生きていくのだから
どうも上沙です!ぜひ読んでいってください!
足が軽い。世界が明るい。リュックの重さなど微塵も感じない。ハルシアへの旅はとても順調だった。とても、処刑されに行く者の気分とは思えない。
「もう夕方だな、明日から草をかき分けて進むことになる。今日はもう休もう」
ゲルティは道から外れて歩き出した。そして、10分ほど歩いただろうか。僕は完全に、元々いた道を見失った。
「ここがいい、川もあるし木もある。寝る時は木の上だな。野生動物に襲われない」
ほんとにゲルティは自分で食料を取るつもりだろうか。見渡す限り動物がいるようには思えないが。
「今から、狩りの仕方を教えるぞ。私についてこい。アニカは荷物番を頼む」
「一人で待たせて大丈夫なの?」
この自然の中で安全が保証されてるとは思えない。万が一何かあったらどうするんだ。
「大丈夫だ、アニカは強い。精神的にも肉体的にもな」
僕はそうは思えなかったが、ゲルティが信用しているなら大丈夫だろう。多分。
「これを見ろ」
直線で二十分ほど歩いた。ゲルティの指がさした先を見ると、動物のものであろう糞が落ちている。これがどうしたのだろうか。糞などさっきからいくつもあったのに。
「これはキツネの糞だ。見たところまだ新しい、まだ近くにいるな」
そんなことが分かるものなのか。僕には他の糞と何ら違いの無いものに見える。
「今から、痕跡を追っていく。初めはできなくていい、徐々に慣れていけ」
半年後には死んでいるのに覚える必要はあるのだろうか。そもそも、半年でこの技術が習得出来るとは思えないな。
「ここで痕跡が途絶えている。音をたてるなよ、気づかれたら失敗だ」
痕跡がどれかなのさえ分からなかった。きっと、ゲルティが見る世界は、僕よりも様々なものが存在しているのだろう。
周りを見渡すが何もいない。ただ森が広がっているだけだ。――しかし、体が気づく。いや、何かいたと。視界に何かが一瞬映った。体が勝手にその方向を向いてしまう。
いた。確かにいた。高い草に紛れて見えにくいが、褐色を帯びた金色の体毛にフサフサとした尻尾。胸のあたりが美しく白い。初めて見た野生のキツネは、あらゆる『美』が霞むほど端麗であり、野生の力強さに溢れていた。
「いたよ、キツネ……」
聞こえるか分からないほど小さな声で、ゲルティを呼んだ。だが、ゲルティはとっくにキツネを見つけていたようだった。
「自分で捕まえろ。自分の食料は自分で捕るのだ、私は先に帰っておくぞ。教えれるのはここまでだ」
本当にゲルティは帰ってしまった。キツネは先ほどの位置からピクリとも動いていない。今ならいける。
後ろからソロリと近づくが、足音は消せなかった。それだけではないだろう、匂いや空気のゆらぎ、野生の勘かもしれない。キツネは振り向き、完全に目が合ってしまった。しかし逃げない。恐らく僕がこれ以上進めば必死で逃げるだろう。膠着状態だ。
汗が首を滴り落ちる。微塵も動けない、呼吸さえも最小限だった。ゆっくり……亀でさえ遅いと思うであろうほどの速さで一歩下がる。キツネも合わせて一歩進む。
(こいつは見極めてるんだ……。走ったとして逃げ切れる相手か、いつ逃げるべきなのか)
先に動いたのは僕だった。風を切り、キツネに向かってスライディングを繰り出す。そのまま腕を伸ばし尻尾をつかもうとする。が、キツネは体をひねり器用にかわす。
――ここまで予想通り。すぐさま足元にある石をつかむと、そのままキツネに投げつけた。足にでも当たれば動けなくなるだろう。
キツネとの距離はすでに十メートルほど離れていたが、上手く足に命中した。
キツネは足が折れたのか、勢いよくその場に倒れ込んだ。狩りというからには仕留めなければいけないのだろう。今更動物を殺すのにためらいはない。
(ゲルティが、大抵の生物は石で三回も殴れば殺せるって言っていたっけ)
先ほど投げた石を振りかざし、地面でもがいているキツネの頭に打ちつける。
一度、二度、三度。……四度、五度、六度、七度、八度。
キツネは体全体を痙攣させた後、動かなくった。あとは持ち帰れば完璧だ。
背負ってみると、思ったより重いし、足の先が地面をこすっているが、狩りを成功させたとういう満足感が勝っていた。さあ、早く帰ろう……。
――謎の焦り。たった今、何かが分かったのだけれど。分かりたくないと、脳がブレーキをかけている。
いや、体の『何処か』では分かっている。僕は、この森のことはまるきり知らないし、記憶力だって良くはない。
この問題は無視しては進めない問題だと、『何処か』が告げている。……ああ、嫌だな。
ゆっくりと、ブレーキを無理矢理に外す。
「僕は、どこから来たのだっけ?」
見渡す限りの森で、僕は迷子になってしまった。……駄目だ、陽が沈む。
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