11, 未来への舟【後日談】
ちょっとしたおまけ?です。少し雰囲気が違うかもしれません。
「お姉ちゃん、これは何処に置くのー?」
「あぁそれはねぇ、あー、上の方だからそれは私が入れるわ。ノアはかわりにこれを田辺さんに渡しておいて。」
「はーい!」
ノアと呼ばれた小柄な少女は、書類の束を受け取ると、パタパタと走り田辺研究員のもとへと向かった。
「ありがとう。ノアちゃんは偉いなぁ。」
頭を撫でられて嬉しそうに目を細めるノアを、ネオンは微笑ましく見ていた。勿論、ノアはネオンの実の妹ではない。ノアは、レイラたちの研究室が次世代のスタンダードを目指し、社内の最新技術を詰め込んで開発した試作機だった。なかでも、今は目玉機能の一つである学習機能の動作試験中であった。自然な学習を行うため感情にリミッターを設けていないノアは、法的に”人”として扱われてしまうため、会社の備品とするわけにはもちろんいかない。そこで、研究に協力してもらうにあたって室長であるレイラが身元引受人となったところ、同じくアンドロイドであり、既にレイラと共に暮らしていたネオンに懐いたのであった。一方のネオンも、自分のことを慕うノアをとても可愛がっており、その姿は実の姉妹のようだった。
「最近ネオンがノアばっかりでずるい…。」
「室長、嫉妬ですか?」
「あら、すみません、レイラさんも撫でて欲しかったですか?」
「ちゃ、ちが…!そいいうわけぢゃ……!」
「うふふ♪」
「レイラ先生、ノアがなでる?」
「ははは、ノアちゃんは優しいなぁ!」
今日も研究室平和だった。
「しかし室長、感情制限とかの部分はかなり苦労しましたが…そのあたりは試さなくていいんですか?部内の全員にかなり甘やかされて……かなりいい子には育っているようですが。」
「うーむ、確かに確認が必要な部分ではあるが、人権のあるノアをそんな酷い育て方するわけにいかないし、たとえ規制対応型でも人型のアンドロイドそんな事するわけには…。やはりシミュレーションで対応するしかない。」
「そうですね…安全性は万全にしなければいけません。まぁそれ以外にも何かやり方がまだあるかもしれませんし、できる限りのことをしましょう。」
学習システムに、負の入力があった場合にも、曲がった性格にならないようにする為の制御。性格が大幅に変わる可能性がある学習機能を受け入れて貰うためには必須と思われた。しかし、ノアはそういった入力のデータはほとんど集められておらず、どの研究員も、ノアの笑顔には敵わなかった。
--------------------
「いよいよですね…!」
レイラ達は、研究室の壁に映し出された新製品発表の配信を見ていた。今、スクリーンの真ん中では、レイラたちの居る込山重工の広報兼配信者である、アンドロイドのコミャがその目立つ猫耳をピコピコと動かしながら喋っていた。そしてついに、新製品が姿を現した。
『今回新たに発売が決定した、完全新世代アンドロイドです』
カメラアングルが切り替わり、お辞儀をするアンドロイドが映し出される。部品が従来より小型化したので、これでも収まるから。という理由で小型化したボディは、身長が低すぎて不便な事が多かったため、ノアよりもかなり大きく、ネオンよりも少し大きいくらいに変更された。そして、その頭脳にはノアが集めたデータによって開発された、人間とともに成長する学習システムが搭載されている。同じシリーズのアンドロイドでも、それぞれの環境で学び、大きく違った性格になるはずだ。これでまた、アンドロイドと人間がより良いパートナーとなれれば…。レイラとネオン、共通の願いだった。
発表は、大きな拍手に包まれて終わり、無事成功したようだった。発表途中で大事な協力者としてちらっと名前の挙がっていたノアは、少し照れくさそうにしていた。
「それじゃあ、帰ろっか。みんなもお疲れ様〜〜。発売当日までもう少しだね〜。」
「はい!」「うん!」
少し日の傾いた帰り道。輝く夕日が、3人の行く先をまぶしく照らしていた。
ちょっと蛇足っぽいですが、ハッピーエンドの先も、人生は続いていくって誰かが言ってました。
最も、この3人の場合はハッピーエンドの先もハッピーそうですが。