第一話 転生?
木々が揺れ、小鳥がさえずる。
雨上がりなのか、葉っぱには水滴が付いている。
木が揺れるたびにポタポタと水滴が落ちた。
水滴が顔に落ちてきて目が覚める。
目の前に広がる光景に理解が追いつかない。
熱帯林のような広大な森、空には見たこともない鳥が飛んでいる。
自分は木の幹に寄りかかる形で寝ていたようで、腕にはツタなどが絡まっていた。
無くなったはずの右腕がある。
お腹の辺りに出来たはずの傷も無くなっている。
長らく寝たきりだったのか剣術で多少鍛えられた筋肉も無くなっていた。
身体に力が入らない。
頭痛がする。
いつもより目線が低く腕が短い気がする。
周りの木々が大きいのか、身体が異常をきたしているのかはわからない。
色々なことが一気に起こり頭の中がパニックになった。
深呼吸をして一旦落ち着く。
「あ〜〜〜!!」
発声練習とまではいかないが声を少し出してみた。
心なしか前よりも高い気がした。
喉に触れる。
喉仏が出ていないように思えた。
美咲が助けてくれたのだろうか?
そんなことを考え辺りを見渡す。
しかし美咲の姿は見えない。
美咲の最後の言葉は何を言っていたのだろう。
しばらく考えていたが、キリがないので辺りを探索することにした。
自分が起きた地点から真っ直ぐ歩く。
草木を掻き分けて森の中を進んだ。
「ん…?なんだ…?」
10分ほど歩いたとき、前方からシュ〜バンッ!と強い破裂音が聞こえた。
「あ?こいつ……待て待て!夢か!?いや…本当なんだろうな……」
辺りの木々を薙ぎ倒し、奥から自分の身長の何倍もの大きさの猪のような豚のような怪物が歩いてきた。
突然のことに思わず笑いが溢れる。
「ウゴォォォ!」
怪物は、手に持っていた棍棒を思いっきり振りかざす。
棍棒の先には鉄でできた球体がついていた。
見た目の割に速かったが避けれない程ではない。
俺は危なげもなくひらりと攻撃をかわした。
「びっ!くりした〜」
ドッ!バンッ!
地面に当たった球体が激しい音と共に炸裂し、爆散した破片が俺の足をかすめた。
粉々になった球体は時間と共にゆっくりと再生している。
「あ〜もう!なんなんだよ!!ほんとに」
あの光と対峙したからか前に比べて異形相手の恐怖心は無かった。
木の裏へと隠れる。
「どんな仕組みだよアレ!」
(あの球体、鎌倉時代に起こった元寇で使われた。てつはうに近いものだと思ったんだけど、粉々になった球体が再生している所を見ると違うのか?)
「痛…足やられたなこれ…思ったより深そうだし」
怪物はもう一度、棍棒を振りかざす。
「あっぶな!!!」
後ろの木がメキメキっと音を立ててこちらに倒れてきた。
怪我のせいで踏ん張りがきかない。
紙一重でかわすことが出来たが、もう一度攻撃をされたら避けきれないだろう。
動く度にかなりの血が足から飛び散る。
怪物が薙ぎ倒した木々が目に留まった。
「血ィ出過ぎたな…頭もガンガンする」
乾いた笑いと共にボソッと呟いた。
次の瞬間、怪物は棍棒を振りかざしてきた。
俺は姿勢を低くして、怪物が棍棒を上にあげたタイミングで倒れた木のあるところまで走った。
ボロボロになった木の幹を引っ張ってへし折った。
「よしっ!こいつが欲しかったんだ!!」
木片を手に持ち怪物に向ける。
「こいよ…デカブツ!!」
「グゴオォォォォォ!!!」
怪物が棍棒を振りかざす。
「お前のその棍棒…持ち手がすり減ってボロボロなところを見るに、再生するのは先端の球体だけなんだな」
身を低くし持っていた木片を下から上に突き上げる。
桜花玲瓏流『飛翔天籟』
鋭い突きが棍棒の持ち手部分に当たり、バキャッ!と大きな音を立てて砕けた。
折れた棍棒の先が自身の頭上に落ちてくる。
それをキャッチし、目一杯の力を込めて怪物の顔に投げつけた。
棍棒の先には、あの球体がついている。
強い衝撃に反応して球体は爆散し、怪物の顔は粉々に砕けた。
「何も考えず力任せに振るから隙ができるんだよ。ガラ空きだったぜ…」
少しカッコつけるように言った。
くるっと回り怪物の方を見る。
「はぁ...疲れたな……」
(ブタのような顔に2足歩行の巨体か...まるでオークだな。…これが本当にオークなのだとしたら、ここは異世界なのか?)
考えても仕方がないことなので、オークらしき怪物が来た方向へ進んでみることにする。
「痛……」
足を踏み出した瞬間ズキンと痛みを感じた。
「な〜んか骨折してそうだな〜何気に初だな骨折」
手に持っていた木片は、足に当ててツタで縛ることにした。
少し骨折気味だったので固定するためだ。
それと、今頃気づいた事だが、衣服などは着ておらず全裸ではないか。
しかも、やけに目線が低いと思っていたら、身体が縮んでいる。
そして、水溜まりで見た感じ6歳くらいの顔立ちになっていた。
とはいえ同じ黒髪だが自分が子供だった頃よりも背が高く顔立ちも良いので、おそらく自分は死んだのであろう。
いや、気づくの遅すぎじゃね?と自分で言いたくなるほどの鈍感さである。
状況を整理してみてわかった事がある。
もしかして転生したのではないか、それも異世界に。
「これ…異世界転生ってやつか!あ〜納得だわ!どーりで身体の使い勝手が違ったわけだ!!」
勝手に言って勝手に納得する。
これを1人、全裸で言っているわけだから、どこからどう見ても完全に不審者である。
ちなみに、棍棒の先についていた球体だが、オークを殺したら再生しなくなっていた。
砕けた破片のみがついた棍棒となっていたので拾わなかった。(持ち手も折れていたから)
オークがやってきた方向へしばらく歩いていると、粉々に砕かれた馬と指や髪の毛といったものを含んだ血溜まりがあった。
おそらく人だったのだろう。
人の死体は初めて見たが、酷い臭いが気になるくらいで、原型を留めていない。
ぐちゃぐちゃの死体だったからか特に吐いたりすることはなかった。
恐らく馬車で移動する行商人だったのだろう。
奥には荷台が横たわっており中身がまだ残っていた。
荷台に入り、色々と物色する。
荷台の床には何かの花と龍のようなものが描かれた紋様が付いていた。
室町時代に足軽が行なっていた乱取りのようなことをしているが、仕方のないことと割り切った。
子供用の服があったので着てみる。
サイズはピッタリで、よく漫画に出てくるお坊っちゃまのような服装だったが贅沢は言ってられない。
他には、干し肉やパンといった食料とショートソードがあった。
刀ではなく剣であったことは残念だったが武器であることに変わりはないだろう。
そもそも、漫画とかの異世界って中世のヨーロッパみたいな感じが多いもんなと思い納得した。