第二話 出会い
森から出るために馬車が来たであろう道を辿って行く。
30分くらい歩いただろうか、前世に比べて若く幼いせいか疲れるのが早い。
「喉…乾いたな」
こちらの世界に来てから、まだ何も飲めていない。
辺りを見回し川を探すが見当たらない。
仕方がないので葉っぱについた雨水を集めて飲むことにした。
先ほど得た食料を取り出して、袋に水を溜める。
「細菌とか付いてたら嫌だな〜水の濾過ってどうやるんだっけ?」
学校で習ったはずだが、ロクに授業を聞いていなかったことが悔やまれる。
「まぁ火で温めればなんとかなるだろ」
持っていたショートソードで辺りの木を切って削り、棒と板を作る。
ショートソードの麻で作られたグリップを解く。
麻紐を棒に括り付け、板の左右に結びつける。
木片を少し削り窪みを作る。
窪みに当たるように棒を当てて、木の板を死ぬ気で上下させる。
しばらくして火がついた。
消えないうちに、枯れ葉や小枝を周りに置いた。
火種の下から少しずつ空気を送る。
「皮袋だから火に強いよな?」
多少の疑問を残しつつ、麻紐で木から吊して火に当てる。
「大体の細菌は1分もあれば死ぬと思うし、もうそろそろ良いかな?」
紐を外して袋を木から下ろす。
近くにあった岩の上に座り、袋から出していたパンを食べながら水を飲む。
パンは硬く味もしない。
ただ、久しぶりの食事だったので美味しく感じられた。
「そろそろ暗くなってきたな」
日が沈み夜になる。
少し離れたところで足音と話し声のようなものが聞こえた。
火を消して、音のした方へ近づいてみる。
そこには100cmもあるかどうかわからない大きさに緑色の肌をした怪物が3匹で歩いていた。
1匹はただの棒、他の2匹は石で出来た斧を持っている。
「あれは…ゴブリンっ!?」
思わず声が出てしまった。
ゴブリンはこちらを振り向き、走ってくる。
「グギッ!キキキ!」
(ゴブリンか…しかも3匹。体格的には向こうの方が少し小さいが、そこまで変わらないな)
先頭にいたゴブリンが石斧で殴りかかってくる。
思っていたよりも素早く、怪我した足では避けれそうもない。
剣を前に出して石斧を受け止める。
オークに比べれば威力は大したことはない。
気づけば他の2匹に回り込まれていたようで、石斧を受けたタイミングで後ろから殴りかかってきた。
石斧を受けつつ剣を両手持ちから片手持ちに変える。
空いた左手で1匹が持っている棒を掴み、もう1匹の石斧に目がけて棒を突き出す。
棒を持っていたゴブリンは体勢が崩れて、その場に転ける。
石斧を持っていた2匹目は棒を突然前に突き出されて怯んでいる。
それを確認して、最初に殴りかかってきたゴブリンの石斧を弾いた。
「フーッ!1匹だけならまだしも3匹となると辛いものがあるな。仲間を呼ばれても困るし、ここらで逃げるか…」
そう呟いて、全力で走る。
足を怪我していたので引きずる形で走ることしかできなかった。
3分ほど経ち、後ろを振り向くが追ってきている感じはしなかった。
(疲れた…さっきは上手くいったが普通に死にかけたな)
最初にいた地点から、かなり歩いてきた。
木々の隙間からひらけた草原が見える。
ようやく森を抜けれそうだ。
喜びのあまり軽く走る。
森を出た瞬間、森と草原の間に崖があったことに気づく。
「…ん?…ふぁっ!?」
足を滑らし崖へと落ちる。
(あっ…死んだわこれ…)
あまりに突然の落下に死を覚悟する。
次の瞬間、「ピイィィ!」という大きな鳴き声と共に巨大な怪鳥が現れる。
そのまま、俺の襟を咥えて飛んだ。
怪鳥に咥えられ、宙吊りの状態で空を飛ぶ。
無理に動いて落とされたら死ぬため動くわけにはいかない。
(いや、どういう状況よこれ!!)
訳がわからないまま、ただただ運ばれる。
荷物を全て持った状態で咥えられたのが不幸中の幸いである。
しばらくすると、前方から大量のハチが飛んできた。
「嘘だろ…」
ハチ達は怪鳥に群がり始める。
突然のことに驚いた怪鳥は口を開く。
「ええ!?なんでやあぁぁぁ!!!」
怪鳥に離され、真っ逆さまに落ちる。
ドボン!と大きな音を立てて6mほどの高い水飛沫が上がる。
運良く下が川だったようで身体を痛めただけで助かった。
水面に体を浮かせ空をじっと眺める。
体中が軋むように痛んだ。
「奇跡だな…」
水深が深かったことと、60mくらいからの落下だったことでなんとか助かったのだと思った。
このまま浮かんでいる訳にもいかないので川岸まで泳いで行く。
泳ぐのは疲れるので嫌だったが仕方がない。
「ねぇ!君!!」
いきなり声をかけられた。
びっくりして声のする方を見上げる。
そこには川岸で、しゃがんで話しかける1人の少女が居た。
金色の髪、深い緑色に水色を足したような瞳を持った少女である。
「君…今、上から落ちてきたよね?」
異世界とはいえ言葉は通じるらしい。
16歳ほどの見た目をした少女がニコニコと微笑みながら質問してきた。
「とりあえず、水から上がりなよ。冷えるよ?」
とりあえず言われるがままに水から上がる。
(はぁ…情報量が多すぎて困るな、ゴブリンと戦ってデケェ鳥に攫われて少女に出会うか…訳わかんね)
そんなことを考えながら、少女の前に立った。
「君の話を聞く前に、まずは私のことを話しておこうか。人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗れってよく言うものね!」
つかの間の静寂、近くを流れる川の音、草むらからは虫の声、上空で飛ぶ鳥の羽音が聞こえる。
少女はゆっくりと口を開いた。