この世とお別れ
始めにテアトルムを読んでいただき、ありがとうございます。
基本的に時間のあるときに投稿するので、更新頻度はバラバラです。
誤字脱字も多々あるとは思いますが温かい目で読んでいただけると幸いです。
古来より信仰され続ける神道……
神道と剣術との結び付きは非常に強い。
その歴史は古墳時代まで遡さかのぼる。
古くから神としての霊威を持ち、神への捧げものとされてきた。
僕の師匠がいつも言っていた。
「修練は積み重ね。人としての域を超えた者の剣には神が宿る。だが、肉体が技術に追い付かなかった場合、剣に宿るのは悪魔である」と……
肉体と技術は比例する。
なぜなら、その技術を扱うためには、それに適した肉体が必要となり、肉体に合った技術しか得ることが出来ないからだ。
肉体は神が与えしもの、技術は自らが与えるもの、神から与えられたものを自分が与えたものが上回るなどあってはならないのである。
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廊下をドタドタと走る。
「やっば!」
戸をスパーンと開けて中へと入る。
「えい!やっ!とう!」
今日も道場に声が響きわたる。
ここは…俺が学んでいる剣術「桜花玲瓏流」の道場だ。
学んでいると言っても中学から高校に上がって習い始めたので、まだ2年くらいしか経っていない。
昔から歴史が好きで古い兵法や古文書などを調べては読み漁り、兵法に関して実際にやってみたいと思い木刀を買ったりもした。
中学3年生の頃、夜中に近所の神社で木刀を素振りしていたところを現在の師範に目撃され、その時の太刀筋が良かったという理由で勧誘された。
今までは兵法を見て木刀を振ったり模造刀で居合の真似事をしてみたりするくらいだったが、今では本格的に剣を習っている。
2年前の自分からは想像出来ないことであったが、割と充実した生活を送れている。
「遅い!!」
師範に怒鳴られる。
「部活だったんですよ!」
「そんなもん辞めちまえ!」
「嫌です!!」
師範が木刀を投げる。
僕は慌ててキャッチした。
古くなった木刀だった。
「あの…なんです?これ」
「この後の立ち合い稽古、俺から一本取ってみろ」
「いや…あの…自分のあるんですけど…」
背中をバシッと叩かれる。
「それ使え」
その時の師範の顔が変に頭に残った。
しばらくして、立ち合い稽古が始まった。
「お願いします!」
うちの道場では、基礎練習である足さばきや素振りなどを終えると師範と立ち合い稽古を行うことができる。
「よし!こいっ!」
師範が大声で応える。
「たあぁぁぁ!とりゃぁ!!」
カンッ!鋭い音と共に木刀同士がぶつかり合う。
俺は相撲の平手蜘蛛のように姿勢低くした。
師範の剣が空を切った。
身をよじり下から上に向けて斬り上げる。
「ふんっ!」
師範はひらりと避け俺の脇腹に木刀を突き立てる。
「まっ…参りました」
その一言を聞いて師範はニカッと笑う。
「惜しかったな!斬り上げるのではなく、そのまま胴に斬りかかっていたら結果は変わっていたかもしれんぞ」
「そんなこと言って、胴に向けて斬りかかっていたら受け流して斬り返してきてたでしょ」
「ガッハッハ!よくわかっているじゃないか。それがわかるほど、お前も強くなったもんだ」
そう言うと師範は俺の背中を思いっきり叩いた。
「そうだ玲央!この前誕生日だったろ!!いくつになったんだ?」
「17歳です」
「17か…俺が一番モテていた時と同じ年だな」
「知りませんってそんなの」
そんな他愛のない話をして、今日の稽古は終わった。
時刻は午後8時頃であった。
いつもと違う道を歩いて帰ってみよう。
近くに大きめの公園があったはず。
そんなことを考え、道を進んでゆく。
しばらく経って公園の辺りに来た。
ヒュッ!ズズズ…ダンッ!!ドゴン!
聞いたこともない轟音がしたかと思うと、前から謎の光に追われた少女が現れる。
俺はその少女を知っている。
少女の名前は園崎美咲といい、うちのクラスの人間である。
その追われる姿を見るなり咄嗟に足が動き出した。
美咲と光の玉の間に割って入る。
美咲を引っ張り光の軌道から外れた。
そのときの勢いで転倒する。
「おい!なんだよアレ!!」
「貴方には関係ない!とっとと立ち去って!」
美咲が怒り声で言った。
「関係ないってなぁ…強がるなよ!どう見ても困ってるだろ!俺はクラスメートの身にこれから起こるであろう惨状を、ただ呆然と眺めるようなことはしたくねぇんだよ!!」
美咲は驚いた様にこちらを見る。
「貴方…気付いてたの?アレがどういう物か」
「いや?全く。ただ、音もそうだし発光してるあの姿。とてもじゃないが、この世の物とは思えねぇ。それに加えて、お前のさっきの顔!生命の危機に瀕したやつの顔だ…何か良からぬことが起こる事ぐらい俺でも分かる」
「ふふ…ずっとただのバカだと思ってたけど、どうやら重度のお人好しね」
美咲の表情が柔らかくなり少し微笑んだ。
「そんなんじゃねぇよ。ただ…ここで見なかったことにしたら後悔すると思っただけだ」
「それじゃあ、命賭けてもらうわよ。生半可な気持ちじゃ状況は打開できないもの」
美咲は何かに気付いたように後ろを振り向く。
それを見て俺は持っていた刀袋から木刀を取り出し、正面に構える。
「来る…」
美咲のその言葉を聞いた直後、光の玉は目の前から姿を消す。
「アレの速さは、人の眼では捉える事は出来ない!!私が指示を出すわ!!」
「まるで自分は人じゃないみたいな言い草だな」
「後ろ!」
美咲の声を聞き、背後に向かって木刀を振る。
タイミングはドンピシャで直撃する。
しかし、当たった場所が捻ねじれて歪む。
木刀の切先は分解されたように跡形も無い。
「なっ!?買ったばかりなのに…」
「ヤツは物質を消せる代わりに自分の身を削るの!!そのまま攻撃し続けて!」
「お前なぁ!!もっと早く言えよ!それなら石か何かぶつければ良いだろ!」
「そんなに時間かけてられないの!」
「せめて…お前もなんかしてくれ」
俺は美咲の顔をチラッと見た。
「指示出してるじゃない!」
「他になんか無いのかよ」
「ったく…しょうがない…わーっ!!」
光が美咲の後ろを掠める。
「あ…危ないわね!ちゃんと引きつけなさいよ!!」
美咲に睨まれる。
「死ぬとこだったじゃない!」
美咲が手を仰ぐように上にやる。
それに共鳴するかのように、周囲の小石や枝が浮かび上がった。
小石たちは光の玉の上で円になる。
何かの陣のようでもあった。
『暗雲ノ鳴』
光の玉を中心に周囲の光が闇に包まれる。
街灯の光も届かず月あかりも届かない。
公園は何も見えぬほど真っ暗となった。
「お前…こんなことできたのか!」
「はぁ…今のでやられてくれてたら楽だったんだけどな…」
闇の中から光が漏れ出し闇は次第に光へと変わった。
光の玉が姿を表す。
「かなり萎んだな…」
「そうね…あと一息ってところかしら」
シューッという音を立てて光の玉から人型へと形を変えた。
ソレは美咲に向かって攻撃を仕掛ける。
それと同時に進路を塞ぐようにして、俺は木刀を振った。
(チッ!踏み込みが浅い!!)
木刀は一瞬にして消滅し、ソレは減速することなく美咲を目掛けて進む。
次の瞬間、俺はソレの前に立ち塞がった。
ソレの腕が振り下ろされた。
俺の身体は光に触れたところから崩壊していき、右腕から腹にかけて抉り取られたように傷が出来た。
光は目の前で消滅してしまった。
俺は上手く身体が動かせず、その場に倒れ込んだ。
血が体から流れ出ていく、止まる気配は全くない。
血を失いすぎたのか意識が朦朧とする。
「あぁ俺は死ぬのか…」
ボソッと小さく呟くのが精一杯であった。
目の前に美咲が立つ。
「助けてくれてありがとう…実は貴方と……」
その言葉を皮切りに意識が途切れた。
暗闇の中、自分が沈むような感覚がした。
なぜか意識が途切れたことを自覚し自分の存在を理解できた。
暗闇の底に背が付いたように感じる。
上から…つまり俺の目の前から闇を塗り潰さんとする数多あまたの光が降り注いだ。
・・・これが死か
独りぼっちのその場所で、ただただそんなことを考えた。
この作品のタイトル、テアトルムとはラテン語で劇場という意味があり、神と人間の運命の全様相を描く演劇の場であることに由来し、古くから宇宙,世界の寓意をもって用いられてきました。
この作品では、現世と異世界の繋がり、神と人との関係性を書くことが出来れば良いと思っています。
戦闘描写などで少しグロい部分を出す予定なのでR15作品とさせていただきました。