女学院での式典、トリエステ・スゴンダの祝辞
式典の日、ヴァンデミエールの空は高く澄んでいて、初冬の光が学院の尖塔を黄金に染めていた。
この日の式典は朝から行われる。いつも以上に校門は賑わっていた。
アンダイエはストラスと共に首都の特派員として、女学院に足を踏み入れていた。
二人は前日の夜にヴァンデミエールへ。朝の汽車では、間に合わないからだ。
門を越えて、バルコニーに彩られた葡萄と月の紋章と、紅白のリボンの列。
生徒や来賓達が、華やかな衣装で集い始めている。
「……この祝典がスゴンダ嬢に関する記事になるのか? 確かにアンダイエの話が無くても、この祝典は通常の記事になるだろうが……」
ストラスが尋ねてきた。
そのために、二人はヴァンデミエールへやってきからである。この式典は、それこそヴァンデミエールにいる特派員が取材を行うような事だからだ。
だがアンダイエは、それに即答出来なかった。自分の意志で来たのか、呼ばれたのか。
理由が曖昧だったからだ。
あの紙切れ。トリエステがくれた、あの言葉。
「次に舞台が変わるのは、来週。ヴァンデミエール女学院の祝典。わたくし、またこの悪役令嬢を演じることになりそうなの」
彼女は”記録しに来てほしい”と言ったのか。
それとも、”来ないで”ほしかったのか。
だが、その答えはすぐに現れる。学院中央の広場、壇上。
そこに立つ彼女を、アンダイエは見つけた。
トリエステ・スゴンダ。
深紅のリボンに身を包み、亜麻色の髪は完璧なカールで編み上げられ、表情一つにまで気品と毒を宿していた。
彼女は観衆を見下ろし、あざ笑うように口元を歪めていた。
「まさか、下町からのお客人まで紛れ込んでいるとはーーここも落ちたものですわね。まあ、それも祝典の”彩り”と考えれば……楽しいかしら?」
観衆が騒然となる。
冷ややかで、劇的な言葉。それは完全に”あの役”のままだった。
誰もが知る、ヴァルミュルブール国一の悪役令嬢。
アンダイエは目を逸らせなかった。
その口調、仕草、すべてが脚本で書かれたように計算されていた。
観客が悪役令嬢ぶりに騒然となり、怒りを覚える人だっている。だが、アンダイエにとっては、むしろ苦しく感じる。
(トリエステ……あなたは、まだあの舞台の上にいるの?)
式典は進行する。式辞、演目、祝杯の準備。
その合間に、アンダイエは誰もいない中庭に出た。
冷たい風が記者証を靡かせる。
そのとき、石畳の反対側から足音が響く。
「やっぱり、来てくだったのね」
トリエステだった。
先ほどとは違う、落ち着いた声。でも、目は冷たいまま。
「あなた、わたくしの噂を記事に書いたのよね?」
「……はい。テルミドールでの噂ですが」
アンダイエはトリエステが、自身の記事を呼んでいる事に恐縮な気持ちで返答する。
「ふふ、それなら実際の出来事を記事にしなさいな。今日はたくさん”材料”を用意してありますから」
「材料……?」
「どうぞ好きなだけ”記録”してちょうだい」
そう言い残してトリエステは戻っていった。




