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テアトルム  作者: 灰呶ゆう
魔物の楽園編
7/21

第六話 悪夢

風によってブラインドがカラカラと音を立てる。

窓とブラインドの隙間から光が差し込んだ。

日差しを浴びてボーっとしていた頭が鮮明になった。


「…お前はどう思う?」


声が聞こえる。


「えっ?」


反射的に聞き返す。


「だからさぁ〜今週の魔女っ子にゃるマンどうだったって聞いてるんだよ〜」


僕は椅子に座っており、メガネをかけた青年が僕の肩を掴んで話しかけてきた。

周囲にはプラモデルやアイドルのタペストリーなんかが飾られており目の前にはPCが置いてある。

図書室の一角にあり、周りを本棚や机などで囲っただけの簡易的な部屋。

紛れも無く、僕が高校で入っていた部活の部室である。

そして、目の前の青年にも見覚えがあった。

青年の名前は和田勝わだまさるという。

同じ部活のやつで身長は170近い。


「なぁ…今日って何日?」


俺は真顔で尋ねる。


「今日?今日は5月17日だけど…それがどうかした?」


少し困惑しながらも返答する。


「いや…別になんでもない。それから、にゃルマンは観たことねぇよ!」


「マジかよ。お前〜」


和田は、俺の肩を揺さぶると、漫画を取りに書庫へと行ってしまった。


(さっきまでモメント橋のところで、ダルムスさんと戦ってたはずなんだけどな…それに、5月17日って俺の死んだ日の1週間前じゃないか…)


ため息を吐く。

僕の頭の中に1つの疑問が浮かぶ。


「ごめん!俺帰るわ!!」


俺は書庫に向かって、そう叫ぶと階段を下りて外へ出た。

向かう先は美咲が居るはずの二年D組である。

階段を駆け上り3階まで行く。

教室の扉を開けた。

扉に手をかけ息を切らしながら声をかける。


「なぁ!美咲っている?」


教室に入って尋ねた。

教室に居た女子の1人が答える。


「どうしたの?急に…」


「いやさ、美咲に用があんだけど」


「えっと…美咲?誰のこと?」


「え?何言ってんだよ…出席番号19番!園崎美咲だよ!!」


「ごめん!ほんとに誰の事だか分からない。もしかして他のクラスじゃないかな」


周りを見渡すが美咲の姿は無い。

先ほど感じた疑問。

『美咲とは本当に人間だったのか』

今になって思えば、()()()()()()()()()()

だが、記憶としては確かに居た。

何が言いたいのか自分でも分からない。

ただ、この身体に染み込んでいる日常という感覚では美咲という存在を認知していなかった。

前はあった感覚。

どうしても、その感覚の違いが違和感という形で脳裏に強く刻まれる。

頭の中を少しずつ整理していく。


「まさか…」


嫌な予感がして教卓に置いてある座席表を見る。

そこに園崎美咲という名前は書かれておらず。

美咲の居た席は空席となっていた。


(やっぱりだ。今までの出来事は、全てまやかしだったのか?)


教室を出て階段を駆け下りる。

訳が分からないまま自分が死んだ公園へと向かった。

あの時は暗くて分からなかったが、ベンチや街灯といった物ばかりで遊具などは一つとして無かった。

正面にあるベンチの裏には、大きな木が生えており根元には何かを掘り返したような跡がある。

軽く掘ってみる。

何かは理解できないが、何かのカケラが沢山出てきた。

手に取ってみると少し動いており、言葉にならないおぞましさを感じた。


「なんだ…これって…じゃあ…もしかして……」


カケラを調べていると、背後からキィンキィンと金属音が聞こえてくる。

後ろを振り向く。

そこには、刀のようなモノを左右に持つ黒い物体が漂っていた。

黒い物体は次から次へと形状を変えている。

人のようになったり球体になったり時には煙のようにもなる。

なぜか分からないが、刀は宙に浮いていて黒い物体の周りを回っている。

黒い物体がこちらに近づいた。

黒い物体の下には首から上が無くなった死体が転がっている。


(えっ…嘘っ…あれって…)



あの首の無い死体は自分のものだと。

斬られた後、首から上が落下するよりも早くに胴体を持って行かれたのだと…瞬時に理解させられた。

そのまま頭が落下し、グチャッ!と音を立てる。

その音を最後に意識が途切れた。



ーーーーーーーーーー



目が覚める。


滝のように汗が流れ出ている。

目を擦ると手に水滴が付いた。


(なにか怖い夢を見た気がするけど...思い出せない...)


なぜか分からないが吐き気が止まらない。


「うぅ…ここは…どこだ?」


辺りを見回すと白い壁に木製の床、ベッドが6つある部屋で奥には治療室のような部屋あり緑色の光が差し込んでいる。

奥の治療室らしき場所からドタドタと足音が聞こえてくる。


「あれっ?起きたんだ」


声のする方を見ると、赤みがかった茶髪にメガネをかけて白衣を着た20代ほどの女性が立っていた。


「スキルで治したんだけど、胸部の損傷が激しかったから違和感が残るかも」


「あの…どちら様で…」


「ん…?ああ!そっかそっか。私はモメント橋専属の回復術師ヒーラー、カナン・シンドラーナだよ」


「シンドラーナ?」


首を傾げながら聞き返す。


「私ね、ダルムス所長の娘なんだ。親子で橋に勤めてるってワケさ。回復術師ヒーラーはスキルや魔法を使って傷を治したり呪いの解呪も行うんだけど、レブドープ樹海は呪いを扱う魔物もいるから回復術師ヒーラーは必須なの」


カナンは得意げに話した。


バンッ!と大きな音を立てて扉が開く。


「ベル!」


そこには息を切らしたソフィアが立っていた。


「よかったー!起きたんだね!」


どうやら心配してくれていたらしく、ソフィアの顔から笑みがこぼれた。


「体はもう平気?」


「平気だよ。違和感も特に無いし」


「まぁ、当然だな私が治したのだから」


ここぞとばかりにカナンが話に混ざってきた。


「そういえば、カナンさん、先ほど言ってたスキルで治したってどういうことですか?」


「んー?それはね、私のスキル『治癒天使(ヒーリングエンジェル)』を使ったってことだよ。治癒天使(ヒーリングエンジェル)は対象の体を細胞レベルで超回復させられて、別のスキルで『超回復ちょうかいふく』ってのもあるんだけど、他者に使えるのは治癒天使(ヒーリングエンジェル)だけなの。それにAランクのスキルってこともあって治るのも早いんだよ」


「Aランク...?スキルにもランクがあるんですか?」


「あれ?もしかして知らなかった?スキルや魔法は性能や威力の高さでE~Sまでのランクに別けられるんだよ」


その話にソフィアも混ざる。


「ちなみに、私がやってる冒険者にもランクがあってF~SSランクまであるよ。後は魔物も強さによってF~SSSランクまである」


「なるほどね、ところでソフィアはAランクって言ってたけどSランク以上にはなれないの?」


「ランクはそう簡単に上がらないし、Sランク以上は依頼の危険度の高さから2人以上でパーティー組まないとなれないんだよ。私はソロだからなれないの」


ソフィアはニコッと笑いった。


「さて!お話はこれくらいにして行こうか」


ソフィアが手をパンッと叩いてそう言った。


「どこに?」


「どこにって、レブドープ樹海だよ。ベルがダルムス所長に勝ってくれたお陰で、橋の(ゲート)を開けてくれるそうだよ」


カナンに言われる。


「取りあえず服がボロボロだから好きなのに着替えなよ」


カナンは服を持ってきて、服を机の上に並べた。


(お坊っちゃまみたいな服で嫌だったしちょうど良いな)


「じゃ、これで」


1つの服を指差した。


「それね、わかったわ」


上着にポケットが2つ付いていて、お腹の辺りをベルトで縛っている。

上半身は銀色のチェストプレートと青い生地がよく目立つ服で、下半身は薄い黄土色といった感じのズボンに茶色いブーツのザ・冒険者という感じの服である。


「おぉ!似合ってるじゃねぇか」


後ろから突然声をかけられビクッとする。


「なんだよ!そんなに驚くこたぁねぇじゃねぇか」


「お父さん...なんでここに?」


そこには豪快に笑うダルムスの姿があった。


「いやぁ、()()の持ってるショートソードだけじゃ、いささか頼りないからな。新しいのをやろう」


上機嫌でそう言ってきた。


「お前は剣士なんだろ?どっちか好きな方を選んで良いぞ」


(呼ばれ方がいつの間にか、ガキからベルに変わってるな)


僕はそんなことを思った。


ダルムスは剣と刀を両手に持ち見せてくる。


「右手に持ってるのが一般的な剣だ。左手に持っているのは刀と呼ばれる剣で、東の大陸で使われているそうだ。使い慣れているのは剣だろう?」


「それなら…刀をください」


「良いのか?」


「こっちの方が好きなんですよ」


少し懐かしむように微笑する。

僕はダルムスから刀を受け取った。


ソフィア達と外へ出る。

外はまだ明るく、15時頃だろうか。


「ダルムス所長も付いてくるんですか?」


ソフィアが尋ねる。


「橋の終わりまでは俺も行く。念のためにな」


ソフィアはふーんっと素っ気ない態度をとった。


「はぁ…お腹空いたな...」


僕の口から声が漏れ出た。


(森の中でパン食っただけなんだよなぁ)


「ソフィアって、お腹空いてないの?」


「私?私はベルが寝てる間に食べてたから大丈夫だよ」


「えっ?酷くない?」


「そんなこと言ったって怪我人を無理に起こすわけにはいかなかったし」


「ハハハハハ!それはしょうがないな!」


ダルムスの笑い声が橋の上で響き渡る。


「飯なら戻ってから、たらふく食えば良い」


そんな他愛のない話をしながら歩くこと数十分。

空に森とは関係の無い魔物が居たが、ソフィアとダルムスに秒殺されていた。

そして、橋の終わりに着いた。


「よし!俺はここでお別れだ。まぁなんだ、健闘を祈る」


ダルムスは手を後ろにヒラヒラと揺らしながら帰っていった。


いよいよ魔物の楽園と呼ばれるレブドープ樹海に入る。


「さぁ!ベル!気を引き締めて行くよ!!」


ソフィアの声色から、やる気の大きさが伺えた。

森は妙な霧がかっており、木々や岩の影に気配を感じる。

恐らく魔物達が隠れているのだろう。

近づいても襲ってくるどころか気配が遠ざかっているのは、霧のせいではなく、僕の隣を歩くソフィアから立ち上る黄緑色の魔力が強大な存在感を出していたからだろう。

ソフィアにしてみれば、魔力を制限せず何処から敵がきても対象出来るように臨戦態勢になっていただけ。

しかし、この世界に生まれて日の浅い僕でさえ強さが分かり、目に見えるほどの高密度な魔力は見るもの全てを畏怖させるのであった。


「みんな逃げていくね」


ソフィアに言ってみた。


「まぁ、この辺に居るのはゴブリンばかりで大したことないしね。ただ、変異種だと平気で襲ってくるよ。どこか生物としてのタガが外れているのがほとんどだからね」


悪路を進み続ける。

2人は変異種に襲われたであろう、ディアメルク商会の馬車を目指して歩いていた。

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