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テアトルム  作者: 灰呶ゆう
魔物の楽園編
10/21

第九話 ソフィアの奇策

高い魔力同士がぶつかる。

衝撃が広がり森が悲鳴をあげた。

空は黒く歪み原型を留めていない。

何層もの空気が膜のようにして覆っているようにも見られた。


ソフィアは怒りを抑えるように息を整え、エピデミアに話しかける。


「一つ…聞きたい事がある」


「ん?」


エピデミアが首を軽く傾げた。


「昨日この森で馬車が襲われた…何か知っていることがあるなら話せ」


ソフィアが睨んだ。


「分からんな…」


「本当に?」


ソフィアが圧をかける。

エピデミアは嘲笑うように言った。


「お前ら人間は、殺した羽虫をいちいち憶えているのか?」


ソフィアは小さく舌を打った。


「その馬車には獣人の護衛が居たはずだ」


エピデミアは空を見上げて少し考える。


「ふむ…獣人…獣人ね…あぁ!そやつなら、この森で一番高い樹木の上に居るぞ」


その言葉を聞きソフィアがはっとする。


(1番高い木…ナルティスのことか!)


「なぜ…そんなところに…」


「俺が見つけて木の上に捨て置いたのよ。極度の絶望を味わうほど、人というものは旨味が増すのでな」


「ゲスめ…」


「なんとでも言うが良いさ!それが俺の生き方であり悪魔デーモンとして当然のことである!!」


そう言い終えるとエピデミアは、2人に向かって攻撃を仕掛けた。


闇魔法 『虚空嚥下こくうえんか


(黒い球体!!周りの木々が消えている…当たったら一発アウトだな。ならば試しに…)


ダルムスはそのようなことを考え、黒い球体に向け鉄の塊を飛ばす。

鉄の塊は黒い球体に消されるが、木々に比べると消えるのがほんの少しだけ遅い。

ダルムスは、それを確認すると鉄で分厚い壁を作り球体に向けて飛ばした。


「ソフィア!!」


ダルムスの声を聞きソフィアが壁の裏から飛び上がる。


「火・水・風・土の精霊よ!くうに浮かぶ星々(アストルム)に導かれ、が前に顕現けんげんもの穿うがて!!」


天体・精霊 複合ふくごう魔法 『星の精霊(スピリットステラ)


ソフィアの背から赤、青、緑、橙の球体がエピデミアに向かって飛び出た。

エピデミアは地面に足を埋めて蹴り上げる。

地盤が隆起しソフィアの方に倒れた。

しかし、地盤は球体の方へと方向を変える。

地盤は球体に当たり粉々になった。


「なにっ!?」


球体は、そのまま直進する。

赤の球体は火の鳥。

青の球体は水の蛇。

緑の球体は風の少女。

橙の球体は土のゴーレム。

の姿に変貌へんぼうし、エピデミアを襲う。

エピデミアは、それぞの球体に引き寄せられて動くことは不可能に近かった。


スキル『アストルム』とは術者の周辺を浮かぶ球体を生成して一時的に膨大な魔力を身に宿すことができる能力ーー

それぞれの球体が色にあった各属性の魔力を宿し実際の星のように重力を持っていて中心には核が存在している。

その球体を操り天体魔法と呼ばれる特殊な魔法を扱うことができる。


複数の種類の魔法を合わせて発動することのできる複合魔法ーー

魔力の消費量は通常の倍以上となるが特殊な効果を与えることのできる荒技である。


精霊魔法は、それぞれ各属性を宿した『精霊せいれい』と呼ばれる存在から力を借りて扱う上位魔法ーー

術者の魔力や精神力によって呼び出せる精霊の格が変わる。

大まかに下位、中位、上位、皇位の四つに分かれていて、皇位にあたる精霊はこの世に12体しか存在しない。


この場合、ソフィアは自身の傷を治癒していたときに精神力をかなり削られていたため中位の精霊を召喚するのが限界であった。


「チッ!」


エピデミアは身体に力を入れて肉体を硬質化させる。

球体がエピデミアに直撃する。

火の鳥に当たった部分は熱で溶けたような傷になる。

水の蛇に当たった部分は水圧で抉れる。

風の少女に当たった部分は強風で皮膚が剥がれ落ちた。

土のゴーレムに当たった部分は長時間、土の中に居たかのように腐敗した。

しかし、次の瞬間、エピデミアのソフィアによって付けられた傷が全て消えた。


(あの球体を依代として精霊を召喚するか…しかも攻撃は球体を媒介としているから俺の知らない特性が上乗せされているな。ククク…これだから殺し合いはやめられん)


エピデミアはそのように思った。

思わず笑みが溢れる。

ダルムスが鉄の壁を作ってから、およそ30秒ほどの出来事である。

エピデミアが出していた黒い球体は消えた。

身体からどっと力が抜けて崩れ落ちる。

エピデミアの額から汗が垂れた。


「ようやく魔法を維持できないほどになったか。やっぱり、傷は治せても魔力はかなり消費していたみたいだな」


ソフィアがエピデミアの前に立ち、そう言った。


「うるさい!!人間風情が俺を見下すんじゃねぇ!!」


闇魔法 略式『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』


空から黒い針が落ちてくる。

ソフィアは後ろにがりながら話す。


「ダルムスさん!黒い針に触れないでください。小さい針ですけど、さっきの黒い球体と同じくらいの破壊力を持っています!」


「なるほど…ただ…俺相手にそれは悪手あくしゅだな!!」


ダルムスは鉄を無数の針に変えて空に飛ばす。

鉄の針と黒い針はぶつかり相殺された。


「残念だが…それはブラフだよ」


ソフィアの前で倒れ込むエピデミアがそう言って笑う。

次に瞬間、ダルムスの背後にエピデミアが現れた。


「なっ!?なぜ…お前が!?」


今この瞬間、エピデミアはソフィアの前とダルムスの前に一体ずつ存在していた。

ダルムスはエピデミアに脇腹を抉られた。


「ぐがっ…グッ…」


ダルムスの下に血がぼたぼたと垂れる。

思わずよろけて膝をついた。


(元々2体居たのか?それとも分身…?いや…それは無いな実体がしっかりとあった。全くわからん!どんな仕組みだ?)


脇腹を押さえながらそんなことを考えた。


エピデミアはソフィアの方を指差した。


「簡単な事だ。その女の前に居る俺は分裂体ぶんれつたい。俺のスキルによって作られ、俺と同じ能力を持ち自我を持つ存在…魔力や身体能力はかなり劣るが足止め程度には充分だったろう?それに分裂体は先ほどの小僧に付けられた傷が無い。よく見れば分かることだ」


「えらく…饒舌だなぁ…」


ダルムスがエピデミアに向かってそう言った。


「足止め…?なぜ私たちを足止めする必要がある」


ソフィアが聞いた。


「フハハハハ!まだ気付かないのか?元々この森は普通だったのだろう?なぜそれが今になって、お前らの言う変異種やこの俺が現れたと思う?」


ソフィアは頭をフルで動かし考える。


(森に変異種と悪魔デーモンが同時に現れる…最初は悪魔デーモンの魔力に当てられているものだと思っていたが、元々この森に悪魔デーモンが居なかったのだとすると…)


ソフィアの顔色が変わる。


「まさかっ!魔界か!」


「せい…っかい!!」


エピデミアはニヤッと口角を上げソフィアに蹴りかかる。

瞬時に反応しガードをする。

腕の隙間を縫うようにして攻撃を通す。


「くっ…きゃああぁぁぁ!!!」


ソフィアは、そのまま後ろに飛ばされ木々を薙ぎ倒して岩へと衝突する。


「人間とはこうも女々しいのか!女!!さっきの威勢はどこへ行った!!」


エピデミアがソフィアの方へとゆっくり歩く。

伸びていた爪が元に戻り、ツノが黒く小さいものに変化した。


(なんてことだ…思いもよらなかった。まさか悪魔デーモンが統治する世界『魔界まかい』と行き来することのできる『冥府めいふもん』がこの森に存在していたなんて。冥府の門が開かれたことにより魔界の高濃度の魔力が森を覆い魔物に影響を与えて居たのか)


口から大量に血が流れた。

ここでソフィアに疑問が生まれる。

それは…先程まで悪魔デーモンと言えどダメージは入るし魔力量的にも大差無く、勝てると思っていたソフィアを絶望のふちにまで追い込むには充分なものであった。


冥府の門が開かれていると言うことは他にも悪魔デーモンが居るのではないだろうか?

悪魔デーモンの形状が変化しているのは、こちらの世界に慣れて適応し始めているのではないか?

本来、悪魔デーモンは人間なんかよりも圧倒的に魔力が多いはずなのだから魔界からの魔力で少しずつ元の力を取り戻しているのではないか?


あくまで、頭をよぎっただけの疑問で確証があるわけでも無かったが、考えが当たっていた場合ソフィアに勝ち目が無いのは明白だった。


倒木とうぼくき分けて奥の方から悪魔デーモンが歩いてきた。


「形勢…逆転と言うやつだな。ただ、ここまで追い詰められたのは初めてだ。褒めてやろう」


「そりゃ…どーも」


汗が額から溢れ落ち身体が熱く火照っていくのが分かる。


「はぁーっ!!くっそ〜!ここまでか〜!ベルのことは心配だけどダルムスさんも息はあったし何とかなるでしょ。流石は悪魔デーモンまさかここまで強いとは思わなかったな…」


空を見上げてそんなことを言った。

ソフィアは後ろにある岩に手をかけ、よろよろと立ち上がる。


(残りの星は4つだけか…新しく出したいところだけど、あいつにそんな隙が出来ないのよね)


「万策尽きたようだな…女…潔く散るがいい!」


「あー嫌だ嫌だ!良くて相打ちかな…あぁ…死にたくない!!」


ソフィアは不敵な笑みを浮かべてそう言った。

その言葉にエピデミアは思わず手を止めた。

月が雲に覆われ隠れたのかより一層、辺りは暗くなる。


「何を言っているんだ?女、お前はもう手詰まりだろう。往生際の悪い奴め!戦おうとするだけ無駄だとまだ分からんのか!!」


「うるっさいなぁ!!こっちだって色々と考えがあるんだよ!!人間を舐めるな!クソ悪魔デーモン!!」


(なっ!?なんてヤツだ…瀕死の人間が、この期に及んで声高々と反抗できるものなのか!?)


「……いいだろう。お前に勝ち目がないことを教えてやる」


エピデミアの言葉にソフィアが反応する。


「…何が言いたい?」


悪魔デーモンは現世に現れる際に大半の魔力が消費されてしまう。消費された魔力は魔界に還元し再び冥府の門を通してゆっくりと自身に還る。今の俺の魔力量は本来の半分以下…大体3分の1といったところ。つまり…この俺、エピデミア・ネーロは本調子に程遠いと言うことだ!今もゆっくりと魔力は増え続けている!魔力を完全に取り戻すのに後30分程度といったところだな…今の俺相手で苦戦しているようじゃ当然俺に勝つなんて不可能という訳さ」


「ふふふ…あっはっはっはっは!」


ソフィアは腹を抱えて笑った。

その光景を見て先程まで上機嫌だったエピデミアの顔から笑みが消える。

その顔は誰が見ても怒っているとわかる。


「女…何がおかしい?」


エピデミアはソフィアに向けて言い放つと前に手を出し魔力を集中させる。

ソフィアにはエピデミアの一連の動作から何らかの魔法を発動するつもりなのだとわかった。

それでもソフィア顔から笑みは消えない。

ソフィアは笑いながらもエピデミアに対して返答をする。


「何がおかしいだって?そりゃさ、時間経過で強くなるなんて弱点を晒したようなものでしょ。だって、後から強くなるなら今はまだ弱いって事なんだから。今攻撃すれば勝てるかもって思っちゃうんだよね」


「その甘い考えが曲がり通ると思うな!!」


「…私が満身創痍に見えるか?」


「どこからどう見てもそうだろ!!」


「そうか…良かったよ。お前が私の実力を見誤ってくれてて」


エピデミアは上げていた手を下げ自身の足下を見る。


(なんだ…何かがおかしいぞ。なぜずっと暗いままなのだ?それも俺の周囲だけで…初めは月が陰ったものだと思っていたが流石に長すぎる。雲以外に月が隠れる要因でもあると言うのか…?)


エピデミアは疑問を抱き空を見上げる。


「あれはいったい…」


「ようやく気付いたか…言っただろう?考えがあると」


「う…嘘だ!ハ…ハッタリじゃなかったのかっ!!」


「時間稼ぎでしかなかった…お前との会話全てがな!!」


「いつからだ…どっ…どのタイミングから考えていたと言うのだ」


「お前に蹴られた時からだよ。ダルムスさんから離れることが出来たからね…()()は周囲を巻き込む…大魔法だから」


ソフィアは空を指差した。

空には月を覆い隠すようにして4つの巨大な球体があった。


悪魔デーモン…いや…エピデミアだったか?まぁいい、お前は星の爆発を見たことがあるか?」


「ある訳ないだろう!そんなもの!!」


エピデミアがソフィアに向かって蹴りかかる。

足に触れ軌道を逸らす。

足が空中で振られ、ソフィアの後ろの木が風圧で折れた。

エピデミアは無我夢中になって攻撃を仕掛ける。

ソフィアが後ろに下がりつつ攻撃を避けながら話す。


「そんなに興奮するなよ…星の爆発言ったって私だって実物を見たことは無い。ただ仕組みはわかるし()()もできる。まぁでも、私のこれは意図的に星としての死を迎えさせ強制的に爆発させるだけだよ。実物には程遠い。ダルムスさんが言うにはニュートリノによる加熱が必要らしいけど、この球体達は私のスキルの産物だから関係ないんだよね」


「ハハハハ!自ら言うとは間抜けな奴め!つまり、これがスキルだと言うのなら爆発する前に…お前を殺してしまえば解決という訳だぁ!!」


エピデミアの拳がソフィアに当たる直前。

エピデミアの身体が硬直した。


「……分かってないなぁ、星には引力が存在し私たちがいる星と私の生み出した星との間に万有引力ばんゆういんりょくが生じているんだよ。星という膨大な質量同士がこれだけの距離近づいているんだ…その間に居るお前の体重は数十倍から数百倍となるわけ。つまり、お前が動ける訳がないんだよ…とはいえ、重力で動けなくても頑丈な悪魔デーモンだから、そのうち慣れて平然と立てるでしょうね。だから…今のうちにお前をほうむる!!」


ソフィアを起点に周囲に眩い光が広がる。

エピデミアはその光に当たった瞬間、それが可視化されるほどの高密度な魔力だと直感した。


天体魔法 奥義『超新星爆発スーパーノヴァエクスプロージョン


エピデミアの頭上で球体が爆発して辺り一面が吹き飛び巨大な穴が空いた。

爆発により周囲に高濃度のガンマ線が降り注ぐ。

一瞬にして世界中が虹色のような光に包まれ、しばらくしてまた暗くなる。


「ふぅ……小さい球体だったから威力が低かったとはいえ…森は悲惨な状態だな…魔力もごっそり持っていかれたな〜ナルティスの方には影響が及んでないみたいだし何はともあれ良かったよ」


くるっと振り向きベルたちの元へと歩こうとする。

しかし、足が動かない。

初めは疲労からきた一時的な身体の痺れだと思っていたが、そんな生半可なものでは無かった。

爆発によって出来た奥深い穴の中からゴオォォォ!っと何かを吸い込むような音と共に気流が発生し空気が地面へと吸い込まれていく。

空気が薄くなり穴付近の地上では体が重くなる。

悪寒がして後ろに出来た穴を見る。


「穴の中で…何が起きているんだ!?」


ソフィアの足元からボコボコと地面を削り取るようにして何かが近づいて来る。

ソフィアは反射的に後ろへ下がり身構える。

ボコッ!と音を立てて地面から現れたのは、爆発が直撃したはずのエピデミアだった。


「なぜだ!!なぜ生きている!!!」


「なぜって?悪魔デーモンしょくしたものから魔力が得られ肉体も向上する。確かに爆発を喰らって死にかけたが、突如として空気中に現れた高いエネルギー。それを含んだ土!岩!それらを全て吸い込み完全回復を果たしたという訳だ!!」


エピデミアが口から土をぺっ!と吐き出す。

口から出た土が当たった地面が溶けたように抉れる。


「なるほどね…ついに本来の魔力になっちゃったか…」


ソフィアの額からぼたぼたと汗が垂れ落ちる。


「本来の魔力?いや違うな…今まで以上だ」


「ふはっ!化け物め!!」


ソフィアが構える。

腕がふらふらとしている。

その左腕はすでに折れていた。

左眼から血が垂れる。

爆発したときの爆風から身を守った際、左半身に大ダメージを負っていた。

いくら自分の能力とはいえ、生じた爆風などは能力ではないため、もろに喰らってしまったのだった。

放射線などは効かないが、その存在など本人は知らない。

エピデミアの攻撃がソフィアの右頬を掠める。

それに合わせて身体を捻りエピデミアの顔を蹴る。

今のエピデミアはそんな攻撃、意に介さない。

ソフィアの顔を殴る。

衝撃で吹き飛び地面に伏せる。


(無理だ…勝てない…)


息を切らしながらソフィアはそんなことを思った。

空を見上げる。

雲が消えて月を遮るものが無くなっていた。

時刻は午前4時…日の出まで残り1時間ほどである。

あれだけの爆発があったというのに世界は静かであった。

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