ダムナティオの窓辺
トリエステと別れてから、熱月の風に戻ったアンダイエとストラスは、休憩と言わんばかりに紅茶を飲んでいた。
窓からは、夕焼けが映り込んでいる。
通りを歩く人々の影がゆっくりと傾き、テルミドールの街は少しずつ夜の準備を始めている。
「ふぅ……」
紅茶を飲んでアンダイエは大きく息をついた。
明日の記事を纏めたりして、出せるような準備は出来ている。今日の大統領との面会に関しても、一応は出すつもりである。
ただ保衛委員会の検閲が通ればの話だが。
「今日も、色々と濃かったね……」
「ただ明日も同様かもしれないけれどな。記事にすることも山ほどあるだろうし」
ストラスは帽子を軽く持ち上げて、額の汗を拭った。
その姿は、いつも通りの彼女。だけどさっき、ほんの短い間だけコルマール・ジュストに対して見せていた”怒りの表情”が、アンダイエの胸に引っかかっていた。
「ねえ……」
アンダイエはそれが気になって、口を開いた。ストラスは「ん?」と目を向けてくる。
「ストラス。訊きたいことがあるの」
「……どうしたんだ?」
返ってきたのは軽い調子だったものの、アンダイエはそのまま続ける。
「さっき……ジュスト委員が言っていた、”元王宮保衛室”のストラス・ラザールって……」
その瞬間、ストラスの目の奥にある光がふっと変わった。
空気が少し、冷たくなる。
いつものストラ 辞めるようなことが」
最初ストラスは何も言わなかった。
沈黙が、肯定を語っていた。
やがてーーゆっくりと窓を見ながらストラスは笑った。
それはどこか、懐かしむように。どこか、悔いるように。
「一つだけ教えてあげる。あたしは、一人の若い令嬢を事実上殺した。名前から記録まで何から何までの全てを消して」
ぽつりと漏れた言葉に、アンダイエは息を呑んで聞いている。
「ダムナティオ・メモリアエ、それによって彼女は完全に、死んだんだ。それに絶えきれなくなって、あたしは王宮保衛室を辞めた。そこから、数年間放浪していて、このテルミドールで償いの意味も込めて『熱月の風』に入って、今に至るという訳さ」
「そうだったんだ……」
「さて、暗くなっちゃったな。これでこの話は終わりで」
「うん……」
ストラスの話が終わったら、あたりはかなり暗くなっていた。
冷めている紅茶を飲みきって、夕食を食べるために立ち上がったのであった。




