森となった少女
どうも上沙です!ぜひ読んでいってください!
「大丈夫ですか、シッド様?」
顔を上げると、空がオレンジがかってきているのが分かった。ゲルティと話したのが、今さっきのように感じる。僕は、何時間何も考えずに歩いていたのだろうか。
「もう五時間ほど何も話しておられませんが……。どうかされましたか?」
そんなに経ったのか、木の根っこに引っかからなかったのが奇跡だ。このまま、処刑まで何も考えなくてすんだら良いのに。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと考えてて……」
「まだ考えておるのか、夜の森での雑念は命取りになる。今は、狩りのことだけ考えておけ」
無理だ。この感情とは処刑まで付き合うことになるだろう、死ぬまで解放されることのない呪いだ。けど、その呪いをかけたのは自分自身だった。
「そうだね。今日はアニカと狩りをするんだっけ?」
「はい。狩りの方法から血抜きの方法まで教えますよ」
アニカが一緒に狩りをしてくれるのは、とてもありがたい。前みたいに迷子になることもないだろう。
「あ、行きますよシッド様!」
急にどうしたというのだろうか、アニカが森の中を駆け出した。歩くだけでも大変だというのに、走るなど無理に決まっている。
「何をしておるんだ。ほら、早くアニカを追いかけろ。狩りの時間だぞ」
『狩り』という言葉に反射的に体が動く。アニカの後ろ姿を追って走り出すが、駄目だ、追いつけない。
また迷子になってしまうと思ったが、アニカが急に走るのをやめた。獲物を逃してしまったのだろうか。
「シッド様、この近くに獲物が一匹います。自力で探し出してください。これも死神には大事な力ですよ」
「ええ? そんなの無理だよ。アニカも手伝ってく……わぁ!」
アニカが、僕に目隠しをするように、後ろから手をかぶせてきた。
自慢じゃないが、僕は身長が高い。それに比べて、アニカは小柄だ。なのでアニカは背伸びをしているが、プルプルして今にも倒れそうだ。
「アニカ? この手は何?」
「目を使わずに見つけてください。目視で探すだけなら、誰でもできます。……ちょっと待ってください」
アニカが一瞬、森の木々に消えていったと思うと、大きな丸太を引っ張ってきた。……あの小さな体に、これを運ぶ力がどこにあるのだろう。
その丸太に乗り、再度僕の目に手をかぶせる。
光がさえぎられ、視界が黒一色に染まる。正直いって、暗闇は苦手だ。いや、苦手になった。夜の恐怖はそう簡単に消せるものじゃない。
「獲物を探そうとしても駄目ですよ、この森には様々なものが溢れています。それら全てを感じてください。匂いや音、気配全てです。そうすれば、自然と見つかりますよ」
目が見えないせいか、アニカの声がよく聞こえる。そうだ、今は一人じゃない。あの時は一人ぼっちだった、孤独だった。今は違う。
音を聞き、匂いを感じる……。何も分からない、土の匂いと鳥の羽音しか聞こえない。全てを感じるということとは、違う気がする。アニカが言う全てって何だろう。
「目が見えないと何もわかんないよ。そもそも、全てを感じるってどういうこと?」
「シッド様はまだ一匹の獲物を探そうとしてますね。そうではありません、土の匂い、生き物の鳴き声、風の冷たさ、木々のざわめき、空気の揺らぎ、その全てを感じるのです。森と一体になってください」
一匹ではなく、全てを感じる。体中の感覚に集中するが何も変わらない。森と一体になんか、なれっこない。触れられていなければ、アニカの気配でさえ分からないだろう。
「ごめん、何も分からない。動物どころか、何の気配も感じないんだ」
「まあ、初めてなので仕方ないですよ。今日は私が見つけます。狩りは一緒にしましょうね」
そういうと、アニカは瞼を閉じる。
――瞬間、森が止まった気がした。風が止み、鳥の羽音が消え、木々が黙る。多分、僕の気のせいなんだと思う。けど、本当に、これが森と一体になるってことなんだと理解できた。アニカのいる場所にだけ、光が注ぎ込んでいるように感じる。まるで、森がアニカを歓迎しているように。
「見つかりましたよ、あそこの大きな木の後ろですね。……聞いていますか?」
じっとアニカに見つめられ、我に返る。森と一体になっていたアニカから目が離せなかった。なんだか、キザな言い方かもしれないけど、美しいという言葉を体現したようだった。本当に、本当に綺麗だったんだ。
「もう、あっちですよ、あっち。私ではなくて」
アニカの指差した先を見るが、大きなシカがいるだけだ。獲物などは何もいない。いや、いるじゃないか。シカだ。
「ワピチかな、大きいね」
昔、クラウスが言っていた。この国のシカでヘラジカの次に大きいのが、ワピチだと。
「それでは今から狩りますよ、シッド様は私の方に追い詰めてください。あとはどうにかします」
キツネとは比べ物にならないほど大きい。けど今回は二人だ、大丈夫、きっとどうにかなる。
読んでいただきありがとうございます!




