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00.始まりのあの日から、現在へ

00.始まりのあの日から、現在へ


 ────遠い昔の夜空の下。星が煌めき、月が夜を照らしている、そんな夜だった。

 変わりのない夜空、鬱陶しい程に美しい月の光。月はまるで、己の愚かさを暴くかのように、それでいて赦し包み込むような光で自分を照らす。

 ────痛みを感じたのは何時ぶりか。

 負傷した腕から激痛を感じる。神経を焼き切るかのような熱さを持った痛み。一歩判断を間違えれば、腕の一本は消し飛んでいただろう。

『…………まさか、ここまで追い詰められるとは…………』

 思っていなかった。自分の前に立っている女性を視界に入れ、薄い笑みを浮かべる。

 白いドレスを纏った女性が凛と地面の上に立っている。珍しい銀色の長い髪。髪はゆるくウェーブがかかっており、ふわりとした上品さを見たものに感じさせるだろう。女性の顔は幼さが残っており、けれども銀色の光を帯びた長い睫毛、白く透明性のある肌、纏っているドレスからも窺える上品な美姫。

 彼女の長い睫毛の下にあるのは金色の大きな瞳。その出立ち、容姿から月を思わせる。

 可憐な美姫は、落ち着いた表情を浮かべ、真っ直ぐにこちらを見ていたのだ。

『…………私の力量を舐めていたのでしょう? ──いえ、あなたは私達を舐めていた』

『……そうかも、知れない、な……』

 今は違う。自分が想定していたものと現実の差に思い知らされたのだ。今は、彼女相手に加減はしない。

 激痛に耐えながらも、立って戦う意志を彼女に見せる。自分の表情や目を見て、目の前に立っている彼女は察したらしい。

 女性の金色の瞳がこちらを射抜くような視線となって向けられる。きっと、装いには似つかわしくない、深窓の姫のような彼女も戦場を駆け抜けてきたのであろう。彼女もまた、戦う者であるという覚悟が端々から感じられる。

 手の内にある剣の柄を握り締め、足を踏み込む。

 握った剣の切っ先を彼女に向け、懐へ一瞬で距離を詰める。それは一瞬であり、瞬きも許さない速さであった。手練れであろうとも、この速さには着いていくとは出来ないであろう。

 けれど、女性は表情を変えずに自分に向けられた剣の切っ先を拳で殴って弾く。

『…………!』

『…………』

 互いの距離が近い。視線と視線が交差し、彼女の金色の瞳が自分を真っ直ぐに捉えている。

 それが自分の心に大きな異変を起こした。

 ────?

 感じたことのない、心の変化に戸惑う。戸惑う胸の内を悟られぬよう体勢を立て直そうと、後方へ跳んだ。

 女性の瞳に魅入ってしまうのだ。今まで、こんなに惹かれた記憶はない。月を思わせるような、彼女の瞳に心が奪われる。

 その瞳の奥に秘めた感情、その表情が語る覚悟。知りたい、と思ってしまった。互いに敵同士の、戦場で……。

 ────私は、何を考えているのだ。

 目の前に立っているのは敵だ。

 敵として相見え、武器を持っているというのに。己の心には己でも予想がつかない感情が芽を出し始めている。

 あってはならない。相手は敵なのだ。

 考えや感情を振り切るように、再び女性へと剣を向ける。彼女は冷静に、自分に視線を向けていた。

 …………君は、何を考えているのだ?

 …………話をしてみたい。

 …………君は、どんな風に微笑む?

 次々と出てくる感情の芽。それは好奇心から来る、他人への興味とは少し違ったものだった。

 剣の柄を握る手が震え、視線が揺れる。

 迷い、が確かに自分の中で目覚め始めたのだ。彼女と戦うことへの、迷い。

『…………、』

 彼女も気がついたのだろう。息を小さく吐き出し、動きを止める。

『…………私は、セレーニアという名前です。 貴方のお名前は?』

 自分の心の内を、彼女がどこまで気づいているのかは分からない。けれど、彼女はセレーニアと名乗ったのだ。

 ────セレーニア……。

 教えられた名前を心の内で呟く。

 セレーニア……。美しい、響きの名前だ。高貴さを秘めた彼女によく合っている名前だ。

 セレーニアは名乗り、自分は返すべきか悩む。

『…………私は……、俺は────』

 揺らぐ感情に、己という存在も足下から揺ら出いるような錯覚を感じる。

 セレーニアは足を一歩前へと踏み出す。彼女の足下から白い花が出現する。それは、彼女の魔力。

 白の花が風に吹かれ、花びらを散らす。花びらの舞う中で、歩むセレーニアの幻想的な美しさに、心が奪われた。


 ──運命の夜、月が綺麗だと初めて感じたのだ。



 ●


 ──時は現在。

 数多の種族が存在する世界、世界の名はオルビスウェルト。そのオルビスウェルトに広がる海の上に浮かぶ、島々の一つ。

 小さな島にある、街の一部で爆発が起きる。大きな音と共に、黒い煙と炎が空へと伸びる。

 黒い煙の中から一人、男が飛び出した。

 男は勢いを殺さず、逃げるように後退する。

「──くそ!」

 誰へ向けたのか、悪態を吐き出すように男は口にする。

 もくもくと昇っていく黒い煙。煙に纏わりつく、魔力を帯びたエネルギー。

 男は傷だらけの身体を抱え、正面に注視する。

 黒い煙の中、気配を探る。

 彼の敵はまだ、黒い煙の中にいるのだ。

「…………!」

 黒い煙の中から、男を追って飛び出して来た者が一人。

 やはり、生きていたか、と男は手に握っていた剣を構える。

 宙を蹴り、加速した者は男に迫る。

「──はあっ!」

 男は構えた剣を相手に向かい、振るう。だが、剣の刃を拳で殴られ、その力に押される。

 拳と剣がぶつかり合う。

 魔力を纏っているであろう拳が、剣に向かって繰り出される。

 しかし、武器は拳だけではない。

 男が防戦している不意を突き、脚が男の腹を突いた。

「ぐあ!」

 痛みと衝撃が男を襲う。男は衝撃のまま飛ばされ、建物の外壁へと突っ込んだ。


 空へと伸びた黒煙は白き光によって晴らされる。

 黒煙が昇っていた場所に立っていた人物達は呆れ気味に様子を見ていた。

「エムル……」

 金色の髪の、小柄な体躯の人物エトルは、男を追って飛び出して行ったエムルへ呆れの視線を送った。

 後方の安全が確保されているから、ああいう無茶をするのだろうが、エムルの行動にエトルはため息を吐きたい気分だった。

 エトルの表情を察したシェロがにこやかな微笑みを浮かべ。

「……まあ、いいじゃないか。エムルは負けないからね」

 シェロは言った。

 エムルの強さを信じているからくる自信のある言葉だ。

 エトルは唇を尖らせ、不機嫌そうに呟く。

「エムルが強いのはよく分かってるよ……」

 これまで、幾度も戦い抜いてきた。

 その度に、エムルは皆を守り抜いてきたのだ。

 エトルもよく知っている。けれども、心配な気持ちは変わらない。消えない。

 シェロは表情を変えず、笑みを口から零す。

「ふふ」

「笑わないでよ〜! シェロ!」

 エトルは頬を膨らませた。


 ──外壁へ蹴り飛ばした男を、冷ややかな眼差しで見ていたエムルは息一つ乱さずにいた。

 立ち上がるのであれば、相手になる。それだけだ。

「……」

 一時の静寂が流れる。

 どうやら、敵は立ち上がるのを諦めたらしく、意識を手放していた。

 のびている相手をそれ以上に傷めつける趣味はない、エムルは後方の二人へ声をかけた。

「大丈夫〜?」

 緊張感のない声音のエムルに、エトルは声を上げた。

「だ……だいじょうぶ! シェロが守ってくれてるから」

 荒事に慣れきっているエムルの、場の空気に似合わない。どこか、のんびりしたエムルの問いに答えたエトルは目を細める。

 これぐらいの相手ではエムルの精神は揺らがないらしい。

 そんなエムルにシェロが柔らかい笑みを浮かべたまま、告げる。

「囲まれてるけど、いいのかい?」

 シェロの言葉にエトルは肩を震わせた。

 ──え?

 二人のように前衛は得意ではないエトルは、顔色が悪くなった。

「──ああ、平気。シロはそのまま、エトルを守ってて」

 エムルは言い、自分に迫る気配を追う。

 敵は複数。エムルに気取られないように、息を押し殺して近づいて来たようだ。

 しかし、エムルは乱されない。

 自分の周囲に敵が現れても。

 敵は、移動魔法を使用し、一瞬でエムルとの距離を縮めた。武器を手に、エムルに向かって振りかぶる。

 この距離、この数であれば!

 敵である彼らはそう思い、一斉にエムルに襲いかかる。

「ふむ……」

 周囲の敵の数、十人ほど。エムルは敵の気配を感じ取り、追う。

「せいっ!」

 短く気合いを込め、エムルは声を出す。足を大きく踏み出し、衝撃波を生む。

 その衝撃で数人は吹き飛ばされ、残った者達は衝撃に耐えたが、ご褒美と言わんばかりのエムルの蹴りと拳でそれぞれ打ちのめされた。

 敵と同じく、移動魔法を使用したエムルは瞬間移動のように敵の間合いに入り、各個打ちのめしたのだ。

 ものの数分とかからず、エムルを囲んだ敵は倒された。

「うん、流石、僕のエムル」

 シェロがにこやかな表情を浮かべ、エムルを褒める。

 エトルは分かっていたが、エムルの手慣れた対処に小さく拍手をした。

「わ〜お……」

 離れた後方で見守っているシェロとエトル。敵の気配も無くなったことで、二人のいる方へと歩むエムル。

 エムルは片腕を胸の位置まで上げ、手首に巻いているベルトと端末を見ると、端末に向かって話しかけた。

「そっちはどう?」

 話しかけた端末から声のみの答えが返ってくる。

〈保護対象、見つけたわ。今、レウルと保護に向かってる〉

 返ってきた言葉を聞き、エムルは端末に向かって頷く。

 保護対象の安全が確保されれば、こちらの勝ちと言っても問題はないであろう。

「了解。こちらは引き続き、囮を続行するよ」

 話し終わったエムルは仲間との通信を切る。

 空を飛んでいた鳥が翼を羽ばたかせ、ゆっくりと降下し、エムルの肩に乗った。

 エムルは肩に乗ってきた鳥に視線を移す。

「大丈夫だよ、アイル。君の仲間は必ず、助け出すよ」

 安心させるようにエムルは鳥に語りかけた。


 エムルと通信をしていたチェリーシアは腕に巻いたベルト式端末を操作し、辺りの気配を窺う。

 チェリーシアの近くに立っているレウルは周囲を視界に入れる。

 保護対象のいる場所を探し、ここまで来た。保護対象の魔力が込められた羽根を頼りに、チェリーシアは保護対象が囚われているであろう建物を探しあてた。勿論、ここに来るまでに敵と遭遇しているが、全員無傷で放置はしていない。

 アイル経由でエムルが受けた、攫われた希少種族の保護任務。それは世界の常。全てが善では無いのだ。

 希少種族という存在を高値で売買する輩がいる以上、こういった任務は発生する。

 レウルはチェリーシアに視線をやり、冷たい地下室の扉に視線を移す。

 この扉の奥に保護対象がいる。

 保護対象は不死鳥族と呼ばれる希少種族の子供だ。里の、不死鳥族の大人が目を離した数分の間に攫われたらしい。

 レウルの視線を受けたチェリーシアが扉の横に付けられた装置に向かう。それは扉を厳重に閉めている鍵のようなものである。手に収まる程の大きさの装置を、チェリーシアは慎重に調べる。

「エネルギー系統の安全装置ね。最新式……とは言えないものだわ」

 チェリーシアが冷静に呟く。

 調べているチェリーシアの周辺を警戒しているレウルはチェリーシアの呟きを拾い、問う。

「壊せば開く?」

「そこまで古くはないわね」

「残念ね」

 ここまで来るのに敵を倒してきたレウルは、敵の質を思い出す。魔法にはあまり、明るいとは言えない連中であり、結界魔法も頑丈ではなく質の良いものはなかった。

 まだ、自己防衛にまで成長していない子供でなければ不死鳥族は攫えないだろう。

 レウルはチェリーシアに声をかける。

「解錠できそう?」

 その問いにチェリーシアは首を傾げ、しかし、微笑みを浮かべた。

「最悪、扉を斬ってしまえばいいかな」

 チェリーシアらしい答えだ。レウルも微笑み返す。

 調べている装置は仰々しいものではなく、簡素なものだ。最低限の機能を付けたもので、この任務の敵達は大きな組織ではない。余裕のない組織であることが、二人にはよく分かった。

 チェリーシアは目を細めた。こういう物を繊細に扱い、解錠するのは性格に合わない。

 レウルが気がついた時には、装置にチェリーシアの拳がめり込んでいた。

「あーらら……。まあ、気持ちは分かるわぁ……」

「あはは……。レウル、後ろはお願いね」

 安全装置が壊れたことで異常を別の機械が感知し、敵組織が地下にやってくる可能性がある。

 チェリーシアはレウルにお願いをした後、扉に向かった。

 扉を前に、チェリーシアは深呼吸をする。

 そして、気合いを拳に込め、声を出す。

「はあぁぁ────っ!」

 チェリーシアの拳が扉に放たれる。

 鈍い音と共に頑丈に付けられた扉は見事に折れ曲がり、強制的に部屋を開けたのだ。折れ曲がった扉は大きな音をさせて床に倒れた。

 強制開放させた部屋の奥には幼い子供が二人いた。

 何が起きたのか、どんな目に遭わされるか。怯えている子供が二人、震えながら身を寄せ合っていた。

「……大丈夫?」

 チェリーシアが子供達に声をかけると、二人は互いの顔を見て、視線をチェリーシアに向けてきた。

 保護対象は一人であり、もう一人は聞いていないレウルは疑問に感じるが、ここは闇組織の本拠地の地下室。他に被害者がいても不思議ではない。

《もう一人はエーデルシュタインね》

 レウルの頭に女性の落ち着いた声が聞こえる。レウルの影から様子を見ている彼女からの情報にレウルは眉を寄せた。

 エーデルシュタインというのも、高値で取引される希少種族だ。両眼と心臓に高い魔力がこもっており、大昔から人身売買の被害に遭っている種族だ。不死鳥族程の自己防衛能力は無く、他種族の庇護下に生きている種族だ。

 稀にとんでもない強さのエーデルシュタインがいるが、基本的に自己防衛力は低く、子供は特に能力が低い。

「チェリーシア、二人を抱えて行ける?」

「無論よ」

 レウルの言葉にチェリーシアは落ち着いた声音で応える。

 怯える子供達に歩み寄り、チェリーシアは膝をつく。

「怖いわよね。大丈夫。お姉ちゃんと一緒にここを出ましょう」

 優しく、柔らかい声でチェリーシアは子供達に声をかける。

 不死鳥族の証である、頭に翼が生えている子供が恐る恐るチェリーシアに問う。

「ど……どこへ行くの?」

 その問いにチェリーシアは努めて優しく微笑む。

「あなたのお家。一緒にいる子は身元の照合を希少種族保護団体に問い合わせないといけないけど……」

「帰れる……の?」

「私たちを信じてくれるなら」

 チェリーシアは子供達に向かって手を差し出す。

 子供達は再び、互いに顔を見て、頷く。

 差し出されたチェリーシアの手を、不死鳥族の子供が握った。

「うん。一緒に行こう」

 チェリーシアは頷くと、子供達をそれぞれ、片腕で抱える。

 子供達は抱えられ、チェリーシアの肩にしがみつく。

「保護対象の保護が完了したわ、エムル」

 チェリーシアは正面に向かって話しかける。

〈報告了解。お疲れ様、チェリーシア、レウル〉

 声のみの返答だが、エムルとの通信は無事に繋がった。


 チェリーシアの報告を受けたエムルは肩に乗っているアイルへ話しかける。

「無事に発見、保護完了したようだよ。アイル」

 同胞が救出された報告であるエムルの言葉に安堵したらしい、アイルは美しい真紅の瞳を細め、嘴をエムルの頬に寄せた。

 世界に生きる人々の心に悪もあれば、善もある。こうして、攫われた同胞を救ってくれる者もいるのだ。

 かつての自分を救ってくれた、あの姫のように──。

 遠い記憶の彼女を思い出しながら、アイルはエムルに顔を寄せる。

「アイル、くすぐったいよ」

「──ああ、でも、少しだけ、こうさせて欲しい」

「そう? まあ、アイルの気が済むなら……」

 アイルのふわふわの羽毛がエムルの頬を擽る。

 エムルは柔らかい表情で微笑み、アイルの頭を指先で撫でた。

 同族の子供が攫われたとあれば、同族意識が強いアイルは気が気でないだろう。アイルと長い付き合いであるエムルはそれが分かっていた。

 アイルの心が少しでも落ち着いたのなら、エムルも嬉しい。

「アイル……、近すぎです。あと、長いですよ」

 エムルの背後に立ったシェロが言った。

 相変わらず、表情は柔らかいもので微笑みを浮かべているシェロは、エムルの背後から、エムルの耳に唇を寄せた。

「……ね、エムル」

 甘い声音でシェロは囁き、その囁きはエムルの肌によく通り、エムルは囁かれた方の耳を押さえて後退った。

 アイルはエムルの肩に乗ったまま、目を細め、冷ややかな視線をシェロに向けた。

 シェロの行動を見ていたエトルは呆れる。

「もぅ……、緊張感ないなぁ。まだ、任務中だよ……」

 あれで、あの二人と一羽は仲が良いのだ。

 シェロがちょっと嫉妬深いのだが……。

 それよりも、今はまだ任務中なのだ。エトルは色ボケ漫才している二人と一羽に呆れ、周囲の警戒にあたる。

「……て、敵らしい気配は無い、よね……?」

 エトルは周囲の気を魔力で探り、敵意のある気配がないことに安堵する。

 このまま、保護対象を連れたチェリーシアとレウルに合流出来れば、転移魔法で安全地帯まで飛ぶことが出来る。

「エトル、安心するのはまだ早いよ」

 だが、エムルの結論は違った。

 大きな組織ではないものの、まだ敵は残っている。エムルのこれまでの勘が、そう結論へと導いた。

 エムルの言葉にエトルは眉を下げ、小さく息を吐く。

「……そうかぁ~」

 前衛は得意ではないエトルは、シェロの後ろにいることにした。

 シェロは強い。シェロの後ろ、近くに立っていれば安全だ。

 自分の背後で敵の襲来に警戒しているエトルに、シェロは声をかけた。

「大丈夫だよ。僕の手が届く範囲内であれば、君を守れる」

「その範囲内って……」

 シェロの言葉に、シェロの肩へと飛び移ったアイルが呟く。

 アイルの言いたい言葉を察したシェロは、変わらぬ柔らかい表情をしたまま喰えない笑みを浮かべている。

 シェロの実力はエムルと拮抗しており、エトルから見ても頼もしさと恐ろしさがあるのだ。味方でいてくれるのであれば、とても心強いのだが……。

 シェロの背後に隠れながら、エトルは小さな不安を抱く。


 子供達を抱えたチェリーシアはレウルの後ろを追う形で走る。

 保護対象がいる以上は、急いで危険な場所から脱さねばならない。エムル達と合流し、転移魔法を使い、安全地帯へと飛ぶ。

 地下から地上階へと階段を使って駆け上がる。

 レウルは画面を起動し、周辺の地図を表示していた。四角の枠内に表示された周辺の地図を確認し、チェリーシアの前を走りながら、敵の気配を探る。

 地上階に昇り、建物を出てしまえばエムルとの合流は近い。

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