本物じゃないけれど
どうも上沙です!ぜひ読んで言ってください!
浴槽ギリギリまで張られたお湯に、一息に体を沈める。体が芯まで温まるのと同時に、心に溜まったモヤモヤがお湯に溶け出していくような感じがした。
何でモヤモヤしてたんだっけ? 僕だって死神の一員だ。ゲルティやアニカ、一応アロイシャスもいるのに孤独なわけないじゃないか。
もう、グダクダ考えるのは辞めよう。どうせすぐ処刑されるんだ、落ち込むだけ無駄ってもんだよね。
楽観的な思考にふけっていると、耳が、何か音を感じ取った。自然と、限界まで脱力しきった体に力がこもる。
なんだか、死神として生活をする内に体全体の機能が上がっている気がする。まあ、気のせいだろう。そんなことより、この音はなんだ?
そもそもこのお風呂は、あの豪邸とは別の場所にあり、豪邸の裏側の小さなレンガ造りの小屋の中に造られている。小屋の扉を開けると、すぐにシャワーと浴槽があるので、服は扉の向こう側に置いてある。
そして、僕が聞き取った音は服を脱ぐ音だった。扉の向こうから確かに聞こえる、布がこすれ合うような音。
刹那、わずかな希望が頭をよぎる。そう……、アニカかもしれないとういう希望だ。もしかしたら、今回もゲルティが共に入るように命令したのかもしれない。
念の為言っておくが、僕はスケベなやつじゃない。だけど……、好きな子とお風呂ぐらい、入ってみたいだろう?
そのまま耳を澄ませていると、服を脱ぐような音が完全に止まり、扉がゆっくりと開かれた。
ガンッと何かが扉につっかえるような音が響く。僕は今、扉に背を向けるようにして入っているので、何がつっかえたのかは分からない。だけど、この小屋の扉はだいぶ大きいので、つっかえる物となれば、だいぶ限られてくる。
そう、例えばアロイシャスのクロスボウとかだ。さすがに、クロスボウを抱えてお風呂に入る人はいないと思うが……。
つっかえたような音が二、三度聞こえたと思うと、次は、濡れた地面を裸足で歩く音が響く。……もうここまでくると分かる。音の正体は、アニカじゃない。
勢いよく振り向く……が、耳元を通りすぎた矢がそれを制止させた。矢尻が耳をかすめ、そのまま小屋の壁に突き刺さる。
「よう、シッド! 俺も入りに来たぜ!」
アロイシャスだ。まさかの、いや、予想通り、クロスボウを担いでいた。全裸でクロスボウを構える姿は、どう見ても危険な人である。僕じゃなかったら叫んでいただろう。
「ええい、うるさいわアロイシャス! もっと静かに入れんのか!」
できればクロスボウで撃たれる前に来てほしかったけど、ゲルティでもアロイシャスの奇行は止められないだろうな。
アロイシャスの奇行を止められるのは、きっと、アニカだけだ。
「ん? その顔はさては、アニカを期待してたな? 残念だな、アニカは皿洗い中だ!」
「なっ……、違うよ! そんなの期待してないし、足音でアロイシャス達だって分かってたよ!」
二人は顔を見合わせニヤついている。なんだか、急激に先ほどまで考えていたことが恥ずかしく感じる。僕は、何であんなことを期待していたのだろう。
恥ずかしさで静かに悶絶していると、二人して湯船に飛び込んできた。一気に水が溢れ出し、あんなに広かった浴槽が狭く感じる。
……こうしてみると、まるで家族みたいだ。自分の手で家族を破壊して、僕は一人ぼっちだった。けど、優しい死神達は孤独から僕を引き上げてくれた。
もう元の家族が戻ることはないけれど、もう少しだけ、この時間に浸っていたい。
読んでいただきありがとうございます!




