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命は巡る

どうも上沙です!ぜひ読んでいってください!

  笑いが収まってくるのと共に、お腹がかよわい声をあげているのに気づいた。


 川を見ると、昨日のキツネとウサギが水にさらされている。あの血の匂いは、ここからしていた。


「あれは血抜きをしているのですよ。キツネはもう遅いかもしれませんが……。今から、キツネとウサギを調理します」


 僕の視線に気づいたのだろうか、アニカが答えてくれた。いつも通りの無表情で。先程までの笑顔はどこに消え去ったのだろう。


「川で水浴びをしてきたらどうだ? 調理は私とアニカに任せろ」


 確かに服も体も汚れている。まだご飯はできなさそうだから行ってこようかな。


「それじゃあ行ってくるよ。もしご飯までに戻らなかったら先に食べといてね」


 川に向かって歩き出す。アニカの料理が楽しみだ。鍋を用意していたから肉を煮込むのだろうか、何にしろ、アニカが作るなら美味しいことは変わらないだろう。


 誰もいないとは思うが、服を脱ぐ前は周りを見てしまう。流石に距離があるし、アニカやゲルティからは見えないよな。なんだか、アニカなら見えそうな気もするが、まあ、いいや。


 服もズボンも下着も全て脱ぎ、川に飛び込む。思ったより深い川のようだ、全ての音が遮断される。何も感じないと思ったのは数秒で、すぐに冬の川の冷たさが体を襲う。手早く髪と体を洗うと、勢いよく川から出る。


 冬の川をなめていた、寒さが体を芯から凍らす。はやく皆のもとに戻ろう。汚れたままの服を着ると、体を少しでも温めようと走り出した。


「おかえりなさいませ、シッド様。焚き火を焚いたので、服と体を乾かしてください。風邪を引いてしまってはいけませんからから」


 アニカはやはり気が利く。僕が川に行っている間に二度寝を始めている誰かとは大違いだ。しかも、ご飯はほとんど完成していた。鍋の中で、具だくさんのシチューがグツグツと煮込まれている。


「この食材ってどこで手に入れたの?」


 カバンの中にこんな量の食材が入っていただろうか。調味料は沢山入っていた気がするが……。


「昨日の夜、森の中に採りに行って来ました。ここの森は自然豊かなので、食材が豊富なのですよ」


 夜の森で行動することの難しさは、昨日知ったばかりだ。死神という生き物は誰でもこんな感じなのだろうか。いや、違うだろ。僕だって死神だ。


「起きてください、ゲルティ様」


 気づくと、木でできた皿にシチューが取り分けられていた。もしかして手作りだろうか。


「もうちょっと待ってくれ、朝が苦手なのは知っているであろう。やはり早起きしたのは間違いだった、あと五分待ってくれ……」


 アニカがゲルティの手を引っ張り無理やり起こす。ゲルティはアニカがいないと何も出来ないのではないのだろうか。


 一番何もしてないはずのゲルティが始めに食べ始めた。僕もスプーンでシチューを飲む。とても美味い。


 これでパンがあれば最高なのにな。


 肉も食べるが、とてもじゃないが食べられるものじゃなかった。血抜きをしていなかったせいだろうか、獣臭さが口に広がる。


「やはりすぐに血抜きをしてないと不味いな。何で血抜きをしなかったんだ?」


「だってゲルティは教えてくれなかったじゃないか。人間の子供は普通、血抜きの方法とか知らないよ」


 そうなのか。とゲルティは黙ってしまった。この感じだとゲルティは随分長いこと人間社会と関わりがないみたいだ。


「なら、アニカに教えてもらえ。私は教えることに向いとらん」


「分かりました。シッド様、明日は私と狩りに行きましょう」


 明日も狩りをするのか……。まあアニカがいるなら大丈夫だろう。


「皆食べ終わったな。アニカ、穴はもう掘ってるか? 『祈り』に行くぞ」


 穴って何のことだろう。ゴミでも埋めるのかな。二人が立ち上がり、川の方へ歩いて行く。訳が分からないまま僕もついて行く。


「シッド、今からすることを良く覚えておけ。死神として生きるならな」


 二人が止まったと思ったら、そこにあった。深さは一メートルほどだろうか、地面にぽっかりと穴が空いていたのだ。しかもその側に、大きな肉塊と魚の頭が置かれていた。


「ねえ、これは何なの?」


 誰も答えてくれなかった。僕の言葉を無視して、肉塊と魚を穴の中に落とす。そして上から土を被せ始めた。そして、二人して手を合わせ始める。


「お前も手を合わせろ。祈るんだ。何でもいい、信じる神でも、家族でも、友でもいい。自分が大事だと思うものに祈るのだ」


 僕は素直に手を合わせ、目を閉じる。


 脳裏には無残にも殺されたクラウスがよぎる。次に、自分が殺したママ、アニカ、ゲルティと、様々な人が浮かんでは消えていく。


 しかし僕は、クラウスやママに祈る資格はないし、自分を殺そうとしている相手にも祈ろうとは思えない。いったい僕は、何に祈ればいいのだろう。

 

「もういいぞ。さっさと戻って荷物をまとめろ。ここにずっと居座っている訳にもいかないだろう」


 結局、僕は祈ることのできないまま終わってしまった。地獄に行くことが確定している僕の、祈る意味ってあるのかな。


「さっきのは肉や魚は何なの?」


「あれはお前が狩ったキツネ、それとアニカが狩ったウサギと魚だ。死神は動物を狩っても全ては食べん。半分は残して土に埋めるのだ。そして還す、自然……いや、この世の循環にだな。この世界はな、命が巡っているのだ。美しい円として終わることなく永遠に。そこに手を加えるなど、そんなこと許されるはずがない。だから半分は還す、円が途切れぬように」


 死神は人間よりよっぽどすぐれた生き物だ、人間がちっぽけなものに思えるほどに。だけど、きっと僕はこのように生きられない。命がどうとか言える立場じゃない。


「それじゃあ行くぞ、次の宿は『エリス』だったな。少し遠いぞ、覚悟しておけ」


 僕の気分は晴れなかった。今になってまた、死神を殺したということの重みが心にのしかかってくる。僕はどこで生き方を間違えたのだろうか、ママを殺そうとした時? 違う。もっと前から違っていた。きっと、僕が生まれたときからだ、あの時からもう僕の人生は決まっていたんだ。死神を殺し、処刑によって人生に幕を下ろす人生に。


 


 




 

読んでいただきありがとうございます!

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