死んだら異世界に転生してたけど、まずは仕入れ先を探します
俺の名前は堀江 転。
元・メルカリスト、現・異世界の転売商人(仮)である。
現世では、いわゆる「転売ヤー」だった。
いや、違う。俺はただ、安く仕入れて高く売るという健全な商売をしていただけだ。
商品はすべて合法。詐欺もしていない。
なのに、SNSで目をつけられた途端──
「転売ヤーは社会の敵!」
「お前のせいで子供が泣いてるんだぞ!」
「マスク転売とかありえない!」
……などと、ありもしない話を勝手にでっち上げられ、大炎上。
ついには「炎上系ユーチューバー」に住所を特定され、実家に凸される始末。
もう、生きるのに疲れた。
そんなある日。
俺はネットで「転売で稼ぐ100の裏技」を読みながら、横断歩道を渡っていたところ──
——ドン!
「っ、え……?」
気づいた時には、俺は真っ白な空間に立っていた。
「おお、目を覚ましたか、人間よ」
目の前に現れたのは、金色のローブを纏った胡散臭いおっさん。
頭に「転売神」とかいう意味不明な冠を被っている。
「そなた、なかなかに才覚のある商人だったようだな。故に、我の世界に転生させてやろう」
「あの、いま俺、死んだんですか?」
「トラックに跳ねられた。即死だったぞ」
「あー、マジか……」
「だが安心せい。この異世界では、そなたの才能が活きるであろう」
「授けよう。転売神の加護と、転売特化スキルを!」
【取得スキル】
・在庫無限倉庫
・価格変動予知
・販売誘導
「……チートすぎね?」
こうして俺は、異世界で第二の人生──いや、「第二の商売人生」を始めることになった。
まずは、物価を調べ、市場を視察し、ニーズを探る。
村人A「パン、1個5G」
村人B「パンの材料は2Gで買えるんだけどな……」
──ああ、これだ。
この価格差。この不公平。この混沌こそが、俺の戦場!
「異世界よ……震えて待ってろ。俺が、すべてを“売り”尽くしてやる」
転売ヤー、異世界へ。まずは仕入れと市場調査からだ
──目が覚めると、そこは草原だった。
まるでファンタジーRPGのオープニングのような光景。見渡す限りの緑、どこまでも広がる青空。空には見たこともない巨大な鳥が飛んでいて、太陽は二つある。
「あ〜……マジで転生してんじゃん、俺……」
俺の名前は堀江 転。
現世では“メルカリスト”と呼ばれていた男だ。
正確に言えば、転売ヤー。
期間限定グッズ、限定フィギュア、コンビニコラボ品にライブチケット。あらゆる需要と供給の隙間を縫って、小遣いを稼いできた。大学に行かず、バイトもせず、すべての収入は転売から。
──なのに。
たった一度、マスク転売の画像に「いいね」を押しただけで、炎上。
「転売ヤー=悪」という風潮のなかで俺は燃えに燃え、ネットに顔が晒され、住所が特定され、最終的にトラックに跳ねられてこの異世界に来た。
「ていうか、スマホ持ってきちゃってるし……」
ポケットから出てきたのは、見慣れた俺のスマホ。電源はつくが、通信は圏外。メルカリアプリも開けるが、当然、商品は一つも出ていない。
「チッ……こっちでも出品できたら最強だったんだけどな……」
まあいい。異世界に来たってことは、まずやるべきは一つ。
市場調査だ。
***
「おにーさん、旅の人かい? 今日は焼きたてのパンが安いよ〜!」
村の入り口近く、屋台のような簡易テントでパンが売られていた。香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「パン一ついくら?」
「5ゴールドだよ。今朝焼いたばっかり!」
ふむ。5ゴールド……異世界通貨の価値はまだ分からんが、とりあえず今の所持金は──
【所持金:0G】
「……は?」
転生してるくせに初期資金ゼロってどういうことだよ。異世界転生モノって普通、チート能力か金貨の山が初期装備じゃなかったか?
仕方なく、周囲の物価を観察してみる。
・パン(1個)……5G
・水(壺入り)……2G
・布の服……40G
・ポーション(初級)……15G
なるほど、どうやらこの村では「パン=5G」が基準のようだ。てことは、15Gのポーションは、感覚的に「パン3個ぶん」くらいか。
だが、少し離れた場所では──
「ポーション1個、10Gで買うぞー!」
「破格だよ! 早い者勝ち!」
……あれ?
10Gで買うって、さっきの屋台では15Gだったぞ?
「……これ、いけるな」
そう、俺の転生スキルは、ただのチートじゃない。転売特化型チートだ。
【取得スキル】
・在庫無限倉庫
→入れた物を腐らず保管可能。重量もゼロ。
・価格変動予知
→近隣エリアの市場価格を自動で把握・可視化できる。
・販売誘導
→交渉や宣伝の成功率が上昇。買いたい気分にさせる。
ようするに、俺はこの世界の「物の価値」を見抜き、それを売りさばくことに特化しているというわけだ。
「よし、まずは仕入れだ」
とりあえず持ち物がゼロなので、何か売って金にしなきゃ始まらない。と、そのとき。
「おにーさん、おにーさん!」
さっきのパン売りの少女が、走って俺に近づいてきた。
「何?」
「これ、よかったら試食して! うちの店、最近売れなくてさ……よその店より味は負けてないんだけど、場所が悪くて……」
「ふーん……」
そう言いながら俺は、試供品のパンを受け取って一口かじる。
──うまい。
ふわふわでほんのり甘く、焼きたての香りがしっかり残ってる。
「悪くない。いや、正直めちゃくちゃうまい」
「ホント!? お兄さん、わかってるぅ〜!」
「……これ、ちょっと俺にまとめて売ってくれない?」
「えっ?」
「10個で……35ゴールドならどう?」
「そ、それって利益ほとんどないんだけど……まあ、仕方ないか。持ってっていいよ!」
交渉成功。
俺は35Gでパンを10個仕入れ、さっそく村の南門へと向かった。
──そこは、旅人や商人、兵士たちが集う小さな集会所。いわば“冒険者向けのコンビニ”のような場所だった。
「焼きたてパン! しかもふわふわ! 先着限定! 一個7ゴールド!」
──並んだ。
あっという間にパンは完売。仕入れ値3.5G ×10 → 売却7G ×10。
つまり、たった数分で利益35G。現金が手に入った。
「……これが、異世界の転売か」
その瞬間、俺の中で何かが確信に変わった。
この世界、マジでチョロい。
「この調子でいけば、貴族? 王様? 商会? まとめてカモにしてやるよ……」
異世界で転生した俺の、新たな商売が始まった。




