表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/123

文化祭!④

取り巻きの呼び掛けを聞いて隣にいる南つばさは、一瞬だけうんざりしたような表情をするもすかさず、


 


「あ、みんな!」




南つばさの返事に取り巻き達は近づいてくる。そして一斉にその視線が俺の方へと向けられる。夏休み前に渋谷の喫茶店で鉢合わせた奴らとはまた違うメンバーだった。じろじろと俺を見る取り巻きの代表っぽい女子が、


  


「この子がつばさの言ってた友達?」

「そうそう! 前に話してた他校の子」

「そうなんだ」




なんか居心地悪い……。すげぇ見られてるし……。するとその取り巻きの代表が何気なく、




「可愛い……」

「いえ……その……」

「細いし、おしゃれだしさすがつばさの友達って感じ」

「えっと……」




どうしよう……下手に会話してもバレるかも知れないしな……。俺が戸惑っているのを汲んでくれたのか、南つばさが、




「まり、この子人見知りでさ」

「ああっ、ごめんね。つばさの言ってた子を見たかっただけで邪魔するつもりはないよ」




と、そう言って取り巻き達は俺から視線を外す。つか、こいつらも南つばさとつるんでるだけあって普通に可愛いけどな……。




「ごめんねまり」

「ううん全然! じゃあ私達行くね!」

「うん!」



取り巻き達が俺に手を振ってくれた為、俺も手を振りかえしつつ彼女達を見送る。十分に距離が離れた後、ふと横にいる南つばさが、




「午後は友達と回るからって、再三言ってたのに……」

「あはは……ゆちゃん人気者だね」

「まぁ、他校の子って言われて気になる気持ちも分かるけどさ」

「うん」

「私だけの圭ちゃん……他の子に見せたくないのに……」

「まぁ……その……しょうがないね……?」



また、物騒な事言ってやがるこいつ。俺はお前の物じゃねえっつの……。まぁ圭として懐いてくれている事は嬉しいんだけど……。俺が励ますように微笑み掛けると、南つばさも喜んで、




「でも、顔バレしなくてよかったね!」

「うん。ヒヤヒヤしたー」

「あはは」




★☆★☆★☆★☆





「あー、まじ漏れるかと思った……」





南つばさと校内を見回っていたのだが、用を足したくなった俺はひとり旧校舎のトイレにいた。いくらこの格好だからといって、正直なところ女子トイレは抵抗があった。かと言って勿論男子トイレにも入れまい。それに人目につくところも困る。その為、必然的に俺が使えるトイレは決まっていた。旧校舎の男女兼用多目的トイレだ。ここなら人も滅多に通らない。用事を済ました俺は最後、鏡で見た目を確認しトイレを出る。すると、その瞬間スマホが震えた。俺は通知を確認する。




『圭ちゃん迷ってないよね?』

『なんか、通り過ぎてたみたいで遠い方のトイレに行っちゃってた……』

『り! さっきの場所にいるよー!』



南つばさに不自然に思われないよう、大回りで旧校舎に来た為か時間が掛かってしまったのだ。案外待たせてしまったのかも知れない。これ以上待たせるのもアレなので、俺は少しだけ早足で、この誰もいない旧校舎の廊下を進んでいく。




「暑っつ……」




放置され窓一つ開いていない旧校舎の熱気は、本当に耐えられない。俺は急いで廊下を抜ける。そして出入り口で再度靴を履き、建屋を出た。その刹那ーー




「圭ちゃん、ですよね」




不意の呼びかけに俺は反射的に振り向く。




「え?」




そこには玉井がいた。何故だかは分からない。それにどこか、神妙な面持ちをしている。辺りには勿論誰もいない。俺の表情から察したのか玉井がおもむろに切り出す。



「あの……いきなり声掛けて、すみません」

「いえ……」

「私、実行委員なんで万が一の時、パニックにならないようにって南さんから事前に圭ちゃんが来る事聞いてたんです」





そんな根回しまでしてたのか、あいつ……。手厚いのか、心配性なのか……。俺はおそるおそる玉井に、




「ファンの方ですか……ね?」




玉井も圭のフォロワーなのだろうか……。こいつのタイプ的にはあまり圭を知っているようには思えないが……。俺の問い掛けに玉井はあまり顔色を変える事なく、





「蒼井恭二君って知ってますか?」





突然、そんな言葉を切り出した。ダメだとは思いつつも咄嗟に自分の名前を出された俺は、少しうろたえてしまった。




「やっぱり、知ってるんですね」





そのゆるく結った三つ編が夏風に揺れる中、玉井は真剣な様子で呟く。おそらくこいつも何となくは察していたのだろう、俺と圭に繋がりがある事を。そして、俺が何と言葉を返そうか迷っていたところ、玉井は言った。





「私、蒼井君の事が好きです。今夜、文化祭の打ち上げで彼に告白します」





真っ直ぐと玉井は俺の目を見てそう言った。その声色は懸命で、それに少しだけ震えていた。そんな言葉を前に、俺は案外冷静にそれを受け入れる事が出来ていた。何故だろう。2回目だからだろうか。夏休み中にあった、玉井からのあの『好き』という言葉。あれが引っかかっていたのだ。あの場では告白じゃないとは言われたものの、誰だってあのままで終わるとは思わない。俺の心の隅で玉井から言われたその言葉がずっと生きていたのだ。そして玉井は止まらずに、




「もしお二人が既に付き合っていたのなら、すみません。でも自分の気持ちに嘘も付けないので、事前にお伝えしました」

「…………」




なんと、答えれば良いのだろう……。正直なところ、変に嘘をつかず、付き合っていないと答えたい。けどなぁ……真夏には俺と圭が付き合ってるって言っちゃったんだよな……。玉井と真夏は割りと顔見知りっぽいし、万が一俺のいない場面でその話題になったら、どちらも嘘だったのかとなってしまう。まぁ……それを言い出したら圭という存在そのものが嘘になるのだが……。




「すみません……初対面なのに、いきなりこんな話して……」

「い……いえ……」




俺の困った表情を見て、玉井もどこか顔が強張っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ