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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

微笑みの葬儀

作者: SenRi
掲載日:2026/10/16

知らなければよかった。思い出さなければよかった……ごめんなさい、お母さん。

 ああ、僕は死んだんだ……。

 なぜだろう、理由はわからない。

 ただ薄っすらと残っていた記憶の片隅に、死亡推定時刻を淡々と述べている声が聞こえたからだ。

 悔しいかな、記憶はそこで途切れてしまっている。

 その次に戻った意識は、真っ白で何もない空間に立ちすくんでいる場面から始まった。

 母親には、迷惑ばかりかけてしまった人生だった。

 大人になってもろくに仕事ができず、医療機関では精神疾患の診断を受け、何年も路頭に迷うことになった。

 こんな僕には地獄がお似合いであろう。

 そう、勝手に思っていた。

 しかし……


「君に一つだけ、言っておきたいことがある。」


 どこからか聞こえる、優しくも厳かな老人の声。

 その老人が言うには、数時間後に僕の葬式が執り行われるそうだ。

 

「君のことは責任をもって天国へと送り届ける、その先には一切の記憶を持っていくことはできない。」


 なるほど、それなら最後に母親や友人の顔を見てから旅立つのも悪くない。

 そう思った僕は、快く承諾した。

 しかし……


「最終的に決めるのは君自身だ。しかし知らないほうが良い記憶がよみがえるかもしれない。その覚悟を持てるのなら、少しだけ顔を出してくるといい。」

 

 そう言い残した後老人の気配が消えて、目の前にどこか懐かしみのある木製の帯らが現れた。

 なんだろう、懐かしい気持ちがほとんどを占めているのに、とてつもなく悲しい気持ちが心の隅をグサグサと刺してくる。

 不思議に思いながらも、僕は扉の向こうへと足を踏み入れた。


 そこは小さなお寺の一角にある葬儀場。

 ……ほとんど人がいなかった。

 僕って案外友達がいなかったのかも、なんて自虐的なことを思いながら施設の中に入ると、数人の参列者と脇には見覚えのある人物がいた。

 母さんだ。

 僕がどんな最後を迎えてしまったのか、この時点で知ることはできない。

 だから申し訳ない気持ちでいっぱいになって、流すことのできない涙をあふれさせていた。


 しかし……


 親族と思われる人も参列者も、誰一人として悲しいという感情を持っていないことに気が付いた。

 みんな、ある一点をチラチラと伺いながら、怯えた表情をしていたのだ。

 その目線の先にいるのが、母さんだった。

 僕は状況を理解することができずに、しばらく困惑していた。

 悲しみではなく、恐怖が渦巻いているこの空間は、漂っている僕にさえ痛いくらい伝わってくる、そんな異常な空間。

 しかも母さんは時折、俯いて表面上は悲しんでいるように見えるのだが、瞬間的に口角が上がるのを僕は見逃さなかった。

 何かがおかしい。

 そう思った僕は一度施設の外に出て、周囲を確認してみることにした。

 すると覆面パトカーが一台停まっていて、施設を囲むように私服警官らしき人物が目を光らせていた。


 痛い、痛い、痛い……!


 急に胸部を突き刺されたような痛みと、のどが焼けるような強烈な不快感に襲われた。

 何だこれは。

 ほかの感覚はとっくに消えていたのに、痛覚だけがまだ息をしている。

 僕は生前の感覚を呼び戻せないかと、必死になって記憶の引き出しを漁った。

 唯一今まで覚えていたのは、死亡推定時刻を聞いたあの瞬間。

 きっとその前に何か重大な事実があるはずだ。


 あ……


 僕はある事実を思い出した。

 そして……

 そうだよ、そうだったじゃん。

 なんでこんなことを忘れていたのだろう。


 何気ない夕食だった。

 久しぶりに母が作ってくれた豚汁と焼き魚を、母さんと二人で談笑しながら食べていたんだ。

 美味しいなあなんて思いながら食べていたのだけれど、途中から違和感に襲われた。

 のどがイガイガして腹痛になり、食事を中断して自分の部屋で横になってしまったのだ。

 食あたりか、ついてない。

 長引かないといいなと朦朧とした意識の中で、扉が開く音がしたんだ。

「大丈夫?」

 母さんだった。

 少しだけ冷静な言葉の抑揚がさすがだと思って、強烈な罪悪感に襲われたのを鮮明に思い出した。

「いつまで私は……」

 母さんは冷静な声のままこんなことを口にした。

 きっと僕の病気のことだろう、早く社会復帰しないと……


 そう誓った直後だった。


 サクッと胸の中に異物が入る感覚がして、一気に脳内の血の気が引くのを感じた。

 何だろうと思って顔を起こすと、サクッサクッサクッと返り血を浴びながら、見たことのない瞳で僕のことを一心不乱にめった刺しにしていた。


 今までの回想はここで終わりだ。

 

 ハハ、ハハハ、ハ、ハハハハハハ……

 乾いた笑い声しか出てこない。

 ずっと母さんは我慢していたんだ。

 なんで気が付かなかったんだろう。


 母さんの笑顔が好きだった

 母さんの料理が好きだった

 なんだかんだで優しかった、母さんが好きだった。

 それなのに……


 いや、僕が精神疾患なんかになったのがいけなかったんだ。

 単発のアルバイトでもいいから頑張るべきだったんだ。


 一人の人生を壊してしまったのだ。

 こんな僕が天国に行っていいはずがない。

 もしも仏様が僕の姿を見ているのだとしたら、こう願いたい。


 僕は天国にも地獄にも行く資格がありません。

 だから……



 だからお願いです。早く消してください。

次回更新日程は未定です。Xにて告知する予定です。


https://x.com/SEKwgi

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