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プレゼント

「えええええ!?」

放課後の教室で,サリナは大声を上げた.

「し,知らなかったの?」

サリナの驚きに,クラスメイトのフィリシアも驚く.

「サリナってば,ライム王子と一番仲がいいのに.」

友人の言葉に,サリナは深い深い落とし穴にはまったように落ちこんだ.


今日はサリナにとって大切なクラスメイトである,ライムの誕生日らしい.

入学してから半年がたったが,ライム王子と一番の仲よしは私! みたいな優越感があった.

実際,人見知りをする王子には友人が少ないのだが…….


「どうして,みんなライム王子の誕生日を知っているの!?」

少女のショックは深くて大きい.

その大きさといったら,故郷の村から見えるシグニア王国一の高さを誇るミレー山脈ほどだ.

しかも今,目の前にいるクラス一の美少女フィリシアはライムにプレゼントを渡したらしい.

「それは,ライム王子が王子だからでしょ.」

フィリシアはおもしろくなさそうに言った.

事実,フィリシアとしてはおもしろいわけがない,親の命令で王子にプレゼントを渡したのだから.


「多分,先輩たちもライム王子にプレゼントを渡すんじゃない?」

親の命令か,自分の意志かは別として.

王子のもとには,真心ではなく下心の詰まったプレゼントが集まるのだろう.

「そんなぁ…….」

まったくプレゼントなど用意していないサリナは,さらに落ちこむ.

これはやばい.

理由などよく分からないが,これはものすごくやばい事態だ.


「私,……出遅れている.」

サリナの悲しみに満ちた声に,思わずフィリシアは笑いそうになる.

たかが誕生日プレゼントごときに,まるで明日世界が終わるような悲愴さだ.

「大丈夫だよ,サリナ.」

フィリシアは親に,なんとしても王子ライゼリートを口説き落とせと言われている.

付き人たちも乗り気で,今のところ一番のライバルになりそうなサリナを警戒していたりもするのだが…….

「私が手伝ってあげる.ライム王子だってサリナからのプレゼントが一番うれしいよ.」

一番という単語を微妙に強調して,しゃべる.

フィリシア本人は,サリナの味方だった.


「でも……,」

するとフィリシアの予想に反して,サリナは迷った顔を見せた.

まさか私にやきもちを焼いているんじゃないでしょうね.

フィリシアは試しに言ってみる.

「あのね,サリナ.私はライム王子のことなんて好きでもなんでもないから.」

サリナの顔が,かっと赤くなった.

「あんな弱虫な男の子,嫌いだもの.」

「王子は弱虫じゃないもん!」

自分が悪く言われたかのように,サリナは言い返す.


「そりゃ,ちょっと暗い性格をしているかもしれないけど,」

笑うとすっごくかわいいんだから! という続きの言葉はのみこむ.

金の髪の少年の笑顔は,親しくなった者だけの特権だ.

「私,なんとしても今日中にプレゼントを用意する!」

その特権が別の女の子に取られるのかもしれない,そう思うと胸が苦しくてやるせない.

特にフィリシアはものすごくかわいくて,大貴族の娘でもあるのだ.

「教えてくれてありがとう!」

律儀に礼を述べると,薄茶色の髪の少女はすぐさま教室から出て行ってしまった.

「……サリナって,」

後に残されたフィリシアは,あきれるばかり.

「かわいいやつ.」


結局サリナは三日遅れで,刺しゅう入りのハンカチをプレゼントしたらしい.

当然,三日間ほぼ徹夜だったのだろう,授業中は隣で見ていて恥かしくなるくらいに居眠りをしていた.

実はフィリシアのプレゼントも刺しゅう入りのハンカチだったのだが,サリナはそれを知らない.


最後の最後に教えてやろうかな.

雪の降る中,マイナーデ学院の中庭でフィリシアはふふっと笑った.

王子が六年たった今でも,雪の結晶がへたくそに縫われたハンカチを持っていることを.


「フィー!」

もの思いにふけっていると,思い出の中よりもずっと成長した薄茶色の髪の少女が駆けてきた.

浅く積もった雪にすべってこけてしまうのではないか,と心配してしまうほどに必死になって.

「サリナ.」

フィリシアが手を差し伸べると,サリナはしっかりと抱きついてきた.

今日,フィリシアはマイナーデ学院を出るのだ.

出ると言っても,退学になったわけではない.

「私がプレゼントをあげたかった人は,最初からあの人だったの.」

フィリシアの静かな告白に,サリナはそっとほほえんだ.

「元気で……,」

「あなたこそ…….」

冷たいほおにたがいにキスを交し合い,別れを告げる.


人気のない,朝の学院.

ただ一人サリナにだけ見送られて,フィリシアは愛する人とともに出てゆく.

家も何もかもを捨てて,身分をわきまえろと親がどなりたてた青年とともに.


一人残されたサリナは,いつまでもいつまでも友人とその恋人の後姿を見送った.

雪がどんどんと降り積もってゆき,二人の足跡を消してゆく.

今日の授業が始まるころには,フィリシアの失踪で大騒ぎになるだろう.

だから今だけは静かに,友人の前途を祈りたかった.

この雪がいつまでもやまないように,魔法をかけたかった.

「サリナ!?」

いつまで雪に降られてぼんやりとしていたのか,サリナはいきなり肩をつかまれた.

「何をやっているんだ!? かぜをひくぞ!」

金の髪の少年が乱暴に少女の手を引いて,中庭から連れ出してゆく.


屋根のある渡り廊下まで来ると,少年は少女の頭や肩に積もった雪を払いだした.

「ったく,ぬれているじゃないか.」

文句をいいつつも,少女の身を案じてくれる.

……さようなら,サリナ.私は彼についてゆく.

このまま抱きしめて暖めてくれるのならば,いつまでも雪の中でつったっていてもいい…….

けれど少年は,

「さっさと部屋へ戻れ.」

そっけない言葉を残して,サリナを置いて立ち去った…….

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