繋がらない過去の夢
その夜、アンダイエは不思議な夢を見た。
記憶のどこにも繋がらないはずの情景。
けれど……それは確かに、どこかで見たはずの光景だった。
視界に映るのは、小さな手とタッチペン。
画面の中では、鮮やかな軍服の女性が、燃える砦で笑っていた。
「もう私はここまで。でも良いの」
その女性の名前は、イルン・カルテシウス。
王国の参謀官兼宮廷魔術官。
「全ては運命という台本通りに。この国が滅びるのだって、私がこうなる事だって。私はこれしか、存在意義が無いのだから」
彼女はこのシーンにだけ登場する。
そしてすぐに居なくなってしまう。
「でもね、私という存在は否定できなかった」
彼女の台詞を見つめながら、少年の手が止まる。
まるで、その姿が”アンダイエ・シュティ”と瓜二つであることに気づいたかのように。
それから少年はこの作品のスタッフを見て、少しだけ納得した様子になる。
一方で別の場面。
静かな部屋の中で、一人の少女が本を読んでいる。
その本の挿絵には、巻き髪と宝石の瞳を持つ女性が描かれていた。
名前はタンジール・オクシタニア。
かつて皇帝を裏切った、『冷酷なる皇后』として廃帝の回廊に封じられた高位存在。
「私は全てを覚えていた。救うにはああするしかなかったが、失敗しちゃった。そして、私は全てを語られなくなった。あなたの物語にも、入り込む隙間は無くなった」
ページをめくるたびに、その姿はトリエステ・スゴンダと重なっていく。
これは偶然なのかそれとも……
朝、アンダイエは静かに目を覚ます。
外では鐘の音が鳴っていた。
(変な夢……)
夢の内容は、時間が経っていくにつれ忘れてしまった。
最終的にアンダイエはあの夢を思い出せなくなる。
だがその手には、寝る前に抱えていた手帳が残されており、ページの隅には、昨夜書いたはずのない走り書きが。
『イルンはアンダイエに似ている』
『タンジールは、トリエステと同じ目をしている』
「何だろう」
いつ書いたのだろうか、さっぱり分からない。
無意識すぎるものだろうか。
やがて夢の内容を思い出せなくなったため、アンダイエはこのページには気をとめなくなったのだった。