ヘタレの勇気
どうも上沙です!ぜひ読んでいってください!
アニカを助けなければ、言うんだ、勇気を振り絞れシッド!
「やめてあげ……」
「だから、やめろと言っているだろうアロイシャス! 奴隷に手を出したら、お前までエリスのようになるぞ!」
初めて見た、ゲルティがここまで怒っているのを。エリスが何かなど、全く知らない。しかし、奴隷に手を出すことが余程恐ろしいことなのだと、容易に想像できるほどの怒りだった。
というか、それよりも、なんだかとてつもなく悔しい。先に止めようとしたのは、僕だぞ。
心なしか、アニカがゲルティに顔を赤らめているような気がする。ああ、なんて羨ましいんだ!
「はいはい、分かったよゲルティ。エリスの話はやめてくれ、あんな胸糞の悪い話は聞きたくねえ」
そういえば、次に行く宿の名前が『エリス』だったような気がする。無関係の可能性もあるが、エリスとはいったい何なのだろう。
「それで結局、俺の家に泊まっていくのか、野宿するのかどっちだ? 家に泊まるならベットはアニカのものだからな。お前らは床で寝ろ」
「ほう、それはありがたい。お言葉に甘えて、床で寝させてもらうことにしよう。なあシッド?」
急に振られたせいで、今まで『エリス』について考えていたことが、すっ飛んでしまった。
「え、あ、そうだね! お世話になります、Mr.アロイシャス」
「敬語なんてよせよせ。俺は、お前の頭をクロスボウでふっ飛ばそうとした男だぜ?」
忘れていたが、そういえばそうだった。普通に狙いが外れていたら死んでいたというのに、今平然と話せるのが不思議だ。
「えっと、それじゃあよろしくね、アロイシャス」
そうだ、とアロイシャスが二度頷く。こうしていると好青年なのに、人間は見た目では分からないって本当だな。いや、死神か。
「それじゃあ、そのワピチを縄でくくりつけてから行くか。アニカは、はぐれないように気をつけてね。木の根っことか気をつけなよ。ああ、そこに大きい根があるよ。疲れてない? 背負おうか?」
……アロイシャスとしばらく歩いて、分かったことがある。まず、うるさい。口を開けばアニカアニカとひたすら言っているし、十秒おきに疲れてない? と聞いている気がする。
そして次に、武器のあつかいがとても上手なことだ。アニカに近づく虫や小動物を、一匹残らずクロスボウで仕留めている。
仕留めた獲物を拾うのは僕の役割なので、とてつもなく困る。ゲルティも手伝ってくれ。頼むから。
しばらく歩くと、生き物の数が減ってきた。アロイシャスに聞くと、家の付近には何故か生き物が寄りつかないそうだ。
生き物が全く見えなくなったころ、急にカラフルな景色が飛び込んできた。『リリー』の影響だろうか、勝手にボロい小屋を想像していた。しかし、そこにあったのは見たこともないような豪邸だった。明らかに異質なそれは、森の中で圧倒的な存在感を放っている。
「到着だよ、アニカ。ゆったりくつろいでよ! 自分の家だと思っていいからね! ……お前ら二人は体を川で洗ってこいよ。そんな汚えなりで人の家に上がる気か?」
冬の川の冷たさは、身を持って知っている。しかし、この豪邸に泊まるためには仕方がないのだろう。
「行くぞ、シッド。どうせ私達に拒否権は無い。アロイシャスはそういう男だ」
来た道を引き返し、森の中で二人して裸になる。川が、死への入口のように思えて体がすくむ。ゲルティを見ると、こちらも同じように川に入ることをためらっているようだ。
「い、行くよゲルティ!」
「ああ、行くぞ!」
僕達は、温かい室内で寝るために極寒の川へと飛び込んだ。行動が矛盾しているが、そんなことは今はどうでもいい。少しでも早くと、寒さに耐えながら体を水で洗い続ける。
まずい……、まだ頭しか洗ってないというのに頭痛がし始めた。ゲルティに助けを求めたいのに、口が動かない……。
頭が熱くなってきたと思ったら、視界が真っ白に染まり、意識が川の中へと消えていった。
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