第二話 仕入れ先を確保せよ! パン屋の娘と共同経営!? 転売ヤー、まさかの店舗持ちになる
パンは売れた。
焼きたて10個、あっという間に完売。利益はしっかり35ゴールド。
この異世界でも、転売というビジネスモデルは機能する。
俺のスキルと頭脳があれば、この世界でトップの商人──いや、“転売王”になるのも時間の問題だ。
だが、まず必要なのは「安定した仕入れルート」。
転売において、商品を安定供給できないようでは話にならない。
「ってことで、戻ってきたぜ」
そう、俺はさっきのパン屋へ再び足を運んだ。
「……は? また来たの?」
そこにいたのは、あの試食パンをくれた少女。
歳はたぶん15か16くらい。赤みがかった栗色の髪をポニーテールにして、白いエプロンをつけている。頬にはちょっとだけ小麦粉がついていて、なんか妙に絵になる。
「悪いか。パン、もっと仕入れたいんだよ」
「ふーん……あんた、売ったの?」
「もちろん完売。利益も出た。だから今度は“継続仕入れ”をお願いしたい」
「……へえ。あたしのパンが売れた、ね」
「うん、マジで美味かったし、あの価格差は商売になる。だから、もっと仕入れたい」
「……」
「……べ、別に、あんたのためにパン焼いたわけじゃないし……!」
「いや、そんなこと言ってないけど?」
「うるさいっ!」
うわ、テンプレみたいなツンデレ来た。
でも、嫌いじゃない。
「なあ。あんたの店、最近売れてなかったんだろ?」
「……それは……場所が悪いの! 街の外れにあるし、人通りも少ないし……」
「なら、俺と組もう」
「は?」
「俺が“売る”。あんたは“作る”。利益は半々でどうだ?」
「……なにそれ。商人のくせに、結構まっとうなこと言うじゃん」
「悪かったな。俺はいつだって“まっとうな転売ヤー”だよ」
「“まっとうな転売ヤー”って矛盾してる気がするけど……」
彼女の名前は、リーネ・バルク。
街のはずれにある小さなパン屋「バルク堂」の一人娘で、父親が病気で寝込んでからは、一人でパンを焼き、店を切り盛りしているらしい。
「……まあ、パンが売れるなら、協力してあげてもいい、かも」
「マジで!?」
「べ、別にあんたのこと信じたわけじゃないんだからね! パンの味で勝負してるだけだし!」
「ありがとう、リーネ。絶対損はさせない」
「う、うん……って、ちょっと、名前呼び捨てしないでよ! あたしの方が年上かもしれないんだから!」
「ん? 俺18だけど?」
「……負けた……ッ!」
そんなやりとりをしながら、俺とリーネの「共同経営計画」は動き始めた。
***
後日──。
「バルク堂、今日からリニューアルオープンでーす!」
「焼きたてパン! 今なら“冒険者向け栄養パンセット”もありますよー!」
俺はリーネと相談して、店を全面改装した。
といっても、大工を雇う金もないので、装飾や売り場レイアウトを少し変えただけだが、それでも印象はまるで違う。
しかも──
「見ろよ、このチラシ! パン屋で割引クーポン付きなんて、初めて見たぜ!」
「冒険者向けのスタミナパンとか、ちゃんと考えられてるな!」
そう。俺の現代知識を活かして「プロモーション戦略」を展開。
村の掲示板にチラシを貼り、冒険者ギルドにも商品を置かせてもらった。
その結果──
「おい、ここが噂の“転売パン屋”か?」
「いや、“転売”じゃなくて“再流通支援型ベーカリー”な」
「意味わかんねぇけど、うめぇからいいか!」
客が、増えた。
初日から行列。パンは昼過ぎには完売。
リーネは、信じられないという顔で、売上帳を見つめていた。
「……すごい。本当に……売れてる……」
「言っただろ? あんたのパンは“売れる味”なんだよ」
「……な、なんでそんなキザなこと言うのよ……バカ……」
顔を赤くして、リーネはぷいっと顔をそむけた。
この時、俺は確信した。
この子を、俺のビジネスパートナーにして正解だった、と。
そしてこの時はまだ──
このパン屋が、後に「王都三大商会」にまでのし上がるとは、誰も思っていなかったのだった。




