちがいない.

確かにリーリアの息子だと,同じく金の髪を持つタウリは思った.

「母上はどこにいる?」

少年はただ一人で,ティリア王国軍陣中へとやってきた.

「すぐに会わせてくれ,母上のためにシグニア王国を裏切ったのだから.」

持っていた大剣は奪われ,丸腰の状態で.


少年の容姿と持っていた剣から,にせものではなく本物の王子であろう.

「ライゼリート・イースト・トーン・シグニア……,」

「そうだ.」

タウリのつぶやきに,少年はまっすぐな瞳でこたえる.

少年を囲むティリア王国の将軍たちは,感動すべき親子の対面に息を詰めた.


王子ライゼリートは自分の裏切りを信用させるために,シグニア王国軍の動きを漏らした.

昨日の勝利はそのためであり,王子を疑う理由はもはやないように思われる.

しかし,強大な魔力を持つ王子である……,

「会いたかったぞ,わが息子よ.」

緊迫した周囲の空気にかまわずに,タウリは破顔した.

その笑みは度胸があるというよりも,何かがねじ曲がっているような印象を与える.

「息子……?」

まゆをひそめる少年の肩を,男は「そのとおりだ.」となれなれしくたたく.

二人を囲むティリア王国の軍人たちは,腰の剣からけっして手を離さない.

「ライゼリート,お前は俺の息子だ.もはや,あんな兄の息子のふりなど,」

少年は,タウリの手を乱暴に払った.

「何を言っている?」

上機嫌で笑いかける男に,少年はとまどいよりも嫌悪を感じる.


敵意を隠さない少年の視線を受けて,男の笑みが不気味にゆがんだ.

「流れる血脈,いむべきつながり,」

男の唱える呪文に,少年の胸がどくんと鳴る.

「なっ……?」

崩れるように,少年はがくりとひざをつく.

「胎児の記憶にむしばまれる者よ,わが前に頭垂れよ.」

体中の血液が,どくどくどくと波打つ.

あぶら汗がにじみ出て,少年は倒れそうになりながらも男の顔をにらみつけた.

「親が胎児にかける洗脳の魔法だ,」

優越感に満ちた父親の表情に,少年はこれが自分の父親かと歯がみする.

「知っているだろう,ライゼリート.魔術学院の成績は申し分ないと聞いているぞ.」

タウリの自信の源はこれだったのかと,ティリア王国の者たちも驚く.

彼は最初から息子を利用するために,魔法をかけていたのだ.


「あんたは成績が悪かったらしいな,」

負け惜しみか,少年がうめくように言葉を押し出す.

と,いきなり,少年は肩を震わせて,

「よくこれで卒業できたものだな.」

くつくつとおかしそうに笑い出す,けげんな顔をする父親と周囲の者たちに向かって.

「ライゼリート"理性の光"の名を持つ俺が,」

それは母が名づけた名,狂気におちいるであろう自身をいましめるために.

「喪心の術に,かかるわけがないだろ!」

少年はすっくと立ち上がる,不敵な笑みを浮かべて.

「知性の光よ!」

少年が右手をかざすと,白い光がスパークした!


次の瞬間には,少年は白銀に輝く杖を右手に持っている.

「取り押さえろ!」

指揮官の一人が,兵士たちに命令する.

魔術師など長い呪文を唱え終わる前に捕らえてしまえば,ただの無力な人間だ.

たとえ接近戦に強い魔法剣の使い手だとしても,少年の剣はすでに奪い去った.

「魔術師の衣装が,なぜ黒いのかも知らないらしい.」

余裕に満ちた少年の笑み,少年は自分の身長ほどある長い杖でどんと大地を打つ.

「閉ざされた大地よ,今こそ開け!」

とたんに大地が輝きだす,少年の黒の衣装に黒のインクで描かれた呪文がりん光を放つ.


「うわっ!?」

「伏せろ!」

光の圧力に,兵士たちがなぎ倒される.

呪文を唱える必要などない,マントにも頭に巻かれたはちまきにもびっしりと呪文が書かれている.

「わが祖父の封じたる光の大地,」

少年の声に,すでに魔力がこめられていた杖が反応する.

きっかけの言葉さえ与えてやれば,魔法はすぐさま発動する.

「封印を解き放て,」

本来補助の役割ぐらいしか担わない魔法具を,少年は十二分に利用しつくすことができる.

「命じるわが名はライゼリート!」

腰にはいていた剣など,ただのフェイクだ.

少年の武器はただひとつ,魔術師としての知識の豊富さ.


ティリア王国軍陣中に,巨大な光の柱が立つ.

それが合図.大勢の男たちの喚声とともに,陣の外側に燃え上がる竜が出現する.

「幻獣!?」

竜のまき散らす火の粉がここまで飛んでくるかのような,圧倒的な存在感.

幻獣,シグニア王国炎の守護竜!

「シグニア王国軍が攻めてきたぞ!」

「応戦しろ!」

しかし反撃を指揮すべき貴族士官たちは,皆この場にいる.

指揮官の不在,突然の攻撃に兵士たちが浮き足立つのが簡単に予想できる.

兵士たちに命令を下そうと,この場から逃げだす将軍たちに向かって,

「行かすか!」

金の髪の少年は突進する!

長い杖を振り回し,自分よりも身体の大きな男たちを草を刈るように打ち倒してゆく.


「棒術……,」

出会ったばかりの息子の勇姿を,タウリはぼう然として眺めた.

武術の使い手でもあるのか,それともこれも魔法の一種なのか.

細い少年の腕にそのような力があるとは思えない,けれど少年の一振りで三人もの立派な体躯を持つ男たちが一気に地に倒されるのだ.

「囲め!」

少年のあまりの強さに,半狂乱になって指揮官たちが叫ぶ.

「相手はたった一人だぞ!」

少年の前も後ろも敵だらけ,すると少年は服のポケットから黄色い砂をまき散らす.

バンバンバンバン! と派手な爆発が続き,白銀の杖が輝いたかと思うと,幾条もの雷が落ちる.


「まともに相手するな! 散開しろ!」

それでも,魔術師との戦いに慣れた年かさの者は冷静な指示を出す.

今は逃げて,少年の魔力がつきるのを待てばよいのだ.

別の指揮官たちが外から攻めてくる敵に対処すべく,少年に背を向けて逃げようとする.

「しがらみの糸よ,わが敵を留めよ!」

それに気づいた少年は,黒いハチマキをほどく.

するとただの布であったそれは蛇となり,逃げる男たちを追いかける.


地面をしゅるしゅると走る,これも少年の魔法具だ.

「ひぃ……!?」

「走れ,追いつかれるな!」

そして地面に溶け出して,黒い大きな染みを作る.

染みにとらわれた男たちは,みずからの足がまったく動かなくなってしまったことに気づいた.

縛身の魔術,なんとあざやかな.


軍の心臓部である司令部で暴れる少年にてこずっていると,敵の攻撃を受けている北東部の部隊から兵士たちがやってくる.

なかなか指示をくれない将軍たちに,援助にやってこないほかの部隊にいらだちを隠し切れず,

「将軍,敵が……!?」

だが司令部の惨状に,言葉が続かない.

いつの間にか大地に描かれていた大きな魔方陣の中心で,金の髪の少年が長い杖を振るう.

「天の裁き!」

さきほどのものと比較にはならない,どぉぉとすさまじい音を立てて雷が何条も落ちてくる.

誰にも命中しないのがふしぎなほどだ,少年には敵を殺そうという意志はない.


しかし,

「戦線が保てない!」

「前線部隊は混乱しているぞ!」

戦況は,あきらかにこちらに不利に進んでいる.

そして少年が短い呪文を唱えつつ杖を振るうたびに,男たちが,本来ならば兵士たちにげきを飛ばさなくてはならない司令官たちが倒されてゆく.

「駄目だ,どうすればいいんだ!?」

頭を抱える一人の兵士の両隣で,なぜか同僚たちが立ったまま眠りこけて,ばたっと倒れた.

周囲を見回せば,皆,ふかしぎな睡魔にあがらいきれずに倒れてゆく.

「これも魔法なのか!?」

もはや驚きではなく,恐怖だ.

少年の多種多様な魔術に,軍司令部は流血なくしてほんろうされている,完全に足どめされている.


すると,

「ここまでだ! ライゼリート!」

突然の男の声に,少年の動きが止まる.

金の髪の男が金の髪の女の首に剣を突きつけて,金の髪の息子をにらんでいた…….

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