無意識の比喩
どうも上沙です!ぜひ読んでいってください!
「いったい、どうしたっていうのさ」
大型のクロスボウの傍らで、笑い転げ回っている死神に冷めた視線を送る。
「いやいや、ゲルティがまだあの嘘ついているとは思わなんだ」
「嘘!? 今、嘘って言ったの?」
信じられない。あれが嘘だったってこともだけど、あの状況で嘘をついたということが信じられなかった。
「ああ、全くの嘘だ。もしそうなら、何でこそこそ隠れて行きていかなきゃなんねえんだよ。な、そうだろ?」
最もすぎる答えだ。
「え、え、それじゃあ! 何でそんな嘘をつく必要があるの?」
「……これは、俺の憶測にすぎないんだがな。多分捕らえた罪人に反抗する気を起きなくさせるためじゃねえか?」
そうだ、僕もこの嘘で逃げる気が失せたんだった。もし、あそこで逃げようしたら、その場殺されていたかもしれないと考えると、嘘をついてくれて本当にありがたいと思う。
「お前は、死神について何も知らなかったんだろ? だから、この嘘が通用すると思ったんだろ。ゲルティは殺しは好かんからな」
月が雲に遮られでもしたのだろうか。部屋から光が失われ、アロイシャスの顔も、影に呑まれてしまう。
けど、闇に覆われる直前、アロイシャスの目が空振を受けたガラスのように、小刻みに震えていたように見えた。
「そうだ……、ゲルティは良いやつだから。こんな、俺みたいなやつでも、救ってくれるようなやつだから……」
アロイシャスは首をぐるりと回し、ゲルティに顔を向けた。
表情は見えなかったけど、ゲルティを見ているようで、もっと、遥か遠いところを見ているのが分かる。
暗闇をくり抜くように存在しているアロイシャスの背中は、悲愴感を漂わせていて、それを見つめる僕まで、泣きそうな気持ちになってしまう。
この、死神は、魂の底からボロボロになったことがあるんだろう。自分の行いを悔い、過去も現在も未来も、その全てを諦めたことのある、そんな道を歩んできた死神なのだ。
その口から語られずとも分かってしまう。
(ねえ、いつか、アロイシャスの物語も聞かせてよ)
「そういや、俺の部屋にスケッチブックがあったはずだ。今から取ってきてやるよ」
体にまとった雰囲気を取っ払い、アロイシャスが勢いよく立ち上がる。相変わらず、僕には、背を向けたままだ。
足音を立てぬようにと、アロイシャスは抜き足で扉を開け、寝室から出ていった。
僕は、耳が痛いほどの静寂の中で、己の人生が残されている紙を拾い上げると、続きはどのように書こうかと、構想を練る。
進行具合でいえば、アニカが獲った魚を食べているあたりだけど……。
「……あっ!…………」
危ない。思わず大きな声が出そうになり、口を素早く閉じる。
「もう、少し、書いていたら、危なかった……」
そう、魚を食べた日の翌朝は、アニカにお姫様抱っこされた日だ。人生を記すのだから、僕は、アニカに抱いた感情も全て書き記していただろう。
もし、それをアロイシャスに見られたらただでは済まない。イタズラではなく、本気でクロスボウを僕に向けるに決まってる。
これは、駄目だ。他のどんな秘密がバレてもいい。しかし、これだけは本当に見られてはいけない。
――この夜、処刑されるその時まで持っていく秘密が、一つ、誕生した。
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