表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/70

公開の檻ーーテルミドールへの道

 その言葉と同時に、ライラックが前へと進み出る。

彼女の瞳は任務に忠実な兵士のもの……のはずだった。

だが一瞬だけ、その視線が揺らぎ、アンダイエの方をかすめた。


 ほんのわずかな躊躇。

それは、かつて物語で「ヒロイン」として描かれた者の内なる声なのかもしれない。


「ライラック」


 ティラナが鋭く名を呼ぶ。


「あなたの役目は何か、忘れていませんわね?」


「……はい」


 ライラックは静かに答える。だがその声は、わずかに震えていた。


 アンダイエはその揺らぎを見逃さなかった。

胸の奥に熱が走る。

カウナスの文字が手帳の頁で微かに光を放つ。


 ストラスが低く囁いた。

「見たかい? あれは……氷の仮面に入ったひびだよ」


 ティラナは一拍置き、指先をひらりと振る。


「では、処分を。ーー彼らをテルミドールへ移送しなさい」


 兵士たちが一斉に動き、アンダイエ、ストラス、デイジーを取り囲む。

その緊張の只中で、ライラックの眼差しだけが、なお揺れ続けていた。

 ティラナの声は落ち着き払っていたが、そこに逆らえる者は一人もいなかった。

 兵士たちがすぐに動き出す。


 アンダイエは息を呑む。


「……どうしてテルミドールなの?」


 その小さな疑問に、ティラナはわずかに口角を上げた。


「決まっているでしょう。審問は人目に触れなければ意味がありません。市民の前でこそ、記録がいかに危険で、いかに我々の管理下に置かれるべきかが示されるのです。テルミドールは行政首都。ーー公開の舞台にふさわしい」


 その言葉に、兵士たちは一層強く鎖を握りしめた。

 ストラスは目を細め、アンダイエの耳元で囁く。


「つまり……これは見せしめだよ。あんたを通して、市民に“記録は支配されるもの”だと刷り込むつもりなんだ」


 デイジーが唇を噛みしめ、必死に声を押し殺す。


「……なら、あたしたちが示さなきゃ。記録は、未来を照らすものだって」


 アンダイエは胸の奥に小さな熱を覚えながら、冷たい夜気の漂う回廊を歩かされていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ