スケッチブックと芋虫とついでに役割
どうも上沙です!ぜひ読んでいってください!
今日もまた、陽の光を浴びなければいけない。砂の粒のような意識に体の全指揮を任せ、無理に起き上がろうとする。
これが、悪手だった。
「痛ったあ……!」
左手から脳天に向かって、重い痛みが駆けてゆく。どうやら、スケッチブックのリングの部分に手を置いてしまったようだ。
今しがたまで砂粒だと思っていた意識が、巨岩へと変化していく。全くもって、最低な目覚めだ。
目が覚めたものも、もう一度寝転がり、大きく伸びをする。はぁ、今日もまたあの悪路を歩くのだろうか。憂鬱としか言いようがない。
早く目覚めたことを後悔しながら、首を鳴らしていると、アニカがいないことに気づいた。きっと、朝食でも作っているのだろう。
『奴隷』というのは命令されて行動するものだと思っていたけれど、アニカは進んでよく働いている。それは、ゲルティがアニカを『奴隷』として扱っていないからもあるだろうが。
それでも、『奴隷』という身分の中で強く生きようとするのは、とてもすごいことだと思う。僕にはきっと真似できない。『罪人』としての役割を果たすしかないのだ。
――処刑されるだけの役割を。
何はともあれ、アニカは『奴隷』としたときのいわゆる『主人』より立派だということだ。
相変わらずゲルティが起きる気配は無いし……。
そのニヤけ気味の寝顔を見ていると、ムクムクと僕の中に、ある欲望がこみ上げてきた。
さっき僕を攻撃してきたスケッチブックを拾い上げると、ゲルティの耳に近づけ、長方形の真ん中辺りから七十度ほど軽く曲げる。
そして、スケッチブックから手を離した。勢いよく元の形に戻ろうとしたスケッチブックは、床と激突し、想像よりも大きな音を立てる。
自らの寝息だけを拾っていたゲルティの耳は、突然の爆音に、人が近づいたときの野良猫のように素早く反応した。
とはいえ、ブランケットで全身をすっぽり隠しただけで、一切身を守ることはできていない。これでは、猫というより芋虫のようだ。
「もう朝だよゲルティ! 早く起きなきゃ朝ご飯抜きになっちゃうよ」
芋虫を縦横に揺らしたり、部屋の中を転がしたりしてみる。しかし、それでも起きない。
こうなったら最終手段だ!
ブランケットのはしを確実に掴むと、一息に、それを奪い取った。安眠を守る盾を奪い取られた死神は、手だけを伸ばし取り返そうとするが、全く見当違いの場所で手を振り回している。
「はい! 起きて起きて」
ゲルティの腕を引っ張り、強制的に立たせる。
「なんだ……? まだ私は眠いんだ……」
せっかく立ったはずの膝がゆっくりと崩れていき、もう一度寝転がろうとする。
もう立たせることは諦めようか……。今度は足を掴み、眠っている体勢のままのゲルティを引きずりだす。
扉を超え、廊下にゲルティの体を投げ出すと、寝室とは遠く離れた場所にある、アニカ達がいるであろう部屋の扉を見すえる。
恐らくは、一分もかからない距離だろう。走れば、十五秒もかからないはずだ。
だがそれは、邪魔がなかった場合の話だ。ただでさえ、人間というものは重い生き物だと言うのに、無駄に長身なこの男を運ぶのは、あまりにも骨が折れる。
僕はあの、遥か先の目的地へと辿り着くことができるのだろうか。
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