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テアトルム  作者: 灰呶ゆう
魔物の楽園編
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第四話 橋の上の猛者

どうしてこんなことになった?

朝日を見ながらそのようなことを思った。

レブドープ樹海の奥地にそびえる、ナルティスと呼ばれる全長100mほどの大樹の上。

下を見るとゴブリンやオークといった魔物達がウヨウヨしている。


「あっ!!」


強風に煽られ最後の食糧が落ちてしまった。

いよいよ絶望的である。


「このまま餓死するのも時間の問題か…」


ボソッとそう言うと仰向けになり手を空に向かって突き出す。

空は雲ひとつない快晴であった。

絶望感があるものの、どこか落ち着きがあった。

なぜなら、彼女の頭の片隅にはソフィアが助けに来てくれるという確信に近いものがあったから。




ーーーーーーーーーー




左右を崖に覆われた道で1人の女がう〜んっと唸る。

隣を流れる川の音がザァーと聞こえる。


「なんで私が嵐の星(ニンブスアストルム)と呼ばれているかかぁ〜。少し長くなるんだけど…いい?」


ソフィアが少し考えるようにして話し始める。


「え〜とっね、そもそも一般的に魔力があればどんな魔法でも使うことが出来るんだけど、稀に一つの属性に特化していて他の属性の魔法が使えない人が居るんだよ。その人達は一つの属性しか使えない代わりに膨大な魔力を持っていて、その中でも特に魔力の質が高い魔法使いは、冒険者や魔法師団のような組織とは別に『テアトルム』と呼ばれる機関に()()()に所属しないといけないんだよ。それで、私もテアトルムに所属してる」


「テアトルム…?」


(テアトルムってラテン語で劇場って意味だっけ?)


そのようなことを考えながら少し空を見上げる。

ソフィアが話を続ける。


「テアトルムは12人で構成されていて、それぞれ闇・光・火・水・風・土・空・木・雷・爆・氷・毒の属性に分かれている。誰がどの属性かを分かりやすくするために属性に関係する称号を与えられるんだけど、私の場合は風属性だから嵐の星(ニンブスアストルム)の称号を与えられたんだ」


ソフィアは少し得意げな顔をして説明を終えた。


「すごい人だったんだね!ただ…魔法とか属性とかっていうのがよく分からないんだけど」


わからないことは素直に聞いておく。


「うーんとね、人の身体には魔力と言うものが宿っていて、魔法を行使するために必要なモノなんだけど、基本的に魔力を消費して魔法を使うの。強い魔法を使うには、そのぶん多くの魔力を使うし魔力が無くなると意識が無くなったりするんだよ。まぁ、時間経過で魔力は回復するけどね。それでね、属性というのは魔法の種類みたいなもので、私の使う風属性なら強風を起こしたり風を圧縮させて対象を斬ったり出来るよ」


「つまり僕も魔力があれば魔法を使えるようになるってこと?」


「そうなるね」


(魔法使えるんだったら火属性が良いなぁ、剣術と組み合わせれば強そうだし…そういえば、過去に俺の居た世界からこっちの世界に来た人って居たのかな?)


何か思いついた様にしてソフィアを見る。


「単純に興味があるんだけど、この世界とは別の世界…いわゆる異世界って存在するの?」


直接は言わずに少し言葉を濁して聞いてみた。

僕の言葉を聞いたソフィアは、足を止めこちらを振り向く。


「あるよ…異世界」


ソフィアの顔は真剣そのものであった。


「えっ…」


想定外の回答に、思わず言葉が漏れ出てしまう。


「なんでベルがそんなことを聞いたのか分からないけど、異世界は確かに存在するよ。一般人は知り得ない話だけど、教えてあげる。異世界へはテアトルムで管理している俯瞰ふかんの扉によって行き来することができる。とはいえ、使用できるのは一部の国の王族や豪商だけで私たちが使うことは出来ないんだけどね。あとは、自然界のどこかに異世界に通じる場所があるらしいけど詳しいことは分かってないよ。そもそも俯瞰ふかんの門は大昔の錬金術師たちが作ったものだから仕組みもよく分からないのよね。王族たちが使えると言っても稼働ための魔力が足らないから、今は使われてないよ」


ソフィアが話を終えた。


「そっか…」


(話を聞く限りだと俺の居た世界かどうかも分からないし、向こうの世界から人が来たって感じでは無いな。あくまで、こちら側から一方的に行き来できるだけで向こう側からは無理そうだね)


「今は使われていないって言い方したけど実際には1000年以上使われて無いのよ。まぁ、ベルには関係ない事ね」


ソフィアは再び足を動かし始める。


川沿いを下り始めてから3時間ほどが経った時。

目の前に巨大な橋が見えてきた。

橋の入り口には(ゲート)があり、それを囲うようにして建物が築かれている。


「…思ったより時間がかかったね。ここがレブドープ樹海の出入口『モメント橋』だよ。出入口は森の反対側にもう1個あって、東側の地域に行くのにかなりのショートカットになるんだ」


橋に作られた建物の中に入る。

中は意外と近代的で、奥にはコンピューターのような巨大な機械があり、壁にはモニターがある。

モニターには対岸の映像が出ており、様々な魔物が映し出されていた。

数多くの職員が働いており、研究所も兼ねているらしい。

ソフィアが後ろから話しかける。


「ねぇ!びっくりした?ここにある機械たちは所長のスキルによるものだよ」


「スキル…?スキルってなに?」


「スキルも覚えてないのか…まぁ仕方ないよね。説明すると、スキルは魔法と違って自分専用の能力。例えば、私のスキル『(アストルム)』なら夜限定で魔力が増えたり肉体が強化されるよ。あと、天体魔法って呼ばれる、どの属性にも属さない特殊な魔法を使えるようになるの。その分、使用したときの体への負担が大きいけどね」


(嵐の星(ニンブスアストルム)って、風属性と(アストルム)のスキルを持っているから、そういう称号になったんだよね多分)


「所長さんのスキルって何なんですか?」


「『所長が持っているのは鉄ノ人形(アイアンパペット)』と呼ばれるスキルで、鉄が使われている物なら基本的に全部操ることができるよ。ただし、同時に3つまでしか操ることが出来ないんだよ。今だと、モニターと制御装置に使っているみたいだね。所長のスキルのお陰で崖付近の魔物の監視や森の中での無人調査などが出来るようになったんだ。ここにあるモニターや制御装置も所長が操ることでしか機能しないから、モメント橋でしか使えないんだよ。ちなみに、制御装置って言うのは橋の(ゲート)を開け閉めしたり、この建物全体の魔道具を管理するためのものだよ」


ソフィアはそう言ってニコッと笑う。


(相変わらず話が長い…)


僕はそう思った。


しばらくすると奥から研究員のような人が出てきた。


「すみません!お待たせしました。所長が上でお待ちです」


案内され3階に上がった。

ソフィアがコンコンとノックをして扉を開ける。


「…よく来たな」


所長と呼ばれている人物は、白髪交じりの黒髪で髭を生やした身長は190以上はありそうな大男だった。

後ろに大きな窓のある部屋で椅子に座っていた。

男は顎に手を置き、何か見定めるようにして、こちらをじっと見つめていた。

心なしかどこか機嫌が悪いようにも思えた。


ソフィアがこっそりと僕に耳打ちする。


「あの人がモメント橋の所長、ダルムス・シンドラーナさん。昔は冒険者をやっていて、私なんかよりも全然強いんだよ」


その言葉を聞き、もう一度所長を凝視する。


(所長って言われるくらいだし、もっと年取った爺さんとかインドアな感じを想像してたけど、思ったよりも体育会系っぽいんだな)


所長が口を開く。


「ソフィア...お前さんレブドープ樹海に入りたいんだってな」


部屋の温度が少し下がったように感じる。

先ほどまでニコニコしていたソフィアの顔から笑みが消えた。


「ええ、私を待つ友人が居るので」


「…残念だが無理だ。諦めろ」


「なんでですか!私はAランクですよ?森に入る条件であるBランク以上は満たしています」


ソフィアは突然のことで戸惑いつつも冷静に反論する。


「先ほど変異種が確認されたんだ。変異種は全体的な能力が向上し、持っている武器も魔力に当てられて変形する。お前も知っているだろう?変異種の討伐ランクは通常よりも1ランク上がる…今のお前のランクじゃ入森は無理だ」


「変異種!?」


「そうだ」


「なら…なおさら行かないと!救える命も救えなくなる!!」


ダルムスは机を叩いて立ち上がり、ため息を吐いた。


「お前が強いことは十分承知している。それでも…おいそれと通す訳にはいかんのだ!!」


「でも…」


「それに…お前の隣に居るガキも連れていく気だろ?それなら余計にダメだ。お前1人なら少なくとも死ぬことは無いだろう。だが、そいつは…死ぬぞ?」


ダルムスは少し殺気立った声で話す。

ソフィアはダルムスの最後の言葉にすかさず反論する。


「そんなに言うなら...ダルムスさん…ベルと戦ってみてください!」


「はぁ?俺がこのガキと戦えって?結果は目に見えている。戦う必要はない!!」


ソフィアは僕の肩に手を置いた。


「ベルは昨日レブドープ樹海に居ました。オークやゴブリンとも戦っています」


ソフィアは淡々と話し始める。

その言葉を聞いた瞬間、ダルムスの顔色が変わる。


「なっ!?ありえんだろう!もしそうだとするなら、どうやって入ったと言うのだ!こちらから向こう岸まで1キロはあるんだぞ!!」


ダルムスの(ひたい)に汗が溜まる。


「その証拠としてディアメルク商会が運搬していた商品の一部を持っていました。所長…ベルと戦っていただけますよね?」


「フハハハハッ!そうかそうか、その話が本当かどうかはひとまず置いておく。お前が、そこのガキを随分と評価してることだけはわかった!試してみんとなぁ!!ソフィアの御眼鏡(おめがね)にかなったガキの実力を!!」


ダルムスは手を置いていた机の角をベキッと折った。

上機嫌になったダルムスがこっちを見てくる。


「えっと…ダルムスさんが付き添いでレブドープ樹海に入るのはダメなんですか?」


2人のやり取りを見ていて疲れたので意見を出してみる。

ダルムスが、ため息を吐きながら話す。


「あのなぁ…魔物達はそこまで頭が悪い訳じゃない、この橋を越えれば広大な大地が広がっていることぐらい分かっている。だから、毎日対岸から橋を渡ろうとしてくる。それを俺が倒すことによって…俺がここに居るだけで…魔物達への抑止力となる。現に橋を渡ろうとする魔物は日々減っている。つまりだ!!俺がここを動いて森に入ってしまったら、今まで抑えられていた魔物達が一気に押し寄せてきて橋は陥落し大変なことになる。だから…俺は動けんし動く気は無い」


「なるほど、抑止力か...」


理にかなった理由だったので思わず納得してしまった。

ダルムスは僕の前へと立った。

僕の肩に手を置き、話しかけて来た。


「そんなことよりも、戦うのだろう?4階に訓練室がある。そこで戦うぞ!!」


(目がガチじゃねぇか!どうしてこんなことに...)


青ざめた顔をダルムスに向ける。

ダルムスは嘲笑してベルに目を向けた。

僕に向けられた、その瞳はどこか懐かしむようであった。

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