ある英雄の嘘
どうもレモンです!ぜひ読んでいってください!
書き始めてから、まだ半刻しかたっていないのに、早速困ったことになった。
紙が足りないのだ。そもそも、一枚の紙に物語を書くなど厳しい話である。
「うーん、ゲルティに頼むかな」
しかし、ゲルティには物語を書いていることは知られたくないなあ。ゲルティは馬鹿にしたりしないだろうけど、何だか、嫌だ。
「そうだ! アロイシャ……流石にないなあ」
アロイシャスのことだ、絶対にゲルティやアニカに言うし、物語を書くことを笑うだろう。
考えが行き詰まったことに悩んでいると、月明かりが何かに遮られていることに気づいた。
「何がないんだシッド? え?」
「うわあ! だ、誰!?」
反射で振り向くと、何とも言えない顔をしたアロイシャスが、クロスボウを僕に向けている。
前も、こんなことがあった。これから人の話をするときは、背後に気をつけなければいけない。
「いや、何でもないよ。は、ハハ……」
紙を急いで隠そうとするが、無理があると、自分でも思う。すでにアロイシャスの目は、紙をしっかりと捉えている。
……万事休す。よりによってアロイシャスにバレてしまった……。
アロイシャスはきっと、笑うと思った。罪人が人生を残すことを、馬鹿にすると思った。
けど、この死神は笑わなかった。
「ん、ちょっと見せてくれよ」
僕から紙を渡されると、アロイシャスはクロスボウを置き、月明かりを頼りに読み出した。
いままでの行動からは信じられないほど真面目な顔をして、じっくりと、一つ一つの字を目に焼き付けている。
まるで、文ではなく、『字』そのものを理解しようとしているかのように。
一般的に、理解するってのいうのは、物事の意味を知ったり、わかったりすることだ。けれど、僕はそれだけが理解するってことだとは思わない。
愚見だと思うけれど、理解するっていうのは一般的な意味だけじゃなく、意味のないものから何かを感じることも理解なのだと思う。
きっと、この時のアロイシャスも、一つでは言葉としての意味を持たない『字』から、何かを感じ取ろうとしていたのだ。
「やるじゃねえかシッド! 中々いい文章だ」
「ええ、本当に?」
誰にも見せる気はなかったけれど、やっぱり、人に褒められると嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
「ああ、本当によくできている……」
……一応聞くが、とアロイシャスは声のトーンを少し落とし、続けた。
「これを誰かに送ったり、広めたりしようとは思ってないよな?」
言われて、気付いた。この紙は、死神の社会にとって、爆弾になり得るものなのだと。
「そっか、死神について本当の情報がこんなにも書かれた本が売られでもしたら大変だもんね。大丈夫だよ、もともと誰かに見せるつもりはなかったしね」
この言葉に嘘はない。これからも、求められでもしない限り、誰にも見せないだろう。
「おう、それならいいんだ。俺も『道守』としての仕事があるからな。どうしても目は瞑れねえんだ、悪いな」
ん? と疑問が一つ、心に浮かんできた。今まで思いつかなかったのが不思議なくらいの疑問だ。
「そういえば、死神達って国と繋がっているんじゃないの? それなら、何で隠れて生きているの?」
「……それって、ゲルティが言ったのか?」
「ゲルティと会ってすぐに言われたよ」
アロイシャスは驚いたように目を見開くと、大口を開け笑い出した。ほんとうに、ほんとうに愉快そうに笑っている。
しかし、アニカやゲルティが寝ていることを思い出したのだろうか、落ちていた毛布に顔を埋め、必死に声が漏れないようにし始めた。
それでも、声こそは出ないものも、体全体を震わせて笑っている。
いったい、何がそこまでおかしいのだろう。
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