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Tech Hunter  作者: VCB
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解体

 食糧問題、環境問題から言語の壁まで、ありとあらゆる問題は遠い未来、AIの力により解決し、人類は目まぐるしい発展を見せていた。

 辛く苦しい仕事は全てロボットに任せ、パワードスーツで若者も老人も関係なく同じスポーツが出来る時代。

 そこには人類が追い求めていたユートピアがあった。人類の終着点と言ってもいいだろう。

 そんな時代で<テリア>という街に住んでいたマキアは、戦闘ロボットが置かれている歴史館に来ていた。

 戦争の歴史とその際に使用されたロボットの変遷を辿るように時代順におかれたロボットに目を輝かせたマキアだが、とある一際古い錆だらけのロボットの前で足を止める。

 全面を覆いつくす巨大な盾を携えているロボットだ、それを見た時、マキアの目は更に輝いた。

 現代主流の反重力装置で空を浮遊する機体でも無ければ、超伝導物質により過負荷(オーバーヒート)を克服した音速を超える機体でも、どんな物体も切れる超高圧ブレードを装着している物でもない。

 |《・》()()()()()()|》《・》()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 名称プレートには〈ステラ〉と書かれ、宙に映し出された説明文には、(いにしえ)の技術だの戦争で初の使用ロボットだのロボットの祖先だの書かれており、最後に「ステラは元々、農業、林業、建設業等、人々の生活を支えるために作られた希望のロボットだった」という言葉で締めていた。

 マキアは、その現代のスマートさとはかけ離れた土臭いロボットがたまらなく好きだった。内部の構造を想像すると自然と言葉が出ていた。

「解体してぇ」

「相変わらずだな、解体屋のガキンチョ!」

「ドウマ……、頭撫でんなよ」

 そんなマキアの頭を荒く撫でる筋骨隆々の男は、マキアの兄貴分であるドウマだ。

 マキアは両親はおらず、解体を生業としている祖父に育てられていたこともあり、小さい頃から複雑な構造の物を分解することが好きだった。

 食事より解体、恋より解体。

 そんなマキアは孤立し、いじめの対象となっていた。

 偶然いじめの現場にいたドウマは、マキアがいじめっ子にスパナを向けて「お前を解体してやろうか」と不敵に笑っていたため、思わず止めてしまった。

 そんな訳の分からない出会いがファーストコンタクトだ。

 それからドウマはマキアを見かけるたびに声をかけるようにしている。マキアもドウマの人の良さ、兄貴肌な所を、表には出さないが好いていた。

「なになに? 『かつては、人々の生活を支えると期待された希望のロボット』か……、っけ! ひでぇもんだ! 結局扱う人間で戦争の道具に成り下がっちまったんだから、作った奴も報われねぇ!」

 そうドウマが吐き捨てるとステラが反論する。

「希望だなんて、そんな大層な理由すらも周りの人間が勝手に言ってるだけだ。俺には分かる、これを作った人は只々ロボットが好きだっただけだ」

「そんなもんなのかねぇ……なぁ解体屋のガキンチョ。お前解体以外にも興味あるのか?」

「あ? まぁ、作れるなら作ってみたいとは思うが、スクラップよりクリエイトのほうが圧倒的に金がかかるからな、俺にはスクラップしか出来ねぇのが現状だな」

 その言葉を聞いたドウマは、少し間をおいて口を開いた。

「もしお前が将来、何かを作った時ステラ(こいつ)みたいに希望だったって、言われないよう俺がなんとかしてやるよ。約束だ」

 ドウマは小指を差し出す。しかしマキアは淡々と言った。

「別に俺は望んでないけどな」

「って、おい! 冷たい奴だなぁ……。まぁいい! じゃあこれは俺が勝手に宣言した独り言だ。お前の作った物を誰一人として否定させやしねぇ、誰一人として不幸な物だったと言わせやしねぇ!」

 宣言したドウマは胸をドンと叩いた、その時だった。



――激しい爆音と同時に建物が吹き飛ばされた。




「ん……、ここはどこだ?」

 いつの間にか気絶していたマキアが目を覚ます。

「……なんだこれは……」

 掠れた視界で周囲を見渡す。

 歴史館にいた人々は瓦礫に潰されており、あたり一面は血の海と化していた。

 爆風で偶然ステラの巨大な盾の中に飛ばされたマキアは無事だったようだ。

 瓦礫の間を抜けて、屋外に出たマキアは、何か髪の毛を焼いているような鼻を劈く臭いに咳込みならがも、その光景を見て驚愕する。

 やけに赤い夕暮れが、街を照らす。

 死んで焼けている人。何かから逃げ惑う人々。

 建物は破壊され、一面火の海と化していた。


――グ、グモアアァアア


「なんだありゃ……、生き物か……?」

 そんな地獄の中で、十数メートルの巨大生物を、現行型の無人戦闘ロボット〈リゲル〉が取り囲んでいる様子が目に入る。

 囲まれている巨大生物は、しっとりとした白い皮膚で覆われている裸の人のような造形だ。

 巨大生物を取り囲んだ数機のリゲルは、一斉に超電磁砲(レールガン)を浴びせるが、攻撃はホログラムといった実態の無い物に攻撃しているかのようにすり抜ける。


――まるでそこに存在していない幽霊だ


 そんな感覚を覚えるほど、実体感が沸かない巨大生物だが、次の瞬間、口を大きく開けるとレーザーを放ち、数機のリゲルを薙ぎ払う。

 威力が桁違いだ。奥のビルまで分断されている。

 次に一体のリゲルが超高圧ブレードで切りつけるが、今度は透過させずブレードを手で受け止めると、触れたブレートとリゲルの機体が溶解しだした。

「!?」

 鋼鉄を即座に溶かす技術なんて確率されていない。

 マキアはその光景に釘付けになっていた。

 その後、国の最高技術の結晶であるリゲルはいとも簡単に全滅した。


「白い悪魔……いや、あれは生き物じゃない……? なんなんだ? 気になるじゃねぇか」


 観察眼が鋭いマキアは、その白い悪魔に息遣いはなく、鼓動の動きもなく、生物ではない人工物だと推察する。

 マキアは逃げる人々の波を逆行するように、白い悪魔へと歩みを進める。

 飛び石が飛んできて頭から血を流しても、まるで心ここにあらず、ひらすらに観察を続けた。

「生き物でないならなんだ? 超電磁砲も高圧ブレードも擦り抜ける……、原子擦り抜け? それなら巨大なエネルギーが必要だ、何で動いている? 到底今の技術では再現不可能だ……。未来から来た侵略者? いや、そんなファンタジーがあるか、となると古代兵器……? あぁもう、何でもいい! 生物でないならそれはロボットだ。こんな高性能なロボットなら

 ――解体してみてぇ」

「逃げろ馬鹿野郎!」

 ドウマは集中していてビルから落ちる瓦礫に気づかないマキアを、危機一髪の所で助ける。

「こんな時まで機械バカしてんじゃねぇ! 逃げるぞ!」

 そのままマキアを抱き上げると、ひたすら走った。逃げまくった。

「ちょっと待てドウマ! 何か来てんぞ!」

「あぁ!?」

 振り返ると、空には大きなコンテナをぶら下げた空中船。

 その空中船を確認した白い悪魔は破壊行動を止め、空へ飛ぶとコンテナの中へと自ら入っていった。


「帰っていきやがった……」


 そのまま夕日に消えて行く空中船を二人は呆然と見ていた。


――その日、たった一体の白い悪魔の手によって人類の平和は脅かされた




「あぁ! 今日も空を巡回してやがる! このままじゃ、食うもんがねぇじゃねぇか!」


 あれから二年が立った。

 毎日のように地上に降り立つ白い悪魔は、全てを更地にする勢いで破壊行動に尽くすと、更に人々を絶望へと陥れるかのように巡回を始めていた。

 見つかった物は例外なく殺されている。

 地上に居場所を失った人々は、有事の際に作ら得た地下避難施設で生活せざる負えなかった。

 暗くなると空中船に乗って帰る白い悪魔、その夜から次の日の日の出までの間に食料を確保していたのだが、限られた行動範囲での食糧は大方取り尽くしてしまい、皆が飢えに苦しんでいた。

 更に医療体制も不十分、病気は命取りだった。


「なぁ、どこにもマキアがいないんだが、あいつがどこいったか知っているか?」

「奴なら外に調査とか言って出てやがるよ。それに、こんな事態でも何かを作ってやがる。外に出るなら缶詰の一つでも持ってきてほしいくらいだ」

「今はあいつの作る物に頼るしかねぇ。すまねぇが、自由にさせてやってくれないか?」

 マキアは白い悪魔を倒すと豪語して、ここ二年ずっと何かを作っている。それなのに飯は食うが食料は取りにいかない、地下の人々の不満は溜まっていく一方だった。

「ドウマさんはマキアを信じすぎている、たかが解体屋の孫が何が出来るっていうんだ!」

「そうよ、何年あのガキを食わせたと思っているの!? もう食糧を食いつぶすだけのガキをおもりする余裕はないのよ!?」

「そうだ! あいつを追い出せ!」

 余裕の無くなった人々は、少しでも生き残ろうと数を減らそうとしていた。

 限界も限界だった。


「……もううんざりだ。ドウマさん、あんたには助けて貰った恩はあるけど、我慢ならねぇ! あのガキを引っ張り出してやる!」


 その言葉を聞いたドウマは、腰にかけていた袋から数個のレーションを取り出して、床に置く。

「とりあえず俺の分の食料だ、それを食って静めてくれないか」

 ドウマも食事だってとれていない。空腹で腹が背中につきそうだ。すぐにでもレーションを食べたかったはずだ。

 しかし、自らが餓死するかもしれない状況でもマキアを信じていた。


「ド、ドウマさん……、あんただってフラフラじゃないか」

「俺が不甲斐ないせいだ、苦しい思いをさせちまっている。すまねぇ」


 それどころか、ドウマは地面に頭をつけて、懇願を始める。


「今は、今はあいつを信じてやってくれ……」

「なんであんなガキを庇うんだ……」

「俺は宣言したんだ、あいつの作るものを不幸な物と言わせねぇと……」


 顔を上げたドウマの飢えた野獣のような眼光に人々は狼狽した。

 絶対に折れないという信念が、邪魔をするなら食い殺されるという執念が伝わる目。

 人々はドウマに気おされて言葉を飲んだ。


「あ、あぁ……、そこまで言うなら……」

「ありがとうございます」


 ドウマは力が抜けたように、どさっと地面に倒れ込む。

 この数年間、白い悪魔が地に降りてこないタイミングを狙い、何か部品をコツコツと集めていた事を知っている。

「もうすぐなんだろ……? ガキン……チョ…………」

 気絶するように眠りについたドウマは夢を見ていた。

 あの惨劇の日の事だ。

 家族が殺され、仲間が殺され、絶望に打ちひしがれて、いっそ死のうとして白い悪魔へと近づいた時に見た、マキアの目。

 何かを掴み取ろうとしている希望に満ちた目。


「なんで、あいつはこんな時でも、こんな目が出来るんだ……」


 それは歴史館でステラを見ていた目、そのものだ。

 普通の子供が興味ある玩具を見ているかのように、パレードに夢中なように、無邪気な目。


――「解体してぇ」


 その言葉を聞いた時、ドウマの絶望は吹っ飛んだ。

 青天の如く、心が晴れた。

 暗闇の中から、一筋の光が差した気がした。



――こいつは絶対に白い悪魔を討ち滅ぼせる




「――、おい」

「――起きろ、ドウマ」

「――――ドウマ!」


「はっ! 夢か……」


 目を覚ますと、目の前には油汚れまみれのマキアがいた。

 夢で見たマキアとは違い、随分と頬がこけて、腕も骨が浮き出ている。


――だが、希望に満ちた双眸は夢の時のままだ


 マキアはドウマの目を見ると不敵に笑みを浮かべて言った。


「クク、まだ目が死んでねぇ奴がいるじゃねぇか。ドウマ、手伝え――反撃の狼煙をあげるぞ」




「これ……、ステラじゃねぇか」

 マキアは一つのロボットを完成させていた。

 それは歴史館で見たステラにそっくりなロボットだったが、武器も盾も何も携えていない丸腰のロボットだった。

「専門職じゃねぇんだ、現代の電子制御マシマシのロボットなんて作れるわけねーだろ。限られた素材だとステラと同等か、それ以下のロボットしか作れねーって」

「ステラレベルって……、数百年前の技術じゃねぇか」

「あぁ、旧技術で新技術を討つ。確率は薄いが勝てない話じゃない。クハハ、まぁギャンブルみてーなもんだな」

「ギャンブルって……、いや、ギャンブルでも勝てる可能性がある分ましか、作戦を聞かせてくれ」

「あぁ、まずだな――」


 作戦を聞いたドウマは、思わず声を漏らした。

 武器も盾も使わない丸腰での作戦だ。

 本当に勝てるのかさえ、想像もつかない作戦だ。

 だからドウマは単純明快な質問をした。


「一つ聞くぜガキンチョ。その作戦で勝てるんだな?」

「俺の推測が正しければ勝てる。クク、ダメな時は一緒にあの世行きなだけだ。さぁどうする?」

「その言葉さえ聞ければ充分だ! 勿論やるに決まっている!」


 目配せした二人がハイタッチして鳴り響いた音は、反撃のゴングだ。


「それより、このロボットの名前はなんていうんだ?」

 ふと、ドウマはマキアに聞く。

「名前なんて意味あるか? 俺はロボ太郎とかでも全然いいけど……」

「お前なぁ……、もし成功したら歴史の教科書に載るかもしれないんだぞ。ロボ太郎って……」

 そのへんてこな名前を聞いて嘆息したドウマは、顎に手をあてて考える。

「そうだな、エアレンデルとかどうだ?」

「エアレンデル? なんかの名前か?」

「観測出来る最も遠い星だ。最も遠い星の光ってことは、一番最初に産まれた星ってことだろ? 最初に道を切り開こうとしてる今の状況にぴったりじゃねぇか」

「クハハ、ドウマが星の名前を知ってるなんて、随分とロマンチストじゃないか」

「う、うるせぇ!」

 ドウマは柄になく恥ずかしそうに頬書いた。

 だが、一番遠い話なんて、そんな話はとってつけた理由に過ぎなかった。

 本当の理由は恥ずかしくて言えなかっただけだった。

 マキアの作戦を聞いた時、遠くに微かだが希望の光が見えた気がした。その時に思い出した、この星の意味を。

 ――昇りくる光



 時間は夕暮れの少し前、エアレンデルに乗り込んだマキアは白い悪魔にばれないように、地面の窪みに身を潜めると、無線機に声を発した。

『聞こえるかドウマ? こっちは始めるぞ』

『こっちも準備出来ているぞ』

『じゃあ作戦を開始する』

 その返事を聞いたマキアは白い悪魔に向けて姿を現す。

 白い悪魔はその機体を確認すると、すぐさま敵とみなし咆哮する。


――グ、モアアァアア


「こいよ悪魔」


 早速白い悪魔は、口を大きく開き、レーザーでエアレンデルを打ち抜こうとするが、


「おっと、その攻撃は予習済みなんだよ」


 口からレーザーを放出するという予備動作を知っていたマキアは、口の向きからレーザーの方向を推測し、紙一重で避ける。

 エアレンデルの動きを見た、白い悪魔はレーザーでの迎撃を諦めたのか、距離を詰めて直接攻撃することに切り替える。

「きやがったな……!」

 その瞬間、マキアは唯一仕掛けてあったオーグメンターを起動する。

 すると両脚部から出てきたのは、クロスホイール。

 輪の中で高速で回るモータープロペラがジャイロ効果で機体のバランスを取り、移動を円滑にするための補助機構だ。

 しかし、ただのクロスホイールじゃない、異様に大きい、更に通常であれば一個だがエアレンデルの両脚には二個ずつ、計四個ついていた。

 クロスホイールが降りきると背中の噴射口から蒼い炎が急激に噴射される。


「超電磁技術を使った移動方法が主流の今、ジェットエンジンなんて化石だろ?」


 エアレンデルが立っている場所は、直線状に続く幹線道路の真ん中だ。そして幹線道路の数キロ先には地下施設がある。

 マキアの目標地点は地下施設だった。


「さぁ、新と旧の『鬼ごっこ』の開始だ」


 操縦桿を思いっきり倒すと、急速に動き出したエアレンデル。

 音速にも近い速度で地面を滑走するエアレンデルは白い悪魔と距離を一気に離す。


――ギ、ギアアアァ!


 白い悪魔は再び咆哮をあげると、踏み込むたびに地面が爆発するかのような音を立てながらエアレンデルを追いかけてくる。


「おいおい、パワーでゴリ押しかよ」


 直線状の道路を高速滑走するエアレンデル。散らばった瓦礫片を巻き込んだクロスホイールが一本、また一本と死へのカウントダウンを数えるように壊れてゆく。

 初めて白い悪魔が降り立ったあの日のリゲルのように、白い悪魔が触れた瞬間に溶解されてしまうのだろう。


「っぐ……! 最後の一本も逝ったか、まぁ素人作製にしちゃ上出来だ」


 次第に距離は詰められて、既にエアレンデルと白い悪魔との距離は後百メートル程度の所だった、エアレンデルのクロスホイールの最後の一本も壊れてしまい、推進力を活かす機構は無くなった。

 高速移動の慣性を受け止めきれないエアレンデルの脚部はもげてしまい、マキアが乗っているコックピット部の上半機構部分が地面に転がる。

 数メートル先に迫る白い悪魔から触れられてゲームセット。

 鬼ごっこの勝敗は誰が見ても圧倒的だった。

 

――だが、そんな状況とは裏腹にマキアは勝ちを確信していた


「ククク、なんとか目的地までついたな。良く聞いとけ白い悪魔、実はな、この鬼ごっこの鬼役は

――エアレンデルのほうだ」


 瞬間、あちこちで爆発が起こり地鳴りが響くと、地面が――崩壊する。


「さぁ、鬼ごっこは疲れただろう? もうすぐ暗くなる。おねんねの時間だぜ」



「白い悪魔のエネルギー源は太陽光だぁ!?」

 マキアの作戦の冒頭を聞いたドウマは声を荒げる。

「っつぁー、うるせぇ……。かもしれねぇって言ってるだろ、少なくとも、そうとしか考えられねぇんだよ」

 白い悪魔の規則的なルールをマキアは見抜いていた。毎日、日の当たる日中でしか行動していないことだ。

「おかしいと思った事無いのかよ。毎日毎日、朝来て夕方には帰っていく規則正しい生活いい子ちゃんのあいつをよ」

「確かに……」

 マキアが言うには太陽光をエネルギー源としており、多少の雲間でも動けるように少し動力源を貯めるバッテリー的な機能部があるのではないかと言う。

「毎日充電か何かに帰っていくのかと思ってたわ……、でもそれが分かった所でどうするんだ?」

「簡単だ。一、バッテリーを空にさせる。二、太陽光自家供給モードにする。三、大きな穴に落とす。四、上から遮光シートを被せてエネルギー源を断つ。以上、簡単だろ?」

「簡単って……、だから、それをどうするんだって……、大穴なんて今から掘る人手もねぇんだぞ? 今の状況分かってんのか?」

「何言ってんだ。あるじゃねーか大穴」

「だからどこに……」

 するとマキアは何を今更当たり前の事を言っているかと言わんばかりの飄々とした顔で、上に指を差して言った。

「クハハ、この地下避難施設を爆破でぽっかり穴あければいいだけじゃねぇか」

「…………あ? いやいやいや! そんな事したら住民は何処に住めばいいんだよ!」

「何言ってんだ? 今までみたいに地上に決まってんだろ」

「――あ……」

 ドウマはその言葉に虚を突かれた。

 白い悪魔に脅かされる生活に慣れすぎて、地上で生きるというイメージが無くなっていたことに気づいたのだ。

「……ッ! フンッ!」


 ドウマは最初から気持ちが負けている自分に悔しさを覚え、自分の頬を力強く叩いた。

 気合を入れなおしたのだ。

 頬に赤い手形がついているドウマの顔を見たマキアが訝しげに言った。


「急にどうした、ついに気が狂ったのか?」

「いいや、逆だ。今まで気がおかしくなってたのは俺の方だ、目を覚ましてくれてありがとよ。さぁ、細かい作戦を聞かせてくれ」


 そう、あの時から変わっちゃいないのはマキアだけだ。

 だから、俺のように気が狂っちまった他の奴らの目を覚まさせる必要がある。


――その役目は、俺の役目だ。


「皆、今だ! 爆破しろ!」


 その合図で地上にいた皆が、爆弾の導火線に火をつけた。

 少し遠くには上半身機構部だけとなったエアレンデルと、とどめを刺そうとしている白い悪魔。

 爆破連鎖で地下施設に大量に仕込んでおいた爆薬にも火が回ったようで、地面は大きな砂埃を舞い上げ、崩壊を始めた。

 白い悪魔は大穴と化した地下施設に滑り落ちる。

 が、白い悪魔は空を飛べる。こんな落とし穴は意味がない。

「あぁ、飛べる事は知っていたさ。こっちは毎日空で巡回しているお前を見ていたからな……、だけどよ、今の状況でも飛べるか?」


――グギアァ!?


 白い悪魔は自らの身体に無数の針ワイヤーが刺さって上手く飛べないことに驚きの悲鳴を上げる。


「いつものお前なら幽霊みてぇに透化して、そんなチンケなワイヤーくらいどうってことなかったか?」


 白い悪魔は先のマキアとの鬼ごっこでバッテリー残量も使い果たした。それだけじゃない、爆発して舞っている砂埃は()()()()()じゃない。


「はは、まるで夜みてぇだ」


 白い悪魔を囲む周囲一帯は、嵐前の雲のような薄暗い煙で覆われていた。

――マキア特製、微粒子拡散爆弾。

 元々は環境保全の一環で砂漠等で太陽光を遮る手法として人口雲として採用された技術だ。

 たかが太陽光を遮る方法。だが白い悪魔にとっては致命傷だった。


――グモアアアアアアアア


 飛ぶに周囲の雲でエネルギー供給が無いから飛べない。

 ワイヤーを切るためのエネルギーすら無い。

 必死に足搔こうとするが、羽を一本もがれた虫のように蛇行下降して次第に大穴に吸い込まれる。


「そこで永遠に寝てろ」


 同時にロケットが発射され。ロケットに括り付けられた黒い布が大穴を塞いだ。

 遮光布だ。


――ギ、ギ………ア


 白い悪魔はは一ミリも太陽光が刺さない箇所で、マキアの読み通りエネルギー源が無くなり、完璧に機能が停止する。


「……やった」

「やったぞおおおおおお!」


 地下の人々の歓声が地上に響いた。

 地上の奪還の成功。二度と戻ってくるはずがないと諦めていた物を手に入れ、皆は涙を流した。

 そして、一人がドウマに言った。


「ありがとう……、ドウマさんが何度も何度も、諦めるなって皆を鼓舞してくれたおかげだ、あの時にこの作戦を諦めていたら、こんな光景は見れなかった」

「そうだ、ありがとうドウマさん……」

「礼なら俺じゃない。ドウマを助け出してから直接言うんだ」

「あぁ勿論だ! あの子を助けだそう!」


 


 暗闇の中、ドウマ達は、瓦礫の中からエアレンデルを探していた。

 瓦礫を掴み手の皮は剥け血が垂れている。瓦礫から転げ落ちて骨にヒビだって入っているだろう満身創痍の身体を無理矢理動かす。

 もう探し始めて二日目だ。


「あいつは絶対に生きてる……!」


 自分に言い聞かせているようにも思えた。

 そんな時だった。地面から微かに人の声が聞こえる。


「――ってことは、――だな」


 声は間違いなくマキアのものだった。


「マ、マキア!? そこにいるのか! 今助けてやる!」


 ドウマ達は声のしたほうの瓦礫をどけると、エアレンデルは所々ひしゃげながらも、無事に残存していた。

 エアレンデルのハッチをバールで無理矢理開ける。


「マキア、無事か!?」


 そこにはまるで部屋のベッドに横たわり何か考えにふけっていたように、顎に手をあてて何か考えているマキアがいた。

 急に何かを思いついたマキアは大声をあげた。


「そうか! その手があったのか!」

「え…………マキア?」

「クハハ、ドウマ、さっきの鬼ごっこで白い悪魔の正体が分かったかもしれねぇぞ」

「へ?」


 突拍子もない言葉に啞然としているドウマ達に、マキアは不敵に笑みを見せて言った。


――「手伝え、解体の時間だ」





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