失われた命とそれを運ぶ者達
どうも上沙です!ぜひ読んでいってください!
森の中を歩くというのは想像よりも大変らしい。昨日まで歩いていた舗装された道とは全然違う。
木の根っこがところどころに飛び出していて、高い草がそれを隠している。気を抜くと引っかかってしまいそうだ。
こんな道を平然と歩く二人は何なのだろう。
「ちょっと待ってよ、そんな早く歩けないって」
「それでは私が背負いましょうか?」
アニカが当たり前のことのように答える。そんなことされたら恥ずかしくて死んでしまう。いや、死神からしたら恥ずかしいことでもないのか?
「疲れたら無理せず背負ってもらえ。お前の前の死神は、終始背負ってもらっていたぞ。彼が言うには、自分の死地に己の足で向かうなど耐えられないそうだ」
前の死神の時って、アニカはいつからゲルティの『奴隷』なんだろう。このままアニカの命が使われるなんてことが、なければいいけど……。
もしそうなったら、僕は黙って見ていられるのだろうか。……多分無理だ。
「というかさ、死神の力で移動とかできないの?」
ハルシアに早く行きたいとは思わないが、悪路を歩くのはあまりにも大変すぎた。
「そんなものは無い。そもそも死神は、人間とさして変わらん生物だ。正確に言うと、今、大地を支配している人類とは別方向に進化した人間だな。命を蓄える他、簡単なテレパシーはできるが、その他は人間と変わらん。むしろ子孫を残す力が弱いぐらいだ。もし、人間と同じほど子孫を残す力があるなら、今この大地を支配しているのは死神だろう」
「けど、人間より優れているんだろ? なら何でこんな隠れて生きているんだよ!」
「何を言っているのだ。死神と人間が全面戦争でもしてみろ、数が少ない我々は絶対に勝てない。命をいくら蓄えようが、心臓を何度もめった刺しにすれば普通に死ぬからな。そもそもこの力は、老衰や病気によって種が絶滅することを避けるために生まれたものなのだ。人間に対抗するすべとしてあるものではない。だから隠れて生きるしかないのだ」
死神という名前も人間がつけたものですしね。アニカが付け加える。
……死神は、最強だと思っていた。フィクションでは人の命を自由に操り、神を名乗っている。しかし現実は違った。ただ、少し違う人間。それだけだ……。
死神と名をつけた人は、何を思って名付けたのだろう。神などと大層な名前をつけ、嫌った。こんなにも弱い生き物なのに。
「まあ、そういうわけだ。瞬間移動したり空を飛んだりすることはできんぞ」
「ゲルティ様、静かに……」
アニカが口元に手を当てて、耳を澄ませる。僕には、何も聞こえない。アニカがここまで警戒するとは何事だろうか。ウサギやキツネではないのは確かだろう。
「すいません。通りますねぇ!」
大きな箱を背負った十人ほどの集団が森の中を駆け抜けてきた。音の正体はこれなのか。
「リリーだったのか! 全く気づかなかったぞ」
「なんだゲルティじゃないかぁ! アニカちゃんも久しぶりだなぁ。ハルシアに向かっているんだろぅ? なら行く道は一緒だな、一緒に行くかぁ?」
「いや、遠慮しておこう。こんな森の中で走りたくない。この子のためにもゆっくり行きたいしな」
僕の頭に手を当てながら、語尾を伸ばしたような話し方をする、色黒で、筋肉質の女性とゲルティがたわいもない会話をしている。
急に現れたこの集団は、何なんだ?
「シッド様、この人たちは『葬儀屋』ですよ。死んだ死神はハルシアで葬儀が行われるので、ハルシアまで運んでおられるのです。まあリリー様は、色々な仕事を転々とされておられますが」
なら、あの箱の中には死体が詰まっているのだろうか。怖くて、聞こうにも聞けない。
「なんだぁ、お前シッドっていうのかぁ。ゲルティと一緒にいるってことは死神でも殺したのかぁ?」
「……そうです、死神を一人、殺しました」
「ありゃ、正解だったのかぁ。それならこの中にその死体があるかもな。見ていくかぁ?」
息が詰まる。心臓が早鐘を打つ。ママの死体がある? これを逃すと、もう見るのことはきっと無い。いや、自分が殺した者の死体を見て何になる。けど、楽になりたい、ママに謝りたい、少しでもこの気持ちを押し付けたい。
僕は、僕はどうすればいいんだ……。
どっちを選んでも後悔するであろう二択が、目の前まで迫ってきていた。
読んでいただきありがとうございます!




