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罪悪感②

南つばさは視線を俺から逸らして、呟いた。




「なるほど、あんた圭ちゃんと喧嘩したのね」

「いや別に、喧嘩なんてしてねえよ」

「だから元気無いわけか」

「勝手に決めんな」




南つばさはその大きな瞳をやや気だるそうに潤ませて、



「なんで喧嘩したのか知らないけど、早く仲直りしてよね」

「そんな類いの話じゃねぇよ……」

「別にどんな話しでも良いんだけど、きっと圭ちゃんも落ち込んでるに違いないから」

「……」



南つばさはやや呆れながら、



「圭ちゃんが塞ぎ込んで会えなくなったら私、寂しくて死んじゃうわ」

「出会ったの最近だろ」

「そうだけど、もう無理なの。圭ちゃん居ないと生きていけない」




南つばさは無表情のまま、横目で俺を見ながら、




「あんたには川島君がいるけれど、私には圭ちゃんしか居ないんだから」

「……」

「あんた如きのせいで私と圭ちゃんの関係を壊されたらたまんないわ」




そう言われ、一つだけ気になった事を俺はこいつに聞いた。




「なぁ……お前にとってそんなに圭って大事なのか?」




すると南つばさはこちらの方を向き、やや呆れながら、




「当たり前じゃない。私の唯一の友達だし」

「別に圭じゃなくてもそのうちそんな存在に出会えてただろ」

「そう思ってたから、この年まで友達ゼロで来ちゃったんじゃない」

「……」

「私の17年間で初めて出来た友達なんだから、あんたとは覚悟が違うのよ」

「なんの覚悟だよ……」

「いい? 私には圭ちゃんの替えがないの。あんたも川島君は川島君でしょ?」

「まぁ……確かに」




そして、南つばさはスマホを確認した後、おもむろに立ち上がり、




「じゃあ私、クラスに戻るから」

「あぁ」

「早めに仲直りしなさいよ」

「喧嘩じゃねぇよ……」

「ふふ……」




そう言って、南つばさは校舎の方へと戻って行った。その薄荷のような香りも消えていく。袖を優しい風が吹き抜けるなか、俺は大きく息を吐き出して、



「圭ちゃんしかいない……か」





★☆★☆★☆




「ふぅ……」




風呂上がり。髪を乾かし着替えも済ました俺はリビングに戻ってきた。キッチンで水道水を一杯飲んだ後、俺はソファへと座り込む。




「菜月……」




ソファに置いておいた、スマホを確認すると、何故か菜月から着信があった。珍しい。風呂に入る前はこんな通知はなかったはずだ。俺は折り返す事にした。




「はーいお兄」

「おう、どうした」




電話越しの菜月も風呂上がりだったようで、ドライヤーの音がする。




「ちょっと待ってね」




聞こえていたドライヤーの音が消えた。風呂に入るタイミングも同じとはなんだか少し恥ずかしくなる。




「お兄?」

「ああ」

「お兄、体調崩してんの?」

「は? いや、全然」




声色からして菜月は、少し不安な様子だった。




「ふーん。いやさ全然SNS更新しないからどうしたのかなって」

「あぁ、まぁ別に」

「別にって、うちのクラスの子達も心配してるよ? 圭ちゃん急につぶやき君もエンスタも更新しなくなっちゃったって」

「あぁ」

「だから心配で電話したの」




菜月は本気で心配しているようだった。悪気のない事が分かった俺は素直に、



「ああ、ありがとな」

「うん……」

「それだけか?」

「まぁ……」

「湯冷めしないようにしろよ」

「しないよ、子どもじゃないんだし」

「そうか、じゃあ切るぞ」

「うん……」




通話を切ると、俺は流れでそのままスマホの画面を見た。文化祭の日以来、圭に関するSNSの通知は全て無視しておりアプリを起動させてもいなかった。というよりも見る気にならなかったのだ。




「…………」




昼間の南つばさといい菜月といい、何故こんなにも圭という存在を気にかけるのか。そんなにも圭という存在はあいつらにとって大切なのだろうか。




「……」




俺はスマホの画面から、つぶやき君のアプリを起動させてみた。圭のアカウント、一週間しか放置していないのに、かなり久しぶりに開いた気がする。




「……」




見ると、山のようなメッセージが送られてきていた。俺はその一つに目を通す。おそらくフォロワーからだろう、それは俺の健康を心配するような内容だった。




「元気だっつの……」




その他のメッセージにも目を通すが、どれも似たような内容だった。みんな、圭の安否が気になっているようだった。




「たった一週間だってのに……」




いつの間にか、俺は笑っていた。そして、フォロワーからの似たような励ましのメッセージをそのまま読み漁っている自分がいた。読み切れないほどの数のメッセージを一つ一つゆっくりと。




★☆★☆★☆★☆




「……」




読み漁って気がつくと、一時間は経っていた。沢山のフォロワーから同様の心配や励ましのメッセージが来ていた。どうやら俺のフォロワーというのはみんな良い奴らのようだ。確かに、あの日以来なんの前触れもなく放置してしまったから、心配する気持ちも分からなくはない。それまでは一日一回は、何かしらのアクションをしていたのだから、フォロワーも不安になってしまったのだろう。




「は……?」




流れで読んでいた所、あるフォロワーからのメッセージが不意に目に止まった。




『先日の文化祭で、失礼な事してすみませんでした。圭ちゃんの前で蒼井君に告白すると言った女子です。あの日の事を、謝りたくてメッセージを送りました』




明らかに玉井だ……。日付を確認すると、三日前に受信している。俺は急いで返事をした。




『圭です。こちらこそあの日はすみませんでした。突然の事でびっくりしてしまって……』




すると、メッセージを送って1分ほどで返事が来た。




『私、玉井唯と言います。返事ありがとうございます。あの時、急にあんな事を言ってしまってすみませんでした。ずっと心残りで出来れば実際に会って謝りたいのですが、嫌ですか?(怖かったら断ってくれて良いです)』




玉井の方からそんなお願いをされるとは思わなかったが言われた以上、俺は受け入れる他なかった。圭としての俺に玉井が何かを望んでいるのなら俺はそれに応えるべきだろう。




『一度お会いしてるし大丈夫です。私も玉井さんと会って少しお話ししたいです。今週の土日なら空いてます』



と、そう俺は返事をした。すると間髪入れずに玉井から返事が来た。




『わざわざすみません。ありがとうございます』


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