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23/66

23.婚約者の様子が少しおかしいようです


(すごい雨……)


土砂降りの雨と、轟音のような雷鳴の音に目が覚める。

視線を窓に向ける。時折空が光り、続いて雷鳴の音。


(この様子じゃ明日の出立は難しいかしら……)


山は天気が崩れやすいとはよく聞くが、本当だったとは。

私はため息を吐いて、起き上がった。

なんだか、妙に目が冴えてしまった。

この調子では、再び眠ることは難しいだろう。


(もうこの時間ならみんな眠っているだろうし……)


なにか飲み物が欲しかったが、この時間だ。

誰も起きているとは思えないし、直接厨房に向かうしかないだろう。


手探りでサイドテーブルの上の燭台を探し、火をつける。

雷のおかげで、真っ暗闇というわけではないのでそれには助かったが、それにしても突然落ちる雷は、心臓に悪い。

雷鳴の音が響く度にドキドキしながら、燭台を手に取った。


昨夜の夕食は、とても豪勢だった。

久しぶりに私が訪れたためか、盛大なもてなしを受けたのだ。

リベルア邸は、公爵邸と違って、騎士の数は少ないが、私はかえって気が楽だった。


公爵邸は、至るところに私兵が配備されている。

安全面から言えばこれ以上ないほどなのだが、その反面、プライベートな空間は自室のみ。

その自室も、眠る時までメイドが付きっきりなのだ。

ひとりになれる時はほとんどない。

そのため、公爵邸に比べると人気の少ないザックスの家は、普段より気が楽だった。


とはいえ、真夜中だとさすがに心細い。

私は恐る恐る、ベッドから足を下ろした。

靴を履いて、ガウンを手に取ると、上に羽織る。

部屋を出ても問題ない格好であることを確認してから、私はゆっくりと扉に向かった。


強い雨音が窓の外から聞こえ、室内にはこつこつと、靴の音が響く。

そのまま、扉の鍵を下ろそうとした時だった。


こんこんこん、と扉がノックされて、文字通り私は固まった。


(え、ええ……?こんな時間に、誰……?)


ちらりと、窓辺に置かれた水時計を確認する。

雨が降ったせいで、いまいち判断が付きにくいが、それでも結構な量が減っているように見えた。

ということは、もうとっくに夜半時であり、深夜真っ只中だ。

そんな時間に、一体誰が訪ねてくるというのだろうか。

戸惑った私が動く前に、扉の向こうから声が聞こえてきた。


「シドローネ?私です。ヴェリュアンです」


「ヴェリュアン?どうしたのですか?こんな時間に」


急いで扉の鍵を外すと、扉の向こうには、やはり彼がいた。

しかし、その手に燭台はない。

この暗闇の中、明かりもつけずにこの部屋までやってきたのか。

私は戸惑いながらも、彼に言った。


「何かあったのですか?」


彼は、肩にローブをかけただけの姿だった。

その下は、寝着だ。

騎士の彼がそんな格好で私の元まで来るということは、不測の事態が起きたということだろうか。

狼狽える私に、彼が苦笑する。


「起きていてよかった。もしかして、起こしてしまいましたか」


「いえ、そんなことは……。ちょうど、喉が渇いたところだったのです。部屋にある水差しは全て飲みきってしまって」


「そうだったんですね。では、私がお供します」


「あ、ありがとうございます。でも、ヴェリュアンはどうして……?」


彼が、私の手から燭台を受け取る。

三灯の枝付き(ジランドール)燭台が、廊下に濃い影を落とす。

彼を見上げると、長いまつ毛が頬に影を落としていることに気が付いた。

彼はまつ毛を伏せていたが、やがて私を見た。

その瞳が、いつもと違うように見えてほんの少し、どきりとする。

その動揺の正体が掴めないまま、困惑していると彼がまた、苦笑した。


「……少し、報告があります。あと、今夜」


彼は、そこで言葉を区切った。

静かな廊下に、彼と私の声だけが響く。


「あなたと一緒に寝ても、良いでしょうか」

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