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俺と私と片瀬真夏②

「悪りぃな恭二、先帰るわ今日は!」

「おう!」



授業が終わり、クラスメイトが散り散りになる。信道はバイトのようだ。俺もバッグを背負い教室の外へと出る。廊下へ出ると、女子の集団が目に入る。その輪の中心には南つばさがいた。相変わらずの人気者だな……。ぼんやりと彼女を眺めながら通り過ぎると、南つばさと目が合ってしまった為、俺は慌てて視線を外す。



「あっ! ねぇ蒼井君! 3組ってもうホームルーム終わっちゃった?」

「え、あぁ……今さっさな」



学校のマドンナがいきなり俺に話しかけた事により、取り巻きの女子共が一斉に俺の方へと振り向く。なんだよこいつ……何がしたいんだよ。そして周りが俺に視線を向けているからか、ここぞとばかりに南つばさは表情を変えて、お馴染みである性格の悪い微笑み浮かべている。してやったりとか思ってんだろうな……。



「加奈子ってまだいた?」

「あぁ、いた気がする」

「ありがとう! みんなまた今度ね、ちょっと加奈子に用事があるんだ」



南つばさはそう言って取り巻き達を颯爽と振り払ってこの場から去って行った。



「へー、蒼井君ってつばさと面識あったんだ」

「な、なんだよ」



よく知らない女子が俺に絡んできた。南つばさの取り巻きとあってか、なんかこの女もかなり可愛い。



「ううん、別に。会話してる所見た事なかったからさ」

「会話らしい会話なんてしてねぇよ、今みたいな程度だ」

「ふーん」

「変に勘繰るなよ」

「つばさから話しかける男なんて滅多にいないからさ不思議に思うじゃん。あと蒼井君が来た瞬間、なんかつばさの態度変わったし」

「ただ単に、3組の奴を探してただけだろ。そんなむりくり結びつけようとしないでくれ」

「ふーん」



女子生徒は不敵に笑う。



「最近つばさがやけに3組に顔出す意味が分かった気がする」

「言っとくが俺は関係ないからな」

「わかってないなー、蒼井君」

「…………」



ばつが悪くなって俺が口を閉じていると、その女子生徒は楽しそうに微笑みながら、背を向けていく。なんだよまじで……どいつもこいつも面倒くせぇな。




★☆★☆★☆




最寄り駅の改札を抜けると雨は止んでいた。学校を出る前は少し降っていたが、運が良かった。俺は出し掛けた折りたたみ傘をバックの中へと戻す。



「あっ、恭二」



声の方へ振り返ると、真夏がいた。こいつも学校帰りか。真夏はイヤホンを外しつつ俺の元に近づいてくる。気まずいな……。駅から帰る方向も一緒の俺は否応なく、足踏みを合わせざるを得ない。そして曇り空の下、俺達は線路沿いを歩いていく。




「今日は部活じゃないのか」

「うん、雨降ってたからグラウンド使えないしね」

「ふーん」



そう、真夏は中学の頃からずっと陸上をやっている。小さい頃の印象ではそんなに運動神経は良くないものと思っていたが、菜月から聞く限りどうやらそこそこ凄いらしい。ちなみに俺は真夏がどの種目をやってるのかすら知らない。俺が居心地悪そうにしてるのが伝わったのか真夏は口を開く。



「テストはどうだったの恭二」

「いつも通りだ」

「だよねー、私もそう」

「真夏は成績良いから御の字だろ。俺はもう少し頑張らないと」

「まぁ恭二から見たらそうかもねー。でもそれを言うなら、つばさちゃんから見たら私だって頑張らないとさ」

「学年1位から見たら誰だってそうだろ」

「あはは」




水溜りを避けるようにして俺達は歩いていく。真夏のポニーテールが風になびかれる。どうにもいつもの調子で言葉が出てこない。理由は決まっている。もちろん昨日のアレだ。真夏の表情がいつも通りの為か余計に意識してしまう。




「そういや恭二、昨日のカレー食べた?」

「へ? あぁ……食べたよ」



脈絡なく、いきなり核心をついてきた問いに、俺はつい引きつった声を上げてしまった。とっさに俺は続けて、


「あぁそうだ、おばさんにごちそうさまって伝えといて」

「ちゃんと渡してくれたんだね、あの子」

「あぁ……まぁ……」

「あたし超意識されちゃってたよ、あの子に」



さすが真夏だ。自然な感じで話題に入られてしまった。気まず……。気まず過ぎて吐きそう……。家族でタイタニックの交わるシーン見てる時くらい気まずい。どうする……なんて言い訳しよう……。くそ、こんな事になるんだったら最初から、何か言い訳を用意しておけば良かった。俺は必死に頭を回転させて、




「つぶやき君で知り合った子で……別に変な関係じゃない」

「何の話?」

「昨日の女の子だよ」

「はは、別に私何も聞いてないじゃん」

「いや……気になってるかと思って」

「まあ、気になってはいるかなー」



俺はおかしい事言ってるのだろうか……。真夏は嫌な笑みを浮かべつつ試すような瞳で俺を見つめる。




「だろ? だから話した」

「恭二好みの可愛い子だったよねー、会った瞬間思ったもん、うわ恭二が好きそうなタイプだって」

「…………」

「別に付き合ってるんなら、隠さなくて良いじゃん」

「だから付き合ってねぇよ」

「付き合ってないのに、連れ込むんだ」

「そ……それは……」

「恭二も大人になったねー」

「と……とにかく、あいつと俺は真夏が思ってるような関係じゃねぇよ、信じてもらえないかも知れねぇけど」




自分でもバカみたいに慌ててるのが分かる。でも言えねぇだろ、昨日会ったのは女装した俺だったなんて……。畜生……。真夏が終始半にやけな表情で俺を見つめている。勘弁してくれよまじで……。



「嘘はついてなさそう……か。まぁ昔から恭二は嘘つくのが下手だったしね」

「悪かったな」

「あと、異性には奥手で鈍感だしねー」

「あー言ってろ言ってろ」

「せっかく私みたいな可愛い子が近くにいるのに、他の子にうつつを抜かすんだもんなー」

「……」

「なーんて」



真夏は俺の表情が面白かったのか、楽しそうに笑っている。こうなる予感はしていたが案の定ずっと真夏のペースだな。信道は知らないだろうが真夏はこうやって昔から俺をイジるのが大好きなんだよな……。いかんせん外面が良い為かみんな勘違いしているが……。そしてこうなっちまったこいつには昔から頭が上がらない。しかし、タイミングの良い事に、ここで分かれ道に差し掛かってくれた。




「ふふふ、じゃあね恭二また明日。あんまり羽目外し過ぎないようにね」

「外してねぇつのっ!」

「あはは!」




女の中では、低い真夏の笑い声が背中に当たる。真夏の奴、俺の言い訳にどう思ったのだろうか。考えてみるも分からない。予想も付かなかった。俺は真夏の事を知ってるように見えて、案外何も知らないのかもしれない。あるいは、真夏が俺の思っている以上にやり手なのかもしれないが。俺の心はこの頭上の空と同じく鈍色のまま固まっていた。

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