冒険者ギルドからの依頼!?『パンを納品せよ』ミッションがまさかの国家級商談に発展した件
パン屋「バルク堂」が再オープンしてから数日。
順調なんてもんじゃない。
連日、冒険者たちが店に殺到している。
特に人気なのが、俺が提案した新商品──
【スタミナパンセット】
・高カロリーの黒パン×2
・保存性の高いハードパン×1
・リーネ特製スパイスジャム付き
→ 冒険者向け簡易食セット:20G
「保存が利いて腹持ちもいい」と、遠征に出る冒険者たちにバカ売れしている。
リーネのパン作り技術と、俺のマーケティングスキル。
この組み合わせはマジで最強かもしれない。
「これもう……転売っていうより製造販売業じゃね?」
そんなことを呟いていると、店のドアがバン!と勢いよく開いた。
「バルク堂の方ですかッ!?」
現れたのは、黒いジャケットを着た若い男。
腰には剣、胸には冒険者ギルドのエンブレム。
「ああ、俺だが。あ、ここの共同経営者ね」
「ちょっ、勝手に“共同経営者”名乗らないでよ……!」
リーネが小声で突っ込んでくる。かわいい。
「冒険者ギルド・物資管理部のハーリスです! 今、バルク堂さんの商品が冒険者たちの間で大評判でして!」
「まあ、そりゃそうだろうな」
「つきましては、正式に“物資供給契約”をお願いしたいんです!」
「へ?」
「今月末に、ギルド主催の“大型遠征”があるんです! モンスター討伐兼、隣国との国境警備強化……そこに参加する冒険者、約300人!」
「──300人……!」
「彼ら全員に、貴店の“スタミナパンセット”を持たせたいと、ギルド長から直々に依頼を受けまして!」
「ちょ、ちょっと待って! 300人分って、つまり……!」
「900個のパンが必要ですね! ジャムも900個!」
「殺す気か!!?」
リーネの絶叫がパン屋に響いた。
***
「ねぇ、あんた……できるの? ホントに?」
「900個くらい……やってやるよ、なぁに、やってやんよ……」
と口では言ったものの、内心は冷や汗だった。
この規模、もはや「小商い」じゃない。
下手すりゃ失敗して信用も金も失うレベル。
だが、ここで断る選択肢はない。
俺の目標は、異世界で“転売王”になること。
商機を逃すなど、あってはならないのだ。
「リーネ。これを機に、バルク堂の“製造ライン”を組織化しよう」
「……製造ライン?」
「ああ。リーネは今、パンを一人で焼いてるよな? でも、それだと1日100個が限界だろ」
「……うん」
「だったら、近所の主婦や、空き時間のある村人を雇おう。レシピと焼き方はマニュアル化して、担当を分担。そうすれば──」
「最大生産数を10倍にできる、ってこと……?」
「おうよ」
「すごい……それ、ほんとにできるの……?」
「俺の世界じゃ、これ“コンビニ工場”って呼ばれてた手法だ。異世界でも応用できるさ」
リーネはポカンと口を開けて、俺の顔を見つめていた。
「な、なによ……急にイケメンみたいなこと言わないでよ……バカ」
「褒めてるのかそれ?」
「べ、別に褒めてないし! けど……その、いいと思う。あんたのやり方」
ふふん。
これが“企業的思考”ってやつだ。
「じゃ、まずは求人出そう。ついでに、業務用の大窯を追加発注だな。資金は……昨日の売上でいけるか?」
「やること多すぎィィ……!」
とはいえ、やるしかない。
俺たちはその日から、徹夜でパン工房の拡張と人員確保、製造ラインの構築に動き出した。
***
──数日後。
「これが……“パン工場”……!」
「おおぉぉ……! 自分の店じゃないみたい……!」
元・小さなパン屋「バルク堂」は、
いまや完全に**“冒険者支援型パン製造所”**と化していた。
製造スタッフ:12人
日産パン生産量:約1200個
──なんだこれ。もう商会じゃん。
「……これ、俺が一番ビビってるわ」
「ていうか、やっぱり“転売”じゃないよね、これ……?」
「リーネ、それを言うな」




