表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術学院マイナーデ  作者: 宣芳まゆり
狂気の魔女
10/104

2-3

金の髪の少年に対してぜひともお礼をしたいという街の住民たちの声を押しきって,少年たちはそうそうに街を立ち去った.

大げさなことをされるのは少年は苦手だったし,それに赤札を張り娘をさらうという迷惑な魔女のことについて三人で相談したかったからだ.


「じじいにどうにかしてもらおう.」

金の髪の少年はあっさりと結論を出した.

マイナーデ学院学院長であるコウスイは,イースト家の一員である.

イースト家の中ではあまり発言権はないらしいが,十分に頼りにしていい存在であった.

「では私は学院に戻って,学院長様にことの次第を伝えます.」

この距離だと手紙を出すよりも,自分で旅をする方が早い.

「あぁ,任せた.」

そしてスーズとライムはすばやく旅の荷物を二分する.

水や食料や寝袋等をバッグの中から取り出し,入れ替えるのだ.

「すぐに追いかけますので,サリナと一緒に先に進んでいてください.」

青年のせりふに,荷物をまとめていた少年の手がぴたっと止まった.


「え?」

少年は顔を引きつらせて,付き人である青年の顔を見る.

「あまりケンカをなさらないでくださいね.」

あからさまに動揺する少年に対して,青年はにっこりとほほえんだ.

「怒ってばかりいると,そのうち嫌われてしまいますよ.」

「うるさい!」

少年は真っ赤になってどなったが,まったく効果はない.

「それでは,私は戻りますから.」

青年は自分一人分の荷を背負って,手を振りながら,もと来た道へと引き返してしまった.


少年と青年のやり取りの意味が分からずに,少女がぼんやりと青年を見送っていると,

「サリナ,行くぞ.」

少年は,さっさと歩き出す.

「あ,待ってよ,王子!」

少女は二人分の荷物を担ぐ少年の背を,あわてて追いかける.

「荷物,持つよ!」

すると少年は無言で,小さい方の荷を少女に渡した.


そしてそのまま少年は,太陽が沈み,少しずつ暗くなる森の中を無言で歩き続ける.

しばらく歩いたところで,少女は沈黙に耐えられなくなってきた.

いつもは薄水色の髪の優しい青年が,おしゃべりの相手をしてくれるのだが……,

「王子,あのさぁ,」

不機嫌そうに振り向かない背中に,少女は思わずむっとしてしまう.

脳裏には,のろいをライムによって,ていねいに解いてもらった娘のうっとりとした横顔が浮かぶ.


のろいの解き方が,私のときと大ちがいじゃない!?

「私たちって,……恋人だよね?」

「はぁ?」

少女の突拍子もないせりふに,少年はぎょっとして振り向いた.

「何の話だ?」

深緑の瞳をぱちぱちとさせる少年を,少女はむぅとねめつけた.

「恋人なら,もっと恋人らしいことをしてほしい.」

とたんに少年の顔が赤くなる.


「な,な,何を言って,」

二人きりで過ごさなくてはならない夜のことばかりを考えていた少年は,情けないくらいにどもった.

まさか,この少女は誘っているのか!?

「だって,あと半年しか一緒にいられないし,」

何気なく少女の口から放たれた言葉に,少年の顔が一気に険しくなる.

「半年って何を言っているんだよ!?」

いきなり怒り出す少年に,少女はびくっと震えた.


少年の怒りの理由が分からない少女に,ある意味天国から地獄へとつき落とされた少年.

「半年たったら,学院を卒業するじゃない?」

少年の強い視線にさらされて,少女はたじたじになる.

「王子は王城に帰るでしょ? 私は村に,」

「俺は城には戻りたくない.」

今度は少女が,ぎょっとする番だった.

「王子という身分なんかいらない,サリナと一緒にサリナの村へ行く.」

強く少女の肩をつかんで,少年は,

「王子,何を言って,」

とまどう少女の唇をふさいだ.


いきなりすぎる出来事に,少女は瞳を開いたままで口づけを受ける.

思わず逃げようとするのだが,痛いくらいの力で肩をつかまれる.

待ち望んでいた恋人らしいこととはいえ,少年のキスは想像以上に強引で荒々しかった.

唇を開放されると,少女は今まで何を言い争っていたのかすら忘れて,ぼけっと少年の深緑の瞳を見つめた.

「王子王子って,俺のことを名称で呼ぶな,」

少年がすねたような声でしゃべる.

「じゃぁ,……ライム殿下,」

するとごつんと,少女は頭突きをされた.

「ケンカを売っているのかよ,お前は!?」


「痛いよ,ライム.」

涙目になりながら,少女は頭突きされたでこを押さえる.

ぎこちなく,少年の手が少女のほおを包む.

視界が少年の金の髪に覆われる.

少女はそっと瞳を閉じた.

瞬間,

どぉぉぉん!

鼓膜を打つ衝撃音,そしてめきめきと大木が倒れてくる.


「な,何?」

少年はとまどう少女の手を引いて,ゆっくりと倒れてくる木を避ける.

今のは攻撃魔法の長距離砲だ,誰かが遠くから少年たちを狙っているのだ.

「どこだ!?」

きょろきょろと金の髪の少年はあたりを見回す.

何が起こったのかわからないが,とにかく逃げなくてはならない.


ドォン!

今度は至近の地面が爆発する.

悲鳴を上げる少女を抱きしめて,少年は攻撃手をさがす.

額に汗がにじむ,少年は森の向こうに古びた屋敷を見つけた.

「サリナ,よけろ!」

屋敷の屋上から放たれる光,少年は少女の体をつき飛ばす.

「ライム!?」

少年は焼けるような痛みにひざをついた!


そのまま少年は,土の地面に倒れこむ.

「ライム!」

かまいたちにあったかのように,少年は血まみれになっていた.

少女はあわてて駆け寄り,治癒魔法の呪文を唱える.

「木々よ,森の生命たる,」

すると金の髪の少年が,かっと瞳を見開いて少女にどなった.

「サリナ,後ろだ!」


少女が振り向くと,そこにはいかつい顔をした大きな男がこぶしを振り上げていた.

悲鳴を上げる間もない,少女は簡単に男の手に落ちる.

「……サリナ,」

どんどんと暗くなる視界の中で,少女がさらわれてゆく.

少年は立ち上がることもできずに,ついには意識も手放した…….

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ