打ち上げ!②
「ふぅ……食った食った」
「めっちゃ食ってたなお前……」
「当たり前だろ、食べ放題なんだからさ」
時計を見るともう打ち上げも終わりの頃合いだろうか。俺と玉井との件を他所に、打ち上げはごく普通に楽しく流れて行った。話を聞くに今のクラスメイトのトレンドはどうやら、俺のやった圭のモノマネみたいだ。宴会中、何回も男女問わず、質問を受ける事となった。まぁやった事は事実だから、否定はしなかったものの見せろとのお願いについては勿論、全力で拒否した。
「つーか結局、今年は恭二が話題独占かよ。良いなあ」
「良くねぇよ……」
「元はと言えば、俺が企画したんだぜ? このネタ自体は」
「お前があの時、調子乗って無茶振りしなかったら良かった話だろ……」
「いや、あんな完成度のモノマネが来るなんて俺も予想してねぇからさすがに」
打ち上げ中、終始隣にいた信道は確かに少しだけ寂しそうだった。まぁそうだよな、みんな俺に色々聞きに来てたし、確かに寂しくなるのも分からんでもない。ただまぁ後半は吹っ切れたのかずっと食欲に走っていたように思えたが……。
「結局いつも、恭二が全て持って行くんだよなぁ」
「持って行くたくねぇっつの……」
「やっぱり持ってる側だよなぁ恭二は。俺と違って」
「それ褒めてんのか……」
信道との会話を他所に、やや離れた席で幹事の玉井が締めの言葉を述べている。クラスメイトはみんな、玉井を茶化しながらもちゃんと聞き入っていた。
「…………」
南つばさはうちのクラスのこういう所が羨ましいと思っているのだろうか。今まで何も気にしてはいなかったのだが、確かにうちのクラスはあいつの言っていた通り、割りと男女共に仲良しなのかもしれない。
「相変わらず締めの言葉なげぇな、玉井ちゃん」
信道がやや呆れながら、横でそんな事を言っている。なぜうちのクラスだけなんだろう。いやそんなのはもう分かりきった事か。俺は今、締めの言葉を述べている人物を改めて見つめた。
「って事で、1年はまだ半分残ってるから後半はもっとみんなで思い出作っていこうね!」
なんて、歯が浮くようなセリフを堂々と喋っても、何となくサマになってしまうのが、我らが学級委員なのかも知れない。クラスメイトが盛り上がっている中、最後に玉井は言った。
「じゃあ解散!」
その言葉にちらほらと、クラスメイトが席を立ち始めた。すると横にいた信道も立ち上がり、
「悪い恭二。俺この後、ハルさんと会うからさ」
「ああ」
そう言い残すと信道は足早に去って行った。信道も変わったなぁ……。もし彼女いなかったら絶対この後、じゃあゲーセン行くか恭二! ってな感じになるのにな。今やもう、ハルさん第一って感じだ。つーかデートの予定あんのにあんなに腹膨らませて大丈夫かあいつ……。
「あっ、蒼井君」
「お……おう」
信道の背中を見守っていた所、いつの間にか玉井が近くにいた。
「あれ? 川島とゲーセン行かないの?」
「あいつ彼女とこの後デートなんだって」
「あ、文化祭も来てたんだよね。みんなそんな事言ってた」
「あぁ、信道にしては普通な感じの子だった」
「へぇ良いなぁ。私も見てみたかった」
そうだよな確か玉井の奴、信道に彼女が出来たって聞いた時、えらい驚いてたもんな……。騙されてるとかなんとかって……。
「じゃあ蒼井君はもう帰る?」
「ああ」
「打ち上げの時、あんまり話せなかったし一緒に帰ろうよ」
やっぱりこうなるよな……。そして俺の脳裏に、告白すると宣言したあの時の玉井の姿が浮かぶ。俺は一瞬だけ考えたが、
「ああ」
と、自然とうなづいていた。すると玉井は笑顔になって、
「私、みんなの忘れ物確認で最後にお店出るからちょっと待ってて」
「ならここで待ってる」
「はーい」
そう言って玉井は自分の席の方に戻って行った。
☆★☆★☆★☆
クラスメイトも帰った後、最後まで残った玉井は、一通り全員の席を確認して、
「忘れ物なし!」
「じゃあ出るか?」
「うん」
玉井もバックを背負い、俺達は二人で店の外へと出る。
「うわ暑っつ……」
「うんざりするな」
もう9月も終わりに差し掛かっているのに、じめじめと蒸した空気が体にまとわりつく。何とかならないのだろうか、本当に。
「もう暗くなってる」
「そうだな」
日の沈みに関してはもう随分と早くなった。打ち上げ前はまだ明るかったのに、今はもう完全に日が沈んでいる。周りを見てももうクラスメイトは誰もいない。二次会でファミレスとかにでも行っているのだろうか。
「蒼井君は地下鉄?」
「いや」
「じゃあ私と一緒だ」
俺たちは自然と横並びになり街灯の下、歩いて行く。
「…………」
普段の俺なら何となく会話でも切り出しているのだろうが、今日はどうにも話が出てこない。何故か、そんなの決まっている。この後に待ち受けてる事があるからだ。
「蒼井君?」
「ん?」
「いや、なんか……ううん」
玉井にも見抜かれてしまったのか、不思議そうな顔をされてしまった。自分でも不自然なのは分かるのだが、どうにも緊張してしまう。
「なに? 緊張してるの蒼井君」
「いや別に……」
「まさか、私に告白? なーんて」
「……」
「って、蒼井君と私じゃこのボケは成り立たないか」
玉井はのんびりと歩きながら、優しく俺の方を見た。夜風にスカートがひらひらとなびかれている。
「そりゃ意識しちゃうよね蒼井君も」
「いや……まぁ……」
「文化祭の後で、私と二人きりだったらさ」
「……」
「しかも私から一緒帰ろって誘ってるしね」
なぜだろう。玉井の口ぶりはどこか気まずそうに感じられた。いや、どこか遠慮しているのだろうか。昼頃、圭の姿の時に宣言されたあの時と何か変わったのか? もしかしたら俺の態度が悪かったのか。告白されると予測が出来ているが故に少し構えすぎたのかも知れない……。そんなのは駄目だ。俺のフライングなんかで玉井が遠慮してはだめだ。玉井はおそらく、今日この日を待っていたのだ。答えはまだ決めきれてないものの、俺はちゃんと玉井の覚悟を受け止めなければならない。
「なぁ玉井……なんかあるんだろ……。遠慮しなくて良い」
俺の言葉に玉井はくすっと儚げに微笑んで、
「今日ね、実は圭ちゃんに会ったの」




