第十三話 大妖道魔館
今より昔か未来かもわからぬ刻。
大陸より遥か彼方に位置する聖地と云われた森の中。
過去に大魔導神と呼ばれし存在が居たとされる地でもある。
廃れた館の一室で鳴子の音がした。
パチ…パチ…タン…タン…カラカラ
朝日が差し込む窓の内で目を閉じそっと音を聴く。
廊下へ響くその音が一周まわって返ってきた。
窓枠から降り椅子に腰を下ろす。
コンコンと戸が鳴り1人の女が部屋に入って来た。
「も〜こんなところに居たんですか師匠」
そう私に話しかける彼女の顔を見るたび改めて実感する。
あぁ私は本当に死んでしまったんだなと。
「かなり広い洋館だというのに…よく見つけられたね」
部屋にふわっとした声色が響いた。
女は戸を閉め、私の前に座った。
「カランカランって音がしたんです。こんな廃墟でそんな音を鳴らすの師匠くらいでしょ」
「なんか無性に鳴らしたくなったのよね。これ」
そう言って鳴子を女に見せた。
「なんです?これ」
「鳴子と言ってね。私の祖国の楽器で、木片同士をぶつけて音を出す。作りたてで色は付いて無いんだけどね」
私はフフンっと得意げに音を鳴らした。
「ちなみに鳴子の本来の色ってなんだと思う?」
「えっと...意外と金色だったりして...」
「えっ!?すごっ!それ私が昔に自作した鳴子の色だよ」
「へぇ~それで、本来の色は何なんですか?」
「赤と黒だよ」
「へぇ~なんで金色にしたんですか?」
「・・・」
鳴子をそっと女に渡して立ち上がる。
「そろそろ行こうか」
「あっ!今はぐらかしましたね」
そう言って女も立ち上がった。
私は戸の前へ行きドアノブを掴んだ。
パチッと音がして手を離す。
「痛っ!」
私はその場に座り込んだ。
「大丈夫ですか?」
弟子の女にそう言われた。
「静電気…バチッて来た…」
「え…そんなことで腰抜かしたんですか?」
「だって〜!んも〜なんか萎えちゃった…やっぱ明日にしていい?ここ出るの」
「えっ?普通に殴りますけど?」
「…やっぱり今日にしようか」
戸を開き廊下へと出る。
薄暗く微かにコォォォという音が聞こえる。
しばらくして玄関ホールに着いた。
玄関を抜ける外へと出る。
館の正面を向いて立つ。
「最後に供養して行こうか」
私はそう言って手を合わせた。
『雲海逆巻き 天地割れ 炎咲き乱れ 礼華舞う 解道2番 蒼焱閻来』
足元から縄のようなものが現れ身体に巻き付く。
ボウッと音を立てて縄が下から燃え上がる。
上に行くにつれ炎は蒼くなった。
その炎は一つの意思を元に動き出す。
炎は身体より離れ洋館を取り囲む。
炎は円状に成り館を通って行った。
炎が通った先から館は淡い光に包まれ消えていく。
身体に巻き付いていた縄が炭となって崩れ落ちた。
ほんの少しして館の姿は無くなり、その跡には体の透き通った少女が立っていた。
私はその少女に近付いて話しかける。
「長い間…この地を護ってくれてありがとう。もう役目は終わりだ…今は休み、再び必要とされる刻を待つといい」
少女はコクンっと頷き、姿を消した。
弟子の女が私に話しかけていた。
「今の家仙女、随分と大人しかったですね」
「この館は400年以上前からあるらしいし、きっと他の家仙女よりも精神年齢が上だから落ち着いてるんだよ」
私はそう言って歩を進めた。
「ほら行くよ!陽が落ちる前に着くには急がないと!」
「そうは言ってもどこに行くんですか?」
「えっ?どこにって…決めてないの?」
「師匠こそ何も考えてなかったんですか!?」
「早く出たいって言われたから…てっきり行き先も決めてるんだと思ったの」
「だって…ネズミが出たんですよ!ネズミが!」
「あれ?それはおかしいね。家仙女が管理していたんだから虫や動物は居ないはずなんだけど」
「えっ…」
女に寒気が走った。
小刻みに震えながら私にしがみついて来た。
「随分と寒そうね。暖かい国に行こうか」
「いや!別にそういう訳じゃ…」
私は女にニコニコっと笑いかけた。
「もう…なんでも良いです」
「この辺りだとトリックポヒが近いかな」
女が言った。
「トリックポヒ?」
「1年中暖かい国なんだけど、孤児や老人のための施設があって、怪我人とか病人を無償で診てくれる病院もあるらしいよ」
「国民に優しいんですね」
「…いや、どうだか。そういうことを実現できる国は…それだけ搾取される人間も多いからね」
女は首を傾げた。
「それって税金が多いとかですか?」
「いや…そういう訳でも無いんだけど…ダメだね。上手い説明の仕方がわからないや」
「えぇ…」
「まぁ…行って自分の目で見てみると良い、良くも悪くもいい経験になるはずだから」
女は一歩前へと踏み出し私に詰め寄った。
「まさか…1人で行けとか言いませんよね?」
私は少し微笑み、女の頭に手を当てる。
「そんなこと言わないよ」
女は安心して胸を撫で下ろした。
私はその様子を見てアハハっと笑った。
「なっ…なんですか!!」
少し赤面になった女がそう言った。
「いやぁ〜可愛いなって思って」
そう言った瞬間、私の腹部に女の拳が突き刺さった。
「ゴホォッ!!!」
私はお腹を抱えて崩れ落ちた。
ゼーッゼーッと息を漏らし女を見上げる。
「酷くない!?」
「酷くないです!!」
女は私から視線を逸らした。
「人の心をもて遊ぶ師匠の方が酷いですよ…」
「えっ…?なんて?」
「なんでもないです!!」
私は立ってズボンに付いた土埃を払った。
「あらためて…行きましょうか」
私はそう言って女の前に立った。
女は後ろで、まったくこれだから…とぶつぶつ言っていた。
私は気にせず話しかけた。
「目指すはトリックポヒ!急ぐとは言ったものの気楽に行こうよ」
そう言った2人は歩き出した。
曇り空に一筋の光が差し込み太陽が出てきていた。




